第20話 さんにんのAIランド

 キャラメルとシロタマの二人は、オルバート二世の中にいた。新興惑星カシアードへ向けて出発する為の準備中である。二人は倉庫内で確認作業をしていた。

「食料はある程度用意していこう。向こうでどうなるか分からんしな」

「あいさ!」

「ふぅーん。新しくて、おしゃれな船じゃなぁい」

「カシアードって遠すぎて、ワープ一回じゃ行けないんだよな?」

「ワープ二回。オヤブン、よってリバース」

「呑むの? 盛り上がりすぎじゃない?」

「不思議と、この船だとあんま酔わないんだよなぁ。ワープ装置がいいのかな?」

「オヤブン、ケチすぎてボロ船乗ってたから」

「ボロ船? 興味有るんだけど」

「ちょっと待て! なんでコフカがいるんだよ!」

 キャラメルは無視しようとしたが、ちょいちょい聞こえる声に我慢出来なくなった。

 今、倉庫に三人いる。

 キャラメルとシロタマ、そしてここにはスパンコールがキラキラ光る紫のドレスを身につけたコフカがいる。

「えー、二艘で行くより一艘の方が良くなぁい?」

 紛れ込んでいるコフカは、全く悪びれていない。

暑苦しい奴ナップはどうした?」

「今回パスだってぇ。チカモールは快適に筋トレ出来るからって」

 ナップのヤツ、親父ジジイの罠にかかったな。

「ていうか、三人いけるのか? コックピットのシート、二つしか無いだろ」

「オヤブン、増やせばいい」

 シロタマが当然の事のように言う。

「増やせるのか?」

 キャラメルが訊くと、シロタマは頷いた。

「予備シート、ある」


 キャラメルとシロタマとコフカの三人はコックピットへとやって来た。出発準備はまだまだ続く。

 シロタマが操縦シートに座って起動キーをセットし、機器をいじり始めた。

「へぇー、なかなかいいシートじゃなぁい」

 もう一つのシートに、コフカが深く腰かける。

「これなら快適な宇宙の旅になりそうね。私の船より座り心地がいいぃ」

「この予備シートなんか、薄くて硬いぜ。さすが予備」

 と、キャラメルはパイプイスに座る。

「って、待て! これ予備シートとかじゃあ無いだろ!」

 キャラメルはそう叫んで、すぐに立ち上がった。

 パイプイスはパイプイス。決して宇宙船のシートではない。そもそも床に固定されていないし、シートベルトも付いていない。

 誰がどう見ても、シロタマが倉庫から持ってきたパイプイスだ。

「前の飼い主、それにクッションしいて座ってた」

「それ、停まってる時だろ! 飛ぶ時に座ってたら、オレも飛ぶ!」

「イスをカベにつければ……」

「あーこれで後ろに飛ばな――前に飛ぶ!」

『予備シートですかー?』

 突然、コックピットに可愛らしい声が響いた。

「なになに? 幽霊? 変な声が聞こえたんだけどぉ?」

 青ざめたコフカが周囲を見回す。コックピットには、この三人。他には誰もいない。あんな声を出す人は、この場にいないはず。

 だが、このような状況でもキャラメルとシロタマは動じることなく、平然としている。

「AIだ。この船の」

『こぉーんにぃーちはぁー』

「うるせえよ」

『AIだよ』

「知ってるよ」

「AI搭載って、凄いじゃない。こんなの初めてぇ」

「新しい船なら大体載ってるだろ。知らんけど」

 そう言うキャラメルも、最初に声を聞いた時はコフカと同じような反応をしていた。

 オルバート二世のAIはサポートで活躍してくれる。基本、乗組員が困っている時にしか関与してこない。シロタマがオルバート二世を操縦出来るのも、AIのお陰である。

(これなら操縦出来るのでは?)

