第12話 暑女コフカ
キャラメルは笑い声が聞こえてきた屋上を見上げた。
建物の周囲に設置されていたサーチライトも、屋上を照らす。
眼鏡ギャラリーミュージアム屋上にある塔屋の上に、二つの人影が見えた。
「
「
一人は萩色の祭り法被を着た筋骨隆々の大男。
もう一人は本紫の祭り法被を着たウェーブ髪な小麦色肌の女。
どちらもボトムスは白い半股引をはいている。
祭りコーデの男女。その姿を見たキャラメルは頭を抱えていた。
「オヤブン、どしたの?」
「アイツら……知ってるわ。祭り好き怪盗のナップとコフカだよ」
男は銀河
「アイツら暑苦しいんだよ。いるだけで体感温度が十度ぐらい上がる」
「ドロボウ、スゴい?」
「腕は確かだな。見た目とかはアレだが」
キャラメルは屋上のナップとコフカを見上げた。
「イヤな相手が来たなぁ……」
キャラメルがポツリ。頭が痛くなってきた。
ナップとコフカは力と技で相手を翻弄するタイプ。ピンチになっても、最後はナップが力技でなんとかしてしまう。止められる者も少なく、敵に回すとやっかいなのである。
「やっぱり来やがったなぁ! 怪盗マツリ!」
更に屋上からヒョーロックの声も聞こえてきた。再びキャラメルは頭を抱える。ヒョーロックは大したこと無いが、ウザい。ナップとコフカとは違う意味で、敵に回すとやっかいだ。
「
キャラメルは本気で頭が痛くなった。
屋上。
ヒョーロックは屋上の真反対側に有る塔屋の上にいるナップとコフカに刀を向けていた。
「あらぁ?
二人、とはヒョーロックとリンガである。リンガは、突然現れた怪盗に目を丸くしていた。ヒョーロックの言っていた通りになってしまった。
「それとも、デート中だったかしらぁ?」
「デッ、デート、デー、デートとか、そそそそんな……」
リンガはなぜか、顔を真っ赤にして両手をバタバタ動かし、取り乱している。
「デートか……いいかもな」
「エエーッ!」
ヒョーロックの一言に、リンガは思わず大声を出してしまった。赤かった顔はますます赤みが増す。
「お前らを捕まえたら、の話だけどなぁ!」
と、ヒョーロックがナップとコフカとの距離を詰めようとしたところで、塔屋の鉄扉が勢いよく開いた。ヒョーロックは足を止めてしまう。
「怪しい奴はどこだ!」
ザビィ警察の面々だった。遅い。
「おっ?」
警察官の視界に飛び込んできたのは、刀を持ったヒョーロック。そしてそばに居るリンガ。
先頭にいたザビィの警察官とヒョーロックの目が逢う。
「刀を持った怪しい奴……お前かぁ!」
「バカか! 俺様は銀河警察だ! 怪しい奴は後ろにいるだろ!」
「あん?」
先頭の警察官が振り向いても、そこには仲間たち。仲間は仲間。怪しくは無い。
目線を上に持って行って、ようやく塔屋の上に人が居ることに気付いた。
「ぁっ……ぁあ、居たぞぉ!」
その声で、ザビィの警察官たちが塔屋を囲んだ。
「降りてこい!」
「捕まえてやる!」
「観念しろ!」
「ふともも!」
警察官たちが口々に叫ぶ。もはや塔屋周りは収拾がつかない状態になっていた。ヒョーロックには、それが邪魔で仕方ない。
「まぁ、にぎやか。
「むっ! そろそろ
ナップのかけ声で、コフカは両手を高くかかげた。
「あっ!」
ヒョーロックはそれに反応して短く声を上げたが、二人との距離もあって、何も出来ない。
「
屋上がうっすらとモヤに包まれていく。その様子に、塔屋周りの警察官たちはざわめき出した。
「おい、足が動かないぞ!」
一人の警察官が叫ぶと、次々に身体の異変に気づいて騒ぎ出す。
「あの女、変な術を使いやがった」
ヒョーロックは鉛のように重くなった足を必死に動かそうとするが、思うように動かない。もはやスローモーションである。
「観客は大人しく見てなさぁい」
「むっ! 次はワシの番だなぁ!」
ナップは塔屋を蹴って動けなくなった警察官たちを飛び越え、屋上に降り立った。
「むっ?」
着地とほぼ同時に何かが振り下ろされるのを感じたナップは、それを指二本で挟んで受け止めた。
「うっそーん!」
叫んだのはヒョーロック。振り下ろされたのは、ヒョーロックの愛刀である後亜門だった。
「むぅ……。コフカの術を解いて来るとは、な」
「私の術が効かないなんて、よっぽどのバカぐらいよぉ?」
「変な術ぐらい、気合いで解ける! それぐらいやれなきゃ、銀河警察は務まらん!」
「だが、威勢だけでも銀河警察は務まらんぞ!」
ナップの一言のあと、ヒョーロックを強い衝撃が襲う。
「ガハッ!」
殴り飛ばされたヒョーロックは、手摺柵にしたたか身体を打ち付けた。全身に痛みが走り、身体が動かない。
「むっ! 行くぞ、コフカ」
「ま……待て」
弱々しいかけ声も虚しく、ナップは拳を屋上に振り下ろす。轟音とともに穴が開き、ナップは屋上だった残骸とともに五階へと落ちた。
「じゃあねぇ~」
コフカも屋上へ飛び降り、穴へと飛び込んで行った。
その頃の地上。
「なんか凄い音がしたぞ!」
「大丈夫か? 上は」
上から聞こえてきた大きな音に、入口に立つ警察官が戸惑っていた。
それを見ていたキャラメルは、
「そろそろ行くぞ。多分アイツら中に突入した。出遅れたくない」
だが返事が無い。
「シロタマ?」
振り向くと、シロタマは固まっていた。微動だにしない。ボーッとしていて、目も虚ろ。目の前で手を振ってみたが、反応が無い。
緊張か?
初めてだから仕方無い。ほぐしてやらないと。何か話……。
首がキツい。キャラメルは再び建物の方を向いてしばらく考える。
ほどよく頭を働かせられて、長くならない話……。
一つ思い浮かぶ。
「シロタマ、オレが教えた泥棒三原則、覚えているか?」
「――――いかのおすし」
少し間があってから、シロタマの声が聞こえてきた。
いつもの調子には聞こえるが、
「……なあんか、違わねえか?」
キャラメルが教えたのとは違う。
「イ(逝)かせない、野垂れ死にしそうな人からトらない、犯さない、スゴく困ってる人からトらない、死なせない」
キャラメルは指を折りながら、シロタマが挙げた項目を確認した。
「合ってたわ。なんか増えてるけど合ってたわ」
「コブン、ダイジョブだよ」
「そっか」
キャラメルはその言葉を信じる。自分の子分を信じられなくてどうする。
「そんじゃあ、行っくぜえ!」
キャラメルとシロタマは茂みから飛び出した。
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