第24話 おはようニスコ
その夜。
ニスコの部屋では、いつものようにニスコはいちごのクッションを抱えてくつろぎ、エイタルバは訓練をしていた。
「今日も、泥棒さんが何人も来たそうですわ」
「夜もっ……はぁはぁ……侵入しようとした奴らがいたとかっ……はぁはぁ」
「このニスコ様のところまで来られる人はいないのですか? 来られないのなら、面白くありませんわ」
「
「今日までの輩は、何も考え無しで突っ込んでると思いますわ。勝負は最終日の明日だと思いますの」
「それはっ……はぁはぁ……楽しみですっ……うっ……」
呼吸の荒いエイタルバは、限界が近付いていた。焦点の合わない目でニスコの顔を見つめる。
「お嬢様、もう我慢出来ません……はぁぁっ……脱いでもいいですか?」
「いいですわ。脱いで、己を解放しなさい」
「ありがたきお言葉。それでは」
エイタルバは勢いよく脱いだ。
――被っていたクマの着ぐるみの頭を。
「ふはぁ……暑すぎます。ちょっと全部脱ぎますね」
「エイタルバ。疑問なのですが、なぜ訓練中にクマの着ぐるみ着ているのですか?」
訓練前に訊かずに今更? と思いつつ、ニスコは訊いてみる。
「クマの着ぐるみを着ている時にお嬢様をお護りする場面が有るかと思いまして」
「エイタルバが着ぐるみを着るって、どんなシチュエーションなの?」
「万が一を考えて」
「無いですわぁ。一生来ない。あなたがメイド服着る方が、まだ有り得ますわぁ」
エイタルバは脱げるところまで全部脱いだ。今は揺れを抑える為の黒いスポーツブラと、布ずれの起きにくい黒のシームレスショーツ姿。はしたないと言われるかもしれないが、暑すぎて限界だった。怒られるのは覚悟だ。倒れるより怒られた方が、まだいい。
「ふぅ……生き返る」
タオルで汗を拭いていると、ニスコがエイタルバをジッと見ている事に気付く。
「すみません、お嬢様。はしたなかったですか?」
「ううん。その姿の方が、まだ可能性が有りそうと思って、ね」
「え!?」
まさかの発言に、エイタルバの動きは止まった。今の姿は、スポーツ寄りとはいえ下着姿。この部屋や脱衣所や更衣室以外で、この姿になる時があるのだろうか。
(着ぐるみ姿より無い!)
と、エイタルバは納得がいかない。
「よしっ! その姿で訓練ですわ」
「お、お嬢様!
エイタルバは戸惑いつつ止めようとする。ニスコの性格的に止められる確率は低いが。
「その姿の時に襲撃されたら、困るのはあなたですのよ?」
「それ、どんな時に襲われるんですか!」
「例えば………………まぁ、きっと有るから!」
「やっぱり無いじゃないですか!」
「ほら、今とか」
――集中!
感覚を研ぎ澄ませ、周辺の気配を探る。周囲はメイドの気しか感じない。
それ以外の気配が無いのを確信すると、気を緩めた。
「不審者はいないようですが?」
「さ、訓練始めましょっ」
ニスコは無視してエイタルバの手を取った。
「ちょ、お嬢様ぁ!?」
今夜も、ニスコとエイタルバの秘密の訓練が始まった。
翌日。
ニスコの屋敷は平和な朝を迎えていた。
目の覚めたエイタルバは身体を起こす。昨日の秘密の訓練で(主に精神面で)疲れ果てていたが、一晩でなんとか回復したようだ。「疲れていたので護れませんでした」なんて言い訳は出来ない。
横でまだ眠っているニスコを見る。レディというよりはまだガールという言葉がふさわしい顔は、安心しきった姿を見せている。
(自分はお嬢様を護る為に、この屋敷に来た)
使命は最後まで果たしたい。
「ん……」
ニスコの瞼がゆっくりと開いていく。お目覚めの時間だ。
「……おはよう、エイタルバぁ」
少し寝ぼけ気味な声がした。ニスコは朝が弱い。
「すみません、お嬢様。起こしてしまいましたか?」
「いいよぉ……そろそろ起きる時間のはずですし」
とは言いつつも、ニスコの瞼は重い。完全に寝ぼけてる。これはほっとくと、二度寝コースだ。
「お嬢様、ベッドから降りましょう。目を覚まして下さい」
「分かりましたわ……」
いちご柄のベビードール姿のニスコは、ゆっくりと床に降り立った。床に立っても眠そうで、ふらふらとしている。
一方、大きめのシャツ一枚のエイタルバは、スタッと床に降り立つ。
「それではお嬢様、身体を動かしましょう」
寝起きのストレッチは、エイタルバにとっては日課。元々はエイタルバだけがやっていたが、ニスコの寝起きがすこぶる悪いので、一緒にやるようになった。
身体を動かしてようやくニスコも始動。
朝食や朝の準備を終えて、宇宙船で学校へと向かった。
主の出かけた屋敷では、メイドたちが家事全般を行う。洗濯、掃除、ベッドメイク等等。
庭は庭師が手入れ。客が屋敷に来て最初に見られるのが庭。常に最良の状態を保つ。
入口の門には、三人の門番。一人は車両が出入りする際に、不審者等いないかチェックする。普段はそこまで厳しくはしていないが、事情が事情。人員を増やしていた。前日は納品の車にくっ付いて入ろうとした輩がいた。もちろん、取り押さえられた。
今も一台の幌トラックが、チェックを受けている。門番の一人が地面に伏せてトラックの下を確認。荷台もチェック。別の門番は、中年ドライバーの顔を見ていた。
「何? 俺に惚れたの?」
このドライバーはよく納品に来るが、顔を見つめられたのは初めてだった。
「俺、家族いるんだよ。門番が不倫とか、いいのかい?」
「違う! 変装している可能性も有るからな」
門番は厳しい口調で話す。
「だが、この軽い感じ。その調子なら変装では無いな」
「俺のこと、ディスってない? 大丈夫?」
「大丈夫だ」
「ニスコ様のアレで疲れてるんじゃない? ゴーヤやズッキーニを使ってスッキリしなよ」
「使ってスッキリ……とは?」
門番は眉間にシワを寄せる。
「決まってんだろ。料理だよ。ビタミンCが豊富で、疲労回復に役立つよ。なんだと思ったの?」
「うるさい!」
車をチェックしていた門番がサインを出す。それを確認して、
「よし、通れ!」
誤魔化すように言う。
「へーい」
幌トラックは開放された門を通過し、敷地内へ入る。トラックが厨房が有る方へ進んでいくと、勝手口付近で荷受のキッチンメイドが仁王立ちで待っていた。
「よお、持ってきたよ」
中年ドライバーはトラックを停めて後方に回る。
「あり?」
リアのカーテンシートを止めるゴムバンドが外れているのに気付いた。きっと、さっきの点検の時だろう。
「んもー、ドジっ子さんだなー。ちゃんと止めてよねー」
文句を言いながらも、ドライバーは荷下ろしを始めた。
その頃、門の前には一台の車がやってきた。
予定には無い乗用車。門番に緊張が走る。
運転席から一人の男が降りてくる。
この地に、この男がやってきた。
「俺様は銀河警察だ!」
ヒョーロックである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます