第2章

第10話 眼鏡越しの宇宙

「あれが今回の舞台シゴトバだな」

 宇宙を飛ぶオルバート二世のコックピットから惑星を見ながら、キャラメルは言う。

「コブン、デビュー!」

 オルバート二世を操縦するシロタマは嬉しそうだ。

「そうだな。シロタマのデビューだ。失敗は出来ないな。失敗したら終わり――オレもか」

「オヤブン、失敗しない! オヤブン、大ドロ棒」

「当たり前だ! オレを誰だと思ってる? 銀河泥棒のキャラメル様よ」

 そう会話する二人は、メガネをかけていた。

 メガネをしているのには、理由が有る。


 前の日。

 キャラメルとシロタマは酒場にいた。

「やぁ、レディ」

 ピンク・レディを呑んでいたキャラメルに声をかけてきたのは、銀河速報。暗い店内でサングラスをかけて、ちゃんと見えてるのかずっと気になっていたが、カクテルに合わせた挨拶からして、見えてはいるようだ。

「今日も可愛いレディが一緒ですね」

 銀河速報とシロタマは一度会っている。アディアムの報告をした時だ。

 アディアムの話を聞いた銀河速報は、

「あの銀河お騒がせレベルなら、発見されれば大きくニュースで扱われるでしょう。情報の消費期限は短そうですが、買いましょう」

 と、多めの情報料をくれた。親父ジジイだったら「死んでた? だったら価値は無いな。ほれ、情報料だ」とクソ安く買い取ってただろう。それが親父ジジイと銀河速報の一番の違い。

「シロタマは今回がデビューになる。それに相応しい情報ネタ、有るか?」

「今日用意したのは『翔んでるイルカ』『指先三寸』『ジージの夢』なのですが」

 銀河速報はいつものように三つのタイトルを提示した。

「コブン、イルカ気になる」

 ミルクセーキを飲んでいるシロタマが言う。このミルクセーキはマスターがシロタマの為に用意した裏メニュー。シロタマしか注文が出来ない。

「いやぁ、残念だがもう決まってるんだ。『ジージの夢』で頼む」

 実はこの『ジージの夢』、銀河速報の選択肢には何度も出てきている。中身はブンタが高値で買い取りたい物。誰かに売る為に、ブンタが必要としているのだ。いつもはドケチな親父ジジイが高値で買い取るというだけでも、奇跡だ。

 対象ブツは簡単に手に入る物から難攻不落な物まで幅広く、博打要素が大きい。しかしリターンが大きいので、キャラメルはいつも選んでいる。

「『ジージの夢』ですね。お客さん、いいの選びましたね。あなた、これを知っていますか?」

 銀河速報はカウンター上を滑らせ、白い紙を差し出してきた。

 キャラメルはその紙を受け取り、シロタマとの間で裏返す。

 ソコに写っていたのは、メガネだった。フレームはシルバーの太縁で、フロント部分には宝石がびっしりとあしらわれている。

「こういうキラキラメガネしてる人、社会の歴史で学んだ! トキ・シオザワ!」

「歴史には出ねえよ」

「あなた、この眼鏡をどう思いますか?」

 銀河速報に聞かれたキャラメルとシロタマは顔を見合わせて、もう一度写真を見た。

「いやぁ……かけたくはえな。本当はオマエが欲しいんじゃないのか? いつもグラサンしてるし」

「メガネかけたら、宝石見えない。本人、カワイソウ」

「そういうことを聞いているのではありません。これを欲しがっている人がいるのです」

親父ジジイだろ? 知ってる」

「私は誰が欲しがっているとか言ってませんが?」

「反応すんなよ。正解って言ってるようなモンだろ」

「残念なお知らせですが、この眼鏡を狙っているのは一人では有りません」

「と言うと?」

「他の人も狙っています。今、手に入れないと二度と見ることは無いでしょう」

「そりゃあ、すぐにでも出発だな。で、どこに有るんだい?」

「眼鏡と言えば、あそこです」

「…………眼鏡惑星ザビィ?」


 そう、二人は眼鏡惑星ザビィが見える位置にいる。メガネを中心とした星で、メガネを着用していないと逮捕されてしまうという変わった法律がある。

 そこで、二人はメガネを着用しているという訳である。

「しっかし、変装でかけることは有るけど、慣れねえなぁ」

 オーバルメガネをかけるキャラメルが言う。

「コブン、メガネ初めて。楽しい」

 シロタマは丸メガネ。

 どちらも度は入っていない伊達メガネ。二人とも視力はいい。良すぎて、遠くまで見える。なので、メガネが必要無いのである。

「とりあえずは、現地で情報収集だな」

 ザビィにそのメガネは有ると言うが、どこに有るのかキャラメルは知らない。銀河速報も知らなかった。

 ただ、

「行けばすぐに分かると思いますよ。そんな予感がします」

 と、銀河速報は言っていた。

「アイツ、情報屋であって占い師じゃあ無いんだが、予感ってなんだろうな」

「小豆を寒天で固めたの。コブン、好き」

「そりゃ、ようかんだよ」


 オルバート二世は町の外れに有る駐船場へと着陸した。そこからバイクで中心部へと移動する。このバイクはオルバート二世の搭載していた物で、移動の為に購入した。キャラメル一人なら徒歩や乗り物を現地調達でも構わないが、シロタマの事を考えて船からの移動にバイクを使う事にした。

 二人はバイクを隠して、中心部を徒歩で回る。町は石畳の道路がいくつか有り、建物は低層の物が多い。チカモールも低層の建物が多いが、あっちは高さ制限の問題。空の見えるこっちは、理由が違うのだろう。

 町行く人は当然、全員メガネを着用。それはそれで怖いが、それ以外は普通という印象だった。

「眼鏡惑星って言うぐらいだから、もっとメガネメガネしているかと思ったが、案外普通だな」

「メガネメガネ……メガネでできた建物とか?」

「それはそれでこええな。耐久性無いだろ。でも、住民がメガネで作られた服を着ているとかだったらどうしようか、とかちょっと思ったり」

「眼鏡ギャラリーミュージアムに行けば有りますよ」

 通りかかった観光案内所の中にいる女性職員が声をかけてきた。

「有るんかい!」

 キャラメルとシロタマは行き先を変更して、観光案内所の入口へと行く。観光案内所も普通の地方都市に有りそうな感じで、やっぱりメガネ感は無い。

「そのミュージアムは、どこに有るんだい?」

「町の中心に高い建物が有ります」

 キャラメルが町を見回すと、頭一つ出た白い外壁の建物が見えた。

「あれか」

「その中に眼鏡ギャラリーミュージアムが有って、職人自信作のメガネや、新進気鋭の作家がメガネで作ったアート作品が見られます。メガネドレスも有ります。あ、でも今日は無理ですね」

「なんで?」

「なんか怪盗が予告状を出してきたそうで、今夜来るそうですよ」

 それを聞いたシロタマがキャラメルの顔を見上げる。キャラメルが出したと思ったっぽいが、キャラメルは予告状なんて出した事は無い。

 首を左右に振ると、シロタマは首をかしげた。不思議そうな顔をしている。そんな顔をされても、出してはいないのだから否定する事しか出来ない。

 それからキャラメルはもう一度案内所の人を見た。

「はぁぁぁ!?」

 キャラメルの声が観光案内所に響いた。

 出したの、誰だよ。

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