第18話 挑発日
「ねぇ。これどう思う?」
髪を弄っていたコフカは、ツインテールにしたシロタマをキャラメルに見せている。
「どうって……なぁ」
キャラメルは言葉に詰まっていた。それは、シロタマにツインテールが似合っている似合ってないという話だからでは無い。別の問題が、目の前に有る。
「クラウンブレイドの方が良かったぁ?」
頭上だけでなく、頭一周巻きたかったのか。
「そういう事を言ってるんじゃないんだよ。なんでここにお前がいるんだよ!」
「え?」
今、三人がいるのはチカモールの旅館。キャラメルたちが滞在する時に使う部屋だった。コフカたちはチカモールを気に入ってしまい、旅館に部屋を借りて滞在しているのだった。
そしてコフカは今、光沢の有る生地の青いドレスを着ている。だから舞踏会の帰りか!
「いやぁ……ヒマだしぃ?」
コフカはシロタマのツインテールを解いて、再び髪を弄り始める。
「
「オレもねえよ。だからここにいる訳だし」
「お互い、ヒマなのねぇ」
「すぐに困るような安い
「でぇきたぁ!」
コフカはリボンを絡めた緩めの一つ三つ編みを完成させていた。シロタマは目を輝かせながら、鏡で出来上がった髪を見ていた。
「オネエサン、スゴい! オヤブンと大チガい」
「でしょぉ?」
と、コフカは得意顔。
「意外と器用なんだな、コフカ」
「そうねぇ。
まあ、不器用そうだな。どう見ても。
「でも物理的な事は、全部彼に任せてるから」
ああ、コフカは幻覚を見せるタイプだったはず。物理じゃ無い――いや、どういう原理で幻覚見せてるんだ? コフカは。
疑問が深まる。
その頃。
身元不明の死体が見つかったと、現場にやってきたヒョーロック。
銀河警察は別に泥棒を追うだけが仕事では無い。それ以外も仕事は有る。
「メンドくせぇなぁ……」
「まぁ、そう言わずに」
リンガはヒョーロックをたしなめつつ、パトシップを地上へと着陸させる。
「まさか……?」
よく見知った宇宙船がヒョーロックの目の前に有った。この宇宙船は何度も見てきている。
ヒョーロックは急いで現場に駆けつけた。
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁ! アイツの正体がおっさんだったなんてぇ!」
宇宙船内の狭いコックピットにヒョーロックの声が響く。
そう、ここは閉山惑星コザム。今ヒョーロックがいるのは、破棄された先代のオルバートだった。当然コックピットには、アディアムが旗とともに倒れている。
キャラメルをおっさんだと思ったバカが、ここにいた。
再びメルエの旅館。
コフカはまだシロタマの髪を弄っていた。
「キャラメルちゃんがお団子にしてたから、シロタマちゃんもお団子にしてみよっかぁ」
「オヤブンと一緒!?」
なんかシロタマは嬉しそうだ。なんだかんだで慕われてると思うと、キャラメルは嬉しくなる。
そんなキャラメルは、まんじゅうをかじりながら、テレビを流し見していた。なにか面白い情報でも無いかと思ったが、特に無さそうだ。
「なあんか、
と座椅子の背もたれに身体を預けた時だった。
『――からのお知らせです』
冒頭は聴き逃したが、大体番組途中でこう言い出す時は、宣伝だ。
特に気にもしなかったが、画面に映ったのは十代後半ぐらいの少女だった。その少女は落ち着いた様子で語り出す。
『全銀河の泥棒の皆さん、ごきげんよう』
「あん?」
少女から出てきたまさかの言葉にまんじゅうを落としそうになったキャラメルは、思わず姿勢を正した。コフカやキャラメルも、テレビを見ている。
『
「自分で言うか? 普通」
テレビに集中したいところだが、どうしてもキャラメルはツッコんでしまう。
『泥棒の皆さん、これを御覧なさい』
カメラはニスコが着けているペンダントに寄っていく。濃い緑と濃い赤の宝石で作られた、いちごを模したペンダントだった。
『これはクロムスフェンとピジョンブラッドルビーで作られたペンダント。とても高価な物ですわ』
「だから自分で言うかぁ? 普通」
『泥棒の皆さん、奪えるものなら奪ってみなさい! 期限は三日とします。それまでに盗めなければ、
カメラはひいて、再びニスコの顔を映す。
『
映像はそこで終わった。
「どうでした? どうでした? このニスコ様が考えた、完璧な作戦っ!」
中継の終わったカメラの前ではしゃぐニスコ。
「完璧かどうかは置いておくとして……いいんですか? こんな事やっちゃって。上手く行くんですかね」
撮影係をしていたエイタルバが言う。他のメイドたちは、機材の片付けに入っていた。
「行く行く! 泥棒がやってきて、ペンダントが奪われればニスコ様は悲劇のヒロイン。奪われなければ、泥棒を撃退したヒーローとして、有名になりますわぁ」
「しかし、ですね……」
泥棒からニスコを護る役はエイタルバ。そうなると、ペンダントを守るのも、エイタルバがメインとなる。
もっとも、その辺の泥棒風情に負けるつもりも無い。泥棒に負けるようでは、ニスコの命を狙う者から護れない。その為に、日々訓練をしているのだ。
「お父様の迷惑にならないよう、舞台もこのニスコ様の別宅にしましたし」
ニスコとエイタルバが住むのは、本宅とは別の惑星に作られた別宅。別宅と言っても普通の一般住宅よりも広い。別の惑星に有る学園に通えるよう、駐船場も庭に有る程度には広い。客人が百人来ても大丈夫! と宣言してもいい。
ただ、ニスコには取巻はいても友達がいないので、客人が来たことも無いのだが。
「これはゲームですわ、ゲーム。どっちに転がってもニスコ様の勝利で終わる、結果の約束されていますゲームですの。だから、もっと気楽にやりなさい、エイタルバ。あなたを信じていますわ」
「光栄です。幸い実戦経験がまだなので、修行のつもりでお嬢様を護ります」
「その意気ですわ。さ、うちに初めて客人が来るのだから、最高のおもてなしを準備しますわ。泥棒さんが中に入れれば、の話ですが」
「客、なんですかね。招かれざる客のような気も」
「細かい事はいいのですわ」
ニスコたちは初めてのお客さんを迎える準備を始めた。
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