 とキャラメルも挑戦してみたが、教習所教官並に注文や苦情が多かったので、オルバート二世の操縦はシロタマに任せる事にした。

 なお、AIの声がアニメ声なのは、アディアムの趣味らしい。

 あのおっさん、そっち系か……。

「ところで、予備シートがなんだ?」

 キャラメルは話を本題に戻す。

『そうでしたー。予備シート、付いてますよー』

 AIがそう言うと壁の一部がパタンと倒れ、簡易的なシートが現れた。

『クッション性も何も無いので、クッション等は自分で用意して下さーい。お尻を鍛えたいなら別ですがー』

 カッチカチのお尻になりたくは無い。クッションは倉庫に有った気がするから、後で取ってこよう。

「ん?」

 キャラメルは、ふと気付く。

「なんでオレがこっち座る事になってるんだ?」

「だって私、お客さんだしぃ?」

「呼んだ覚えはねえ」

「こっち座る方が、テンション上がるでしょぉ?」

「列車の最前列にいる子どもか」

 口では厳しく言いつつも、キャラメルはコフカにシートを譲った。


 三人は出発準備を終えた。

『忘れ物は無いですかー?』

 AIが確認してきた。お客さんがいるということで、張り切っているようだ。

「あ、花火忘れた!」

 と、コフカ。

「人の船に危険物持ち込むな」

 最後に花火を打ち上げて追跡を妨害しようとしても、今回は前回のように後から追いかけてくるなんて。


 ――後から来たのに、どうやって先にチカモールへ来てたんだろう……。

 こっちもワープしていたから、速度的には差もないはずで、コフカたちの方が遅くなるはずだが……?


「オヤブン、出発していい?」

 シロタマの声で、キャラメルは現実へと戻る。

(出発前から、余計な事を考えるのはやめよう)

 キャラメルは考えるのをやめた。

「ん。ああ、いいぞ」

 駐船場の係員に合図を送ると、オルバート二世は自動で地上へと移動する。

「オルバート二世にせ、発進!」

 オルバート二世はメルエの地表を離れ、グングンと高度を上げていく。

 メルエの圏内を離れると、オルバート二世はワープ準備へと入る。先代のオルバートとは比べものにならない圧倒的スピードでワープ準備を終えると、第一段階の惑星オディア付近へと出てきた。ここは紙産業が盛んな惑星らしい。行った事は無い。

 もう一度ワープをすると、新興惑星カシアードが見える位置へと出てきた。

「早いな」

 補助シートで、キャラメルはしみじみと思う。

「前のオルバートだったら、今頃計算が終わってたんじゃないかな」

「どんだけ遅いのよ、それ。すっごく気になるんだけど、見れないの?」

「無理だな。今は中には亡骸が有って、お墓になってる」

 先代のオルバートは今、閉山惑星コザムに有る。アディアムのお墓であり、キャラメルとシロタマが出会った記念碑になっていた。

「亡骸と言えば、この前迷惑系銀河冒探のアディアムが遺体で見つかったってニュースになってたんだけど、知ってる?」

「ああ、知ってる。、な」

 直接見ているし。

「前の飼い主」

「なんでも、他人所有の年代物宇宙船のコックピットで亡くなってたとか。変な話よねぇ。最近動画で新しい船を買ったーって。AIも付いてるぞーって自慢しててぇ――」

 コフカはハッとなって突然黙る。

「――そう言えば、この船AI付いてるよね? 年代物の宇宙船がお墓……それに、シロタマちゃんが前の飼い主って……え? シロタマちゃんを略奪愛!?」

 コフカの疑いの目が、キャラメルに向けられていた。

ちげえよ! オレがったんじゃねえ!」

「オヤブン、リャクダツ愛ってなに?」

「あー……シロタマにはまだ早いかな?」

「愛にも色んな形があるのよ、シロタマちゃん。大人になったら分かるから」

「うるせえ」

 うぜえ。

「あ、船がカシアードのケンナイに入った」

 シロタマの一言で、全員気持ちを切り替える。

「よっしゃあ! 盗みシゴトだ!」

盗みオマツリ……燃えるじゃなぁい?」

 オルバート二世はカシアードへ向けて、高度を落としていった。

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