第六話② クラスメイトの妹がいなくなった? おいおい、俺達の出番じゃないか。
「ジェニーッ! ジェニーッ!? そっちはどうだい、サラッ!?」
「ごめん、こっちも見つからないわッ!」
もうすぐお昼に差し掛かろうとしている今。息を巻いたのは良かったけど、僕とサラは全くジェニーの足取りを掴めないでいた。彼女が通ってる学校までの通学路も、学校にも顔を出したけど、彼女の姿はなかった。逆に今日ジェニーは休みなのかと聞かれちゃったくらいだったしね。見かけたら連絡してくださいってお願いだけしたけど、あんまり期待しない方が良いかもしれない。
となると、次はジェニーがよく遊びに行ってた場所だ。ピクニックに行った街の公園やケーキ屋さん、遊園地にまで足を運んだけど、彼女の姿は全く見当たらない。空振りばっかりだった。
「ああもうッ! 何処行っちゃったんだよジェニーは? まさか何かの事故に巻き込まれて……」
「落ち着いてノアッ! 悪い方向に考える暇があったら、彼女が行きそうな場所を考えるッ! そうこうしてる内にもジェニーちゃんは……」
「……学校サボってるわる~い子達、見、つ、け、た」
見つからない焦りから良くない予想へと頭が引っ張られ、それをサラに咎められていたその時。僕たちを呼ぶ野太い声が飛んできた。その声は、まさか。
「ゴンちゃんッ!?」
「やっほー、ノアにサラ。お昼休みになっても連絡の一つもないから、探しに来ちゃったッ!」
パパより大きいガタイを女の子用のブレザーで包んだ彼、ゴンちゃんだった。そう言えばスマホがうるさいと嫌だからって、パパとサラから以外の連絡はミュートにしてたんだっけ? 今さらながらにスマホを見て見ると、チャットアプリにゴンちゃんからの連絡が、たくさん来ていたことに気が付いた。
「そ、れ、で~? 二人して学校サボって何してたのよ? ま、さ、か、逢引だったり……?」
「それどころじゃないんだゴンちゃんッ! 実は……」
きゃ、っとオーバーなリアクションをしてるゴンちゃんに、僕は事の顛末を手短に説明する。今は彼と話している時間すら、惜しい。
「という訳なんだッ! ごめん、ゴンちゃん。だから今日は学校には……」
「解ったわノア。アタシも探してあ、げ、る」
「えええッ!?」
話を聞いたゴンちゃんは、すぐにそう返事をしてくれた。予想外のその返事に、僕は声を上げざるを得ない。
「ご、ゴンちゃん、学校は?」
「そんなもんサボりに決まってるじゃない、サラ。アンタだってサボってんだから、一緒よ一緒。それよりも心当たりの場所はもう探したの?」
サラの言葉にさっさと返事をすると、すぐにジェニーを探すモードに切り替えてくれたゴンちゃん。驚きが大きかったけど、その真剣な表情を見てると、彼が本気で取り組んでくれようとしていることは、容易に想像がついた。
ならば、ここで僕が彼にかけるべき言葉は……。
「もう探したよ。だから今からは、心当たりがない多くの場所を探すことになる。出来れば人手が多いと、ありがたいね。お願いできるかい?」
「解ったわ。人手ならアタシに任せておきなさい」
やってもらいたいことを明確にして、ゴンちゃんにお願いすることだ。彼はすぐに承諾してくれた。ホント、いつもカッコ良いんだから、君は。
「ひ、人手って、アテはあるの? 今は昼休みかもしれないけど、午後からの授業だって」
「あるわ。授業なんかほっぽってノアの危機に駆け付ける輩の集団には、心当たりがあるのよねえ。物凄く不本意だ、け、ど」
最もなサラの疑問だったけど、ゴンちゃんの言葉で僕にも一つ心当たりが生まれてしまった。うん、まあ。正直関わるのも嫌なんだけど……。
そんなことを思いながら、僕とサラはゴンちゃんに連れられて学校までやってきた。その途中にジェニーがいないかと周囲をよく確認したけど、残念ながら彼女の姿はなかった。
「み、ん、な~ッ! ちょっと聞いてちょうだいッ!」
やがて教室にたどり着くと、ゴンちゃんが大きな声を上げた。彼の声に何だ何だと教室にいたクラスメイト達が顔をこちらに向けてくる。
「今日の午前中に休んでたノアだけど……なんと今、ノアの可愛い妹ちゃんがいなくなっちゃったんだってッ! 必死に探してるけど、まだ見つかってなくて……お前ら、言いたいことは解るな?」
ゴンちゃんは一人一人の顔を見ていく。その声色には、いつもの軽薄な調子は見られない。溺れてた僕を助けてくれたあの時と同じ、真剣なゴンちゃん……いや、ゴンザレスだった。
「学校サボってまで探してるノアだ。こいつが妹をどれだけ大切にしてるか、なんて言うまでもないだろう? 心当たりのあるところは探した。だがいなかった。つまりこれ以降は、心当たりのないその他全てを探す必要がある……つまり」
「それ以上の言葉は要らないよ、ゴンザレス」
やがて彼に話しかけてくる男子がいた。黒くて短いくせ毛の頭。顔中に出来物がある恰幅の良い彼、オリバーだ。
「人手が必要なんだろう? 全部言われなきゃ解らない程、ボクらは野暮じゃないさ。ノアたんを愛でる会マークスリーは、いつだってノアたんの為にある。いや、ノアたんの為だけにある。彼女のピンチは、ボクらが駆け付けないでどうするんだい? そうだろう、みんなッ!?」
「「「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
オリバーの扇動に、男子たちが盛り上がっている。うん、凄く嬉しいのは変わりないんだけど、正直キツイ。この微妙な気持ちに、なんて名前をつけようか。絶賛募集中さ。みんなこぞって応募してね。
「ちょっとノア、妹ちゃんがいなくなっちゃったって本当?」
ゴンザレスがチャットアプリでジェニーの写真を共有するや否や、早速動き出した男子たちを後目に。次に声をかけてくれたのは女子たちだった。
「えっ? う、うん。本当だけど」
「えー、大変じゃないッ! 私達も探しましょうッ!」
「隣のクラスの子にも声かけとくね。何かあってからじゃ遅いし」
「あたし部活の先輩にも言ってみるッ!」
「えっ? えっ?」
男子たちは勝手に盛り上がるだろうと思っていたが、ここでまさかの女子が加わるなんて想定の範囲外だった。僕はその勢いに、全くついていけない。
「み、みんな授業もあるのに……」
「そんなの後回しに決まってんじゃん」
「ノアが困ってんのよ? 手伝わなくてどうするのよ」
「いっつも化粧品とか色々助けてもらってるしねー。お互い様よッ!」
それだけを言い残すと、女子たちもジェニーの写真をもらってすぐに動き出した。こんなことになるとは、と思ってた僕の肩に手が置かれる。サラだった。
「起きた過去は変えられない。つまりこれは、今まで貴方がしてきたことに対する辻褄よ。みんなと仲良くしてきた貴方だからこそ、みんなに尽くしてくれた貴方だからこそ、みんな手伝ってくれるの。男子は下心しかないと思うけど、もうこの際なんだって利用しちゃいましょ? だって、貴方の目的は」
「ジェニーを見つけて謝って、仲直りすること」
サラの言葉に、僕は続けた。そうだ。僕はジェニーを見つけ出して、そして謝るんだ。仲直りