第21話 田舎女子泥棒

 オルバート二世が高度を下げていくと、カシアードの町並みが見えてきた。中央に鉄道が通っており、駅が見える。駅を中心に集落が広がっていて、駅の左右には田畑の中に住宅が建っていた。

 駅左の集落を上の方からぐるっと回って下の方へ線路が伸びており、その先には倉庫のような物が建っている。

 駅右の住宅街は外れに大きな庭と大きな屋敷が見える。きっとあれがニスコの家だろう。

「普通の町にしか見えないな。あの端のデカいの以外は」

「そもそも、カシアードってどんな星なのぉ?」

『はいはーい! このAIの出番ですねー』

 と、元気な声が聞こえてきた。

『新興惑星カシアードは、新興住宅地の惑星ですねー。開発はレイソングループが行っていますー。ここには元々レイソングループで製造している弾薬の保管庫が有って、その流れで宅地開発もしているみたいですー。建売住宅は『月々のお支払いは家賃並み』で買えるそうですよー』

「弾薬の保管庫って、あれか?」

 あれとは、左下に見える倉庫っぽい建物だ。まさか畑に埋めて保管してる訳ではあるまい。

「ねぇ、その弾薬で私たち撃たれたりしないよね?」

 コフカが不安に満ちた目でキャラメルを見てくる。

「その危険性はいつでも有るだろ」

 やっている事を考えれば、いつ撃たれてもおかしくは無い。

「まずは町の様子を見るか」

 シロタマはオルバート二世を町の南側に有る山の近くに着陸させた。もう少し南へ離れた場所に公共の駐船場が有ったが、今回は三人いるのでバイクが使えない。なるべく町に近い場所を選んだのである。

「自然豊かな場所ねぇ」

「待て待て待て」

 背伸びをしながらタラップを降りようとしていたコフカを、キャラメルは制した。

「なに?」

「『なに?』じゃない。その目立ちすぎる格好をなんとかしろ」

「え?」

 コフカが自分を見下ろすと、そこには光を反射して光る紫のドレス。

「そんなに派手じゃないでしょぉ?」

「派手だよ! もっと目立たないようにしろ」

「んもう……服はたくさん持ってきたからいいけど……。倉庫借りるねぇ。そこにあるから」

 と言うと、コフカは倉庫の方へと歩いて行った。そう言えば、チカモールで大量の荷物を運ばせてたな。あれら全部服なのだろうか。ドレスのような服が多いから、あの量になったのだろうか。かさばらない服にすればいいのに。


 キャラメルとシロタマがカシアード探索の準備を終えてタラップのところで待っていると、

「おまたせぇー」

 とコフカがやってきた。ドレスとは変わって白いキャミソールにアンクルパンツ、足元はサンダルといった涼しげなコーデ。

「ちょっと派手すぎたぁ?」

「……いや?」

 コフカの派手さ基準がよく分からない。衣装はいつものドレスの方が派手に見えるが、今の姿はコフカのスタイルの良さが際立って、別の意味で派手だ。

 結果、何を着ても目立つ。

「オネエサン、カッコイイ!」

 シロタマは大喜び。ホント、コフカが好きだな。でも憧れる対象は選ぼう。

 コフカがキャラメルをじっと見ていた。

「なんだよ」

「キャラメルちゃんは、もっと色んななコーデを試したりしないのぉ?」

 コフカはあまり姿の変わらないキャラメルを疑問に思う。

「……オレはいいんだよ、オレは。いつ何が有るか分からんからな」

 否定をすると、コフカがスっとキャラメルの前に立つ。

「なんだよ」

 改めて目の前に立たれると、コフカは背が高いと実感する。思えば、今回長い時間コフカと一緒にいるが、コフカの事はよく知らない。

 付き合いが短いことを差し引いても、だ。

 コフカより付き合いの長いシロタマだって、知らない事は多いが、コフカの名前だけはシロタマ以前より知っている。あの頃は、暑苦しい奴だと思っていた。

 今では――今では?

 そう、今では、

(変な奴)

 そう思っている。その相方のナップは一生、見方は変わらないだろう。存在が暑苦しい。

 変な奴コフカと目が合った。コフカをマジマジと見るのは初めてだが、綺麗な顔立ちをしている。美人と言われる部類だろう。瞳に吸い込まれそうな気がする。

「な、なんだよ」

 キャラメルは少し気恥ずかしくなった。

 コフカはそっと、キャラメルの頬に手を当てる。

「こぉんなに素材がいいのにぃ」

「いや、いいんだよ! 行くぞ!」

 語気を強めたキャラメルは、先にタラップを降りて行く。

 赤くなった顔を見られたくなかった。


 三人はオルバート二世から離れ、駅が見えた方へと歩いて行く。周囲は田畑が広がり、背の高い物は樹木と山だけ。日差しを遮る物が殆ど無い。足元のアスファルトからは、灼け付く熱気が立ち上る。田畑の間に住宅が点在していて、人は誰も歩いていない。

「暑い……」

 そんな暑さで最初に音を上げたのは、先頭を歩くコフカだった。

「早くね?」

 歩き始めて、そんなに経ってない。露出した小麦色の肌からは、汗がにじみ出ていた。

「バスとか無いのぉ?」

「走ってるように見えるか?」

 歩いて来た道に、バスが通っているなら必ず有るバス停なんて見当たらなかった。

「というか、暑いの好きなんじゃないのか?」

「熱いのは好きぃ。暑いのは苦手ぇ……」

「変わらん気がするが?」

「ぜっっっんぜん違う! あっ……余計暑くなってきた」

 腕をだらんと下げて背中を丸めて歩くコフカ。

「シロタマは大丈夫か?」

 とキャラメルが振り返ると、シロタマは涼しい顔をして歩いていた。

「平気」

「そっか。ああなるんじゃないぞ」

 と、親指でダラダラと歩くコフカを指さす。シロタマはあまり変な方向に育って欲しくないと思っている。

「オネエサン、カンペキじゃないところもカッコイイ」

「駄目だ、こりゃ」


 三人はさらに歩みを進める。

「あっ……」

 先頭を行くコフカから声が聞こえてきた。

「どうした?」

「誰か来る」

 コフカの目には遠くにいる人影が飛び込んでいた。それを見て背筋を伸ばす。だらしない姿は他人に見せたくないらしい。

 揺らめく人影は、こちら側へと近付いている。そのスピードが思ったより速いと思ったが、ヘッドチューブの上に砲弾型前照灯が付けられた白い実用自転車に乗っていた。

 そして乗っている人は、よく見知った制服に身を包んでいる。

「えっ……警察ぅ?」

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