第4話 炭坑だし

 キャラメルがメルエを旅立ってから十日。

「アレが噂の閉山惑星コザムか……」

 今回もケチって通常航行。メルエからコザムまでの距離がそこまで離れてなかったのが幸いだ。比較的短期間で着いた。十日ぐらいならまだいい。二週間を越えてくると、船の中でやる事も無くなって辛い。ならワープを使えという話だが。

 コザムの惑星データは銀河速報から買っている。大気の状態は通常に近く、特別な装備無しで活動出来るようだ。

 オートパイロットモードのオルバートは、スルスルと大気圏へと突入していく。

「うっはぁ……」

 地上は土か、森かのどちらか。そんな風景が眼下に広がっていた。

 土の部分は鉱山跡だろう。朽ちた建物がいくつか見えるし、竪坑もまだ残っている。木も何も無い山はボタ山、ズリ山と呼ばれる捨石を積み上げた物だと思う。

 この惑星コザムには、この様な風景がいくつもある。だが鉱山は全て閉鎖。鉱員や開拓民も全て引き上げている。この鉱山には誰もいないはずである。先住民が住んでいたら別だが。

「コザムには金鉱山も有ったとか言ってたな……。掘ったら金が出たりしてな」

 恐らく金鉱山も資源枯渇か採算が取れないかのどちらかだろう。そうで無ければ閉山はしない。

 その前に、採掘は一人では無理だ。いや、やれるかもしれないが、相当手間がかかるだろう。

「さあて、アディアムはどこにいるのかな」

 銀河速報からの情報によると、アディアムはこの辺りの地域に行くと言っていたという。

 銀河冒険探検家アディアム。略して銀河冒探と呼ばれるが、銀河迷惑系冒険家だの、銀河無謀探検家とも言われている。常に何かトラブルに巻き込まれるような探検ばかりしては、その動画を公開している。それがウケてるらしいが、よく分からない。

 正直、そんな奴を探したくは無いのだが、銀河速報が「アディアムに関する新しい情報ネタなら買いますよ」と言うので、来ざるを得ない。

 見付けたら高く売りつけてやる!

 ――と思ったが、よく考えたらアディアムの顔を知らない。動画は顔が映らないようにしているし、妙にイケボな声は恐らく変えている。変声器を使う事もあるキャラメル自身だからこそ、分かる。アディアムが到達した場所に残すという旗は、画像で見たことがある。知っているのは、その旗ぐらいだ。

 アディアム本人に関する情報があまりにも少なすぎる。今回の案件、簡単に受けたが予想以上に難易度が高いのかもしれない。

 情報を得たら銀河速報にふっかけよう。そうしよう。

 キャラメルが地面を見ていると、廃屋の陰で何かが光ったような気がした。

「ん?」

 その瞬間、何かがオルバートをかすめて行く。

「なんだなんだ?」

 誰もいない鉱山を守るセキュリティシステムか。

 それとも先住民か。

 どちらにせよ、

(ここにとどまるのは危険)

