第16話 オヤブンに会えてよかった

 オルバート二世が地上を離れ、高度をグングンと上げていく。

 かなり地上から離れたところで、花火が打ち上がり始めた。

「きれい」

 モニター越しで花火を見るシロタマが言う。

 この花火は、

(二人を祝っている)

 そんな気がしてならない。

 あとはメルエのチカモールへ帰れば、盗みシゴトは終了。宇宙で絡んでくるバカヒョーロックは今地上にいる。もう邪魔するモノは無い。

 初めての共同作業は、無事に完了出来た。この花火はそれを祝っている。きっと。

 オルバート二世がザビィ圏内を離脱すると、ワープ航法でメルエまで戻ってきた。

「帰ってきたな」

 メルエの姿なんて何度も見ている。見慣れた風景。

 それが安心出来るのである。無事、帰れたのだと。

「どうだった? シロタマ。デビュー戦は」

「楽しかった」

 と、シロタマは即答。

「そりゃ良かった」

「コブン、オヤブンに会えてよかった……」

「そっか……そか」

 そう言われると、少し恥ずかしい。

 シロタマとの出逢いは偶然。銀河速報の頼みを聞かなかったら、会わなかっただろう。シロタマを拾ったのも『可哀想だったから』と偶然。これで良かったのだろうかと思う事も有ったが、良かったのかもしれない。

 シロタマは生まれ変わって、新しい人生を歩み始めたんだ。

 そう強く実感したキャラメルである。


 一方、ヒョーロックたち。

「んんー? で、何をそんなに急いでたのかな?」

 制服に身を包んだ大柄の男が、リンガに睨みを効かせる。

「そ、そのぉ……トイレが……ですね」

 大男の前で背中を丸め、小さくなったリンガ。

「お嬢ちゃんが? だからってぇ、急ぎすぎじゃあないの? ねぇ」

「わ、私じゃなくて……」

 トイレだと言っていた当人、ヒョーロックを見ると、

「これがザビィのポリスモーターサイクルかぁ」

 目を輝かせながらバイクを見ていた。

 そう。二人はザビィ警察に捕まっていた。

 嬉しそうにバイクを見るヒョーロックを見て、リンガは一つ気になる。

「ヒョーロック、トイレは?」

 リンガが訊くと、ヒョーロックの動きが止まった。

「――あっ。んー、そのー……引っ込んだ?」

 ヒョーロックのその間で、リンガは察した。

「嘘を吐きましたね? ヒョーロック」

「ひぃっ!」

 リンガの後ろに鬼が見えた。そんな気がして、ヒョーロックは震えが来る。

「こうなったのはヒョーロックのせいですからね。責任取って貰いますよ?」

「は、はひ……」

 遠くで花火が打ち上がり始めた。

「俺様たちが捕まった記念花火か?」

「記念する事なんですか?」

 にしては、準備が早すぎる。


 再び商業惑星メルエ。

 例の派手派手メガネをブンタのところに持っていくと、ケチなブンタからビックリするぐらいの額を提示された。なんの文句もなく、キャラメルはその値段で即決した。

「よしっ! シロタマ、銭湯ふろ行くぜえ」

 上機嫌で銭湯へ行くと、女湯には珍しく先客が居た。

「早くね?」

 二つの意味で。

「あらぁ? その声はキャラメル?」

 洗い場では、コフカが髪を洗っていた。


「まさかだよ」

 身体をさっぱりさせた三人は湯船に浸かる。

 キャラメルとコフカでシロタマを挟むように三人。

 シロタマと会うまで、キャラメルはいつも一人だった。シロタマ以外の他人と入るなんて、何ヶ月ぶりだろう。

「キャラメルとまた会えるなんて、ここ盗みオマツリ会場?」

「それしたら、生きて出られんぞ」

「そうなのぉ? ようやくブラックパス手に入れて、初めて来たのよねぇ」

 相変わらず喋りがねっとりとしている。それだけで暑苦しい。風呂の温度も、いつもより熱いような気さえしてくる。

「持ってなかったのかよ。何しに来たんだ?」

「あのメガネドレスを売りに来たのぉ」

(あの派手派手メガネと派手派手メガネドレスを求めてる人って、同じ人なんじゃないか?)

