第2話 何んでも買います本当賛同
一方、逃げ切ったオルバートの方は、ワープ空間を出て通常航行に戻る。
宇宙船に異常は無いが、中の人はワープ酔いで少し気分が悪い。胃の中から何か出てきそうだ。
「うぅ……でも」
目の前には小さな惑星が見えた。これは今回の目的地、商業惑星メルエである。
無事着いた安心感と嬉しさから、ワープ酔いも少しマシになった。そんな気がした。
「今回も無事、帰ってきたぜ」
惑星圏内に入って高度を下げていくと、大きな街が見えてきた。
街の中心には巨大なショッピングモールがあり、周囲には大型船も停められる駐船場がある。
この商業惑星メルエは、商業施設を中心に発展をした星。迷子になりそうな程に巨大な商業施設は、ここを目当てに宇宙船で来る人も多い。それに対応する為に駐船場も広大になっていて、停めた場所が分からなくなるというトラブルも度々。
キャラメルはオルバートを広大な駐船場の端っこへと進め、着陸した。ここは商業施設からも遠く離れた場所。周囲に停まっている船など、いない。
『ブラックパスヲ カクニンシマシタ』
オルバートのいかにもといった抑揚の無いシステム機械音声が言うと、地面とともにオルバートが地下へと潜り始めた。
ここは特別なパスを持つ船だけが停められる、地下駐船場。機械が自動で駐船位置まで移動してくれる。
「うっ……あぁー、着いた着いた」
久々の地上――いや地下だが。
キャラメルが身体を伸ばしながらタラップを降りると、身なりがきちんとした初老の男が立っていた。
「いらっしゃいませ、キャラメル様」
男は深々と頭を下げる。
ここは何んでも買います、何んでも売りますのチカモール。ここで買い取った物は、出所を不明にして表や裏のマーケットに流す。その売りに来る人たちが必要とする物を売る。そんな場所だ。
その特徴ゆえ、審査を通過して特別なパスを持たないと、チカモールに入ることすら出来ない。ここの存在は、選ばれた人しか知らないのである。
綺麗に整った地上のショッピングモールとは違い、見た目は雑多な下町の商店街のようになっている。これは、強面やいかつい売人の見た目におしゃれなショッピングモールが似合わないからという単純な理由。
キャラメルは強面でも、いかつくも無いが、このスタイルの方が落ち着く派の一人。なので、ここを拠点にしている。
地下に有るということもあり、このチカモールは常に夜である。陽の当たることは無い。
「よお。これが今日のリスト」
キャラメルは男の腕時計型端末にデータを送る。男は空中ディスプレイに表示させて、確認をしていた。これらのリストは売る物で、オルバートの倉庫から運び出して査定をする。
「ちょっと多いから時間かかるだろ? オレは風呂入ってからぶらついてるから、
キャラメルは起動キーを男に渡した。これが無いと作業が終わった後でオルバートに鍵をかけられない。
「かしこまりました。それでは」
男が指を鳴らすと、屈強の男たちがどこからか現れた。倉庫の物を運び出す運び屋で、機械を使わずとも運べる力自慢の男たちだ。白いタンクトップを着た男たちは、鼻息荒く自慢の腕を見せびらかすようにポージングをしている。機械に頼らないといけないキャラメルとは、腕の太さが全く違う。
荷物は彼らに任せて、キャラメルは風呂へと向かった。
「くぁーっ! やっぱ一番風呂だな」
風呂はチカモールにある古めかしい銭湯。壁にはペンキで山と海が描かれている。地上のショッピングモールにはおしゃれなスーパー銭湯があるが、チカモールは客層も考えてこのスタイルにしている。利用客の多くも、こっちの方が落ち着くと言っているようである。もちろんキャラメルも、こちらの方が落ち着く。
広い浴槽には、キャラメル一人。時間帯の問題とかではなく、元々チカモールの女性客が少ない為、必然的に女湯の利用者も少ないのである。
「しっかし、船がボロ、ボロ言われるといい気分しないな。ボロなのは事実だけどよお。オルバートにもかわいいところもあるんだぞ?」
誰もいない浴室にキャラメルの声が響く。
確かにオルバートは古い。通常なら買い替えているレベルだ。
だが船は中古でも高い。ここで買うとなると、なおさら。
少し古い船でも、オルバートよりは新しい船になるだろう。それぐらいにオルバートは古い。チカモールではクラシックシップだの、ノスタルジックシップだの言われる事もある。
「新しい船かぁ……」
(もうちょっと宇宙の旅が楽になるかな)
キャラメルは静かな浴室で新しい船を手に入れた時のことを妄想してみた。
「っあぁー……」
浴室から出てきたキャラメルは、首にタオルをかけただけの姿で瓶入りのカフェオレを体内に流し込んでいた。火照った身体にカフェオレが染み渡っていく気がする。
最高に贅沢なひととき。
もし他の人がいれば「はしたない」だなんだ言われるだろう。一人なら、それは無い。
キャラメルは服を着て髪を乾かした後にメールを確認した。まだ査定終了の連絡は来ていない。
「もうちっと時間潰さねぇとな」
銭湯を出てぶらぶらしていると、ようやく査定終了のメールが届いた。
「よっしゃ」
キャラメルはチカモールの中心にある買取店へとやってきた。
特別室へと通される。常に夜な地下モールは多くの場所で照明によって明るくなっているが、ここは薄暗い。雰囲気を出す為だそうだ。
「おうクソ
そうキャラメルが呼びかけたのは、ガタイのいいスキンヘッドで強面の男。男はギロッとキャラメルを睨むが、キャラメルはそれに怯むこともなく、カウンターに置かれたオルバートの起動キーを回収する。
「随分と帰りが早かったな」
「
「ブハハッ! そりゃあ災難だったな!」
彼の名前はブンタ。このチカモールを取り仕切るボスである。このモールでは絶対的存在。逆らう者はいない。逆らえば、生きて地上には出られないだろう。
「今回、量が多かったな」
「どれも単価安そうだったからな。量で勝負さ」
「大変だったろ」
「別に。『生きる為になんでもする!』と決めた時に比べたら、楽なもんよ。あン時はひどかったからな」
「これでどうだ?」
ブンタの提示した買取額は、キャラメルの想定よりも多かった。
「どうした? クソケチ
ブンタの買取は基本安めだ。ここへ来る人は、大体他で捌く場所が無いからである。安くても、売るしかない。
そしてここで買い取った物は、高く売る。
実に悪徳!
足元を見た商売である。
キャラメルは他に売るのが面倒くさいのと、ここで世話になっているので、ブンタのところを利用している。
「もしかして、創業祭か?」
キャラメルは色々予想するが、ブンタは首を振る。
「どうせしばらく居るんだろう? 次の
キャラメルは少し考えるが、次の予定は無い。
「まぁ……ねえな。決まるまでは、ココだな」
「
ブンタはニヤリと笑う。
チカモールの店舗は全てブンタが関わっている。ここで払ったお金は、他の店舗でキッチリ回収出来るという訳だ。
「悪徳クソケチ
キャラメルは悪態を吐きながら、買取額に合意した。
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