第23話 カシアードの夜は更けて

 剛の者の発言で、門番二人はさらに警戒を強めた。

「お前のようなメイド志願者がいる訳ないだろ。帰れ!」

「ニスコ様を狙う泥棒だろ。帰れ!」

 門番に責め立てられた剛の者はうつむき、ワナワナと震えている。

「――バレたら仕方無い。こうなったら、強行突破だあ!」

 と、門を突き破ろうと門番に向かって突進した剛の者。

 次の瞬間、地面に倒れていた。

「???」

 何が起こったか分からない剛の者。

 しかし遠くで見ていたキャラメルたちは、門番の華麗な手さばきで一回転した剛の者が地面に叩き付けられる姿を見ていた。

「おみごと」

 キャラメルは思わず小声で褒めてしまう。拍手まで付けそうになったが、それをするとさすがに存在がバレる。

「駐在さんに連絡だ!」

「はっ!」

 門番たちの動きが慌ただしくなる。

「顔を見ている駐在が来るとやっかいだ。一旦帰ろう」

「そうねぇ」

 駐在さんとは顔を合わせたくない。キャラメルたちは一旦退く事にした。


 日が落ちた頃、キャラメルたちは駅前の大衆酒場にいた。小さな店だが満席。地元の常連客だけでなく、同業者がいる様な気がしてならない。

「それじゃあ、乾杯ぃ」

「乾杯」

「かんぱい」

 キャラメルとコフカは大瓶ビールで大人の義務教育。呑んでいいか分からないシロタマは無難に緑茶でスタートする。

「呑みすぎんなよ。船まで帰るんだからな」

 一気にグラスを開けて一息つくコフカに、キャラメルが釘を刺す。

「いざとなったらシロタマちゃんに頼るからぁ、大丈夫よぉ」

 もう酔ってる?

「シロタマ、こういう大人になるんじゃないぞ」

「弱いところも見せてくれるオネエサン、ステキ!」

「ダメだ、こりゃ」

 完全にコフカの信奉者だよ。例え路上を全裸で歩いてたとしても「何も包みかくさないオネエサン、カッコイイ!」と褒めそうだ。


「それで、明日はどうするの?」

 焼き鳥の砂肝を噛じるコフカが訊いてきた。独特の歯ごたえの有る食感がクセになる。

「もう少し探りを入れてみようと思う」

 キャラメルは鳥唐揚げ。レモンの香る醤油で味付けしている。

「…………」

 シロタマは枝豆に夢中。食べ始めると止まらないんだよなあ。

「探りって、また暑い中歩くの?」

 コフカはうんざりといった感じ。

「いや、本格的に探るから、オレ一人でいい。ゾロゾロ行っても怪しまれる。コフカは船でお留守番して、シロタマの相手してやってくれ」

「コブン、お留守番?」

 シロタマは枝豆を食べる手を止めて訊く。

「ああ。しっかり身体を休めていてくれ。入られるかどうかは明日調べてからだが、入られるなら今回はちょっとハードになるんじゃないかな。あと、船にコフカだけ残すのも不安だし」

 そっちが本音。

「コブン、分かった」

 カシアード一日目の夜は、静かに更けていく。


 その頃、ニスコの屋敷。

「エイタルバ。早速今日、泥棒さんが来たそうですね」

「え!? 今日もお嬢様と一緒に一日過ごしただけで、姿は見ませんでしたが?」

「門番が撃退したそうですわ」

「ちょっと見てみたかったですね。本物の泥棒とやらを」

 ニスコとエイタルバがいるのは、浴室。スーパー銭湯かと思うような広い浴室では、何も包み隠さず、話し合える。

「エイタルバは門番を突破しちゃう泥棒さん、来ると思いますの?」

「来るでしょう。でも、それまでは駐在さんが忙しい日々が続くと思います」

「期限がすぎたら早々と勝利宣言を出して、駐在さんにはまた平穏な日々を送って貰うしかありませんわ」

 ニスコの中では、すでに勝利は確定している。それまでに駐在さんがどれだけ忙しいか、という問題だけだ。

「そうすればまた、エイタルバとの日々が」

 そう言いながら、ニスコはエイタルバをそっと抱きしめる。

「お、お嬢様っ。辱めはやめてください」

「エイタルバのそのすぐ恥ずかしがる性格、直さないといざという時にわたくしを守れませんよ? これは特訓ですわ」

「わ、分かりました」

 ニスコとエイタルバの秘密の特訓は続く。


 キャラメルたちがカシアードに来て二日目の朝。昨日はベッドをコフカとシロタマに譲り、キャラメルは寝袋で眠った。ベッドに三人行けそうではあったが、やめておいた。

 キャラメルは二人が起きる前に目覚めた。二人が起きる前に出たかったので、出かける準備をしていた。

 だが出ようとしたところで、寝起きでランジェリー姿のコフカと出会う。

 一番会いたくなかった。

「あら、かわいい」

 キャラメルの姿を見たコフカが一言。キャラメルは大きめのポロシャツにゆるめのカーゴパンツ、長い髪はまとめてキャップで隠していた。いつもと違うコーデというだけで、雰囲気もガラリと変わる。

「かわ……いや、いいんだよ」

 やはりかわいいと言われるのは慣れない。これを言われるだろうから、早く出たかったのだ。というか、かわいいコーデにしたつもりはなかったのだが。

「そういうコーデも出来るんじゃなぁい」

「変装用だよ」

 ゆるめの服を着ることで、体型を隠している。目撃者に印象を残さない為だ。

 ただ、ぶかぶかで動きづらい。キャラメルはあまり好みでは無かった。

「んじゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃぁい」

 キャラメルはニスコの屋敷周辺へと出かけた。

 屋敷に関する情報を手に入れる。どうも、昨日見た剛の者以外にアタックをかけた者がいるようだ。だが、成功したとは聞かない。

 キャラメルは門の様子や屋敷周りを囲む塀を確認。出入り業者などをチェックして、この日の活動を終える。


 そして船へ帰るなり一言。

「最終日、決行するぞ。プランAが出来た」

 プランは決まった。

「プランBはぁ?」

 コフカが訊いてくる。

「あ? そんなもん考える暇有るなら、プランAを練り上げて成功率を高める」

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