 キャラメルはそう思わざるを得ない。しかし、なぜ欲しがるのか……。

 いや、人の趣味趣向に口を出すべきではない。

「それにしても……」

 コフカはそっと、シロタマの後ろへと回り込む。

「この子、かぁわいいっ!」

 コフカはシロタマを後ろから腕を回して抱きしめた。シロタマの顔が赤くなっているように見える。それは、コフカが抱きついて恥ずかしいのか、コフカが暑苦しいのか。

「どうしたのぉ? この子。盗んだ? それとも拾ったぁ?」

 拾った、で間違いは無いのだが、説明が面倒くさい。

「シロタマのことは、どうでもいいんだよ」

 と、キャラメルは少しぶっきらぼうに返した。

「シロタマって言うのね、フフッ」

 コフカは気にすること無く、シロタマを抱きしめる腕の力が強くなる。どうもシロタマはコフカの心も盗ってしまったようだ。

「かわいいなぁ。お姉さん、シロタマ欲しくなっちゃった」

「やらんぞ」

「ケチィ」

「オヤブン、ドケチだから」

「言うな!」

 シロタマの中で、キャラメルは完全にケチという事で固まっていた。


 風呂上がり。キャラメルとシロタマは全裸に首かけタオルスタイルでカフェオレやフルーツ牛乳を腰に手を当てて飲んでいた。しかし、コフカは何も飲もうとしない。

「あん? コフカは何も飲まないのか?」

「んー……私、おなかすいたから、どっかお店に行った時に飲みたいと思ってねぇ」

 と、コフカは握りこぶしを作って手首を捻る動作。

 ビールか……。風呂上がりのビールもいいな。飯屋に着く頃には、身体もアルコールを受け入れられる状態になっているだろう。

「いい店、知らない? キャラメルなら知ってるでしょぉ?」

「ビールなら肉、かなぁ……」

「肉!? いいんじゃない? 行きましょ行きましょ。三人でぇ」

 三人?

「そういや、もう一人は? あの大男」

 もっと暑苦しい方の。

「ナップは普段別行動よ。今頃、筋トレじゃない?」

 良かった。今、筋トレ姿を想像しただけで暑苦しかった。目の前にいたら、もっと暑苦しいだろう。

「シロタマも肉でいいか?」

 と訊くと、シロタマはキャラメルの方を見て頷いた。

「でも……」

「?」

「オニケチのオヤブンがお金使うなんて、きっとなにかある……」

「オレだって、お金使う時は使うぞ?」

 決して、ケチと思われたくないからでは無い。

「よし、それじゃあ行く準備するぞ」


 服を着て髪も乾かし、準備は出来た。

「――ってェェエエエエエエェ!!」

 キャラメルの声が脱衣所に響いた。そこに居たのは、オフショルダーの赤いドレスを着たコフカ。舞踏会にでも行くのか? と訊きたい。

「派手すぎるだろ!」

「そう? 私にしては地味だと思うけど」

 どこが? キラキラ輝いているが?

「いつものアレはどうした?」

「はっぴ? 盗みオマツリ専用に決まってるじゃなぁい。祭りはっぴなんだからぁ」

「まぁ、そうだな」

 納得は出来ないが、納得させられた気分だ。

「それより、早く行きましょぉ。もうおなかペコペコよぉ」

 コフカは黒のロングブリムハットを被ると、

「おっ肉~おっ肉ぅ~」

 と口ずさみなが、上機嫌で出口に向かって歩き出した。

 なんというか、コフカは外見は凄く派手なのに、中身は凄く庶民的だな。こうやって話すまで、コフカは派手で暑苦しい奴だと思っていたが。人間、見た目だけでは分からないものである。ナップもひょっとしたら……いや、アイツはその場にいるだけで暑苦しい。中身も暑苦しいに違いない。

「はぁ~……」

 横から声が漏れてきた。見ると、シロタマが目をキラキラと輝かせている。

「オネエサン、カッコイイ……」

 それを聞いたキャラメルは、シロタマの前に回ると両肩を掴んでしゃがみ、目線の高さを合わせた。

「シロタマ、憧れるのはいいが、憧れる人は選べ」

 シロタマがあんな派手派手になってしまったらと思うと……。

 小麦色の肌をしたシロタマとか――それはそれでアリだな!

「あっ」

 キャラメルはふと我に返って立ち上がった。

「いかんいかん。コフカを追いかけないと見失うぞ」

「ダイジョブ。オネエサン、ばいーんで目立つ」

 ばいーん……。

「いやいや、もっと目立つ部分有るだろ!」

 というか、コフカには目立つ部分しか無い。

「……さっき、おフロで背中がスゴかった」

 あー、あの時。ダイレクトアタックされたもんな。

「って、こんな事してる場合じゃない。行くぞ、シロタマ!」

「あいさぁ! オヤブン!」

 キャラメルとシロタマも夜の街へと消えていった。


 次の盗みシゴトまでの、しばしの休息。

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