 そう思ったキャラメルは、手動操縦モードに切り替えてオルバートを旋回させる。

 その時、地面に何かが見えた。

 よく見ると、地面に突き立てられたポール。ポールの先には旗が付けられ、風にはためいている。

 あれはアディアムが到達したという印の為に残す旗。旗はまだ新しく、この惑星ほしにアディアムが来ているのは間違いないだろう。

「よっしゃ! やる気が出るぜ!」

 キャラメルはオルバートを森の方向へと向かわせた。広い、何も無い鉱山跡よりはまだマシだろう。

 森は広大だ。木々が邪魔で地上から攻撃はし辛いだろうが、こちらから地面が見えない。何がいるかも見えない。

「一旦、どっかに潜むか?」

 と思っても、オルバートが着陸出来るような広場は無い。

「むぅー……」

 どうするか考えながら森を見回していると、森の向こう側で爆発が起きたのが見えた。

「なに!? なんだぁ?」

 見えた爆発から少し間があってから、オルバートが大きく揺れた。

「うぇっ!」

 爆風をモロに受けたようだ。

 揺れることに関しては、中の人は問題ない。揺れで酔う事は無い。

「壊れるぅぅぅぅ」

 なにぶん、古い船。そちらが心配だったが、次第に揺れが収まる。なんとかオルバートは耐えきった。

 爆発した辺りから煙が昇っているのが見えていた。

「只事じゃねえよな、これ」

 アディアム絡みか。

 先住民絡みか。

 あるいは両方か。

 爆発の原因が知りたい。

 オルバートに異常信号は出ていない。キャラメルはオルバートを煙の方向へと向かわせた。


 森を抜けて開けた場所で、煙の元を見ることが出来た。

「なぁんじゃ、こりゃあ」

 そこで炎上していたのは、複数の建物。周囲の鉱山跡っぽい様子から考えると、鉱員住宅のようである。

「おいおい、穏やかじゃあないぞ!」

 キャラメルはオルバートを広い場所に着陸させて、船から降りた。

「おぉい! 誰かいるかぁ!」

 近付いて声をかけるが、返事は無い。

 音を立てながら燃えさかる建物からの熱風が凄く、長くはとどまれない。

 一旦距離を取って船の所まで戻った。

「おぉーい!」

 一定の距離を取りながら、建物の周りを回る。

「おぉーい?」

 ぐるりと回って誰もいないかと思った所で、

「うぅ……」

 と消え入りそうな男の声が聞こえてきた。

「おいぃ? 誰かいるのかあ?」

 周囲を見回すと、燃える建物と森の間でうつぶせに倒れている人が見える。

「おいっ! 大丈夫か!」

 倒れていた人を仰向けにすると、細身な中年の男だった。服の焦げや肌に付着した煤を見るに、この男が爆発に巻き込まれたのは間違いない。

「……この俺様が、こんな単純なトラップにかかるとはな……。焼きが回ったか」

 その声は弱々しかった。もう長くは無いだろう。

「あの……船に……」

 中年の男が森の方を指差した瞬間、その手は力が抜けて地面へと落ちる。

「おっさん!?」

 返事は無かった。もう二度と喋ることはないだろう。

「おっさん……」

 どこの誰かは知らないが、おっさんが一人死んだ。

 特に悲しみも何も無いが、最期に何を言おうとしたのか、それが気になる。

 最期に指を差した方を見ると、森の入口に一隻の宇宙船が停まっていた。大きさはオルバートより一回り大きいだろうか。

「あれ、おっさんの船か?」

 タラップは降りていて、中には入られるようだが。

「あのおっさんの船とか、大したモン無さそうだけどなあ……」

 乗り気では無いが、キャラメルはおっさんの宇宙船に近付いてみた。船は汚れも少なく、まだ新し目に見える。

 タラップを昇ってみた。

「おじゃましまーす」

 内装も新しい。新船だろうか。新造船特有の匂いも残っている。

「貴重な船がモッタイねえなあ」

 適当に船の中を歩いてみる。

 倉庫らしき部屋があった。中を覗いてみると、先に旗の付いたポールが何本も有る。その旗は、見覚えがあるもの。

「――うっそだろお……」

 さっき空から見たアディアムの旗だった。

「いやいや、確定じゃないだろう。逆に旗を回収している人かもしれないし?」

 否定したい想いが、口から漏れ出る。


 アディアムは死にました。


 そんな報告でも銀河速報はお金を払うだろうか。有名人の死亡とか、すぐに広まりそうだが。報道されるより早ければいいのだろうか?

 心配しながら、船内探索を続ける。

 そしてキャラメルは一つの扉の前に来た。位置的には、この扉の向こうはコックピットになるはず。

「まぁ、誰もいねえだろうけど」

 いたら怖い。

 コックピットへの扉を開けると、中はオルバートより広めだった。シートは二つ。二人入っても、さらに余裕が有る。新造船なら、コックピットの居住性も良くなっているのだろう。オルバートとは大違い。少し羨ましく思った。

 その時だった。

「ダレ?」

 横の方からか細い少女の声が、耳に飛び込んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る