第3話 大人はカクテル2杯まで

 資金は手に入った。

 しばらくは――いや、長期間収入が無くても困らない程度には持っている。宇宙船だって、買おうと思えばすぐに買えるぐらいには。

 まぁ、買わないのだが。

「さあて……」

 あとは時を待つばかりとなる。


 それから数日。

 キャラメルは酒場にいた。酒場と言ってもここは大衆酒場ではなくバーのような場所で、木材をふんだんに使った内装は落ち着いた雰囲気を演出している。

 そんな酒場のカウンター席で一人、呑んでいる。

 ただでさえ女性客の少ないチカモールで、容姿的にも目立つキャラメルはすぐ声をかけられる。

「よぉぉぉぉ、姉ちゃぁぁん。おじさんたちと呑まやらない?」

「チッ! おっさんに用はねえよ。シッシッ!」

「そこの綺麗なお嬢さん。俺と遊ばない?」

「いや、若いのにも用はねえから!」

「フォォォォ! 孫みたいじゃあぁぁ! 今晩、もっと孫を思い出させてくれぇ!」

「うるせえよ。爺さん元気すぎんだろ! 帰れ!」

「姫、僕と新しい世界の扉を開きませんか?」

「だからって、女を待ってる訳じゃあねえんだよ!」

 声をかけてきた奴らをことごとく追い返していたら、いささか疲れた。気分を切り替える為に呑もうとするが、グラスは空だった。

「あり? マスター」

 マスターに声をかけると、すぐにキャラメルレモンソーダが出てきた。

「まだ何も言ってねえんだが」

「隣のお客様からです」

「あぁん? 物で釣ろうってのか?」

 隣を見ると、常に夜の街なのに丸サングラスをしている、いかにもといった怪しい男がいつの間にか座っていた。

「やぁ」

「……待っていたよ、あんたを」

 時は来た! キャラメルの口元が緩んだ。

「――銀河速報!」

 この男は銀河速報と呼ばれている情報屋。その人に最適な情報を持ってくると、その界隈では有名人だ。キャラメルも、銀河速報から情報を買っている。

 どこから情報を集めてくるかは分からないが、それよりも暗いチカモールでサングラスをして見えてるのかどうかの方が気になる。

「今日はどんな情報ネタ持ってきたんだ?」

「焦らないで下さい」

 銀河速報は指を三本立てた。

「今日のネタは三つですよ。『違う自分になれる話』『沈む鯉の話』『ちょっと不穏な話』」

 銀河速報はいくつかの情報を持ってくる。その情報にタイトルを付けて、客に提示してくる。客はタイトルから中身を想像して、情報を買うスタイルになっている。

 買えるのは一つだけ。よく考えて買わないといけない。

「なんか……旨みが無さそうな話しかないな」

「それはどうですかね」

 タイトルからは中身が簡単に想像出来ないようになっている。いい情報かどうかは、半分運のような物だ。

 しかし、彼は人を見て提供する情報を選ぶ。大きなハズレは無い。

 この三つから選ぶとなると、一つだけ気になるタイトルがある。

「不穏な話ってなんだ?」

「さぁて。なんでしょうね」

 簡単には教えてくれない。

 実に意地悪!

 顔を見なくても、今の状況に顔がニヤニヤしているのは想像出来る。

「んー……」

 やっぱり気になる。これだけ、中身をボカしていない気がする。

 キャラメルは決断した。

「その『ちょっと不穏な話』を聞かせてもらおうか」

「お客さん、いいの選びましたね」

 なお、この言葉はどれを選んでも言われる。

「それでは『不穏な話』ですが、聞きますか?」

「聞かせてくれよ」

 キャラメルは姿勢を正した。

「あなた、アディアムを知ってますか?」

「銀河冒探と呼ばれてるトレジャーハンターだろ? それぐらいは知ってる。トレジャーハンターっつても、大体人が隠してる財宝を盗んで自分の旗を立てていく自己主張の激しい泥棒だけどな」

「よくご存じで」

「盗む為なら殺しも厭わないという話も聞く。オレは感心しねえな。盗みシゴトは人をあやめてまでやるもんじゃねえ」

「真っ当な泥棒ですね」

(泥棒に真っ当もクソもあるか!)

 そう思ったキャラメルだが、よくよく考えれば褒められているような気がして、少し恥ずかしくなる。いや、褒めてるのか?

「そのアディアムがどこにいるか、知ってますか?」

「知らねえよ」

「閉山惑星コザム」

 コザムは鉱山で栄えた惑星。

 ――昔は。

 今は開発が終えて鉱山も全て閉山。鉱山会社は撤退して先住民だけが残る星となっている。

「あそこ、なんかあんのか?」

「巨大な廃墟が。廃墟マニアにはたまらないですねぇ」

「そんなことを聞きたいんじゃねえ」

「あなた、急ぎすぎですよ。アディアムは、コザムに着陸したことまでは分かっています。そこからが不明なのです」

「なにが不穏なんだ?」

「あそこの先住民は攻撃的です。そりゃそうでしょう。いきなりやってきた奴らが開発しまくって、いきなり帰ってしまったのですから」

「なら行かなきゃいいじゃねえか。オレでも行かねえ」

「だから急ぎすぎです。先住民はなにやら隠し財宝を持っているようで、鉱山会社もそれを調べるのが真の目的だったとか」

「有るのか! なら行くぜ!」

 キャラメルも、コザムに興味を持ち始めた。

「ゼロかイチしかないのですか? 先ほど言った通り、先住民が攻撃的です。行けば帰って来られない可能性の方が高いのです。アディアムもどちらかと言えば攻撃的な人。何かあったとしか思えないのです。先住民と衝突したとか」

「…………まさか、オレに見に行けと?」

「行きたいのでしょう? そう言ったではないですか」

 確かに言った。言ったが……、

「いや、気になるけどさぁ……」

 リスクが高すぎる。

「――まさか、銀河の大泥棒ともあろうあなたが、怖いから行かないとでも?」

「誰が行かないと言った!?」

 キャラメルはグラスに残っていたキャラメルレモンソーダを一気に飲み干した。

「行ってやろうじゃねえか。惑星コザムとやらによお。オレ様に怖い場所なんか……いや、牢屋は怖いけどさあ。ま、見に行くぐらいなら銀河警察も手は出さねえだろ。財宝見付けたら持って帰るけどな!」

「それでこそ、銀河泥棒です。宇宙に名を轟かせているだけあります」

「さすがオレ!」

 酔いが回ったのか、キャラメルも少し気が大きくなっている。

「コザムもちょいちょーいと行って、ちょいちょーいと帰って来るぜ!」

「いい情報ネタ、待ってますよ」

 次にキャラメルが行く場所が決まった。

 出発に向けて準備をしないといけない。

 いい気分で酒場を出てきたキャラメルは、ふと気付いた。

「あれ? オレ乗せられてね?」

 正解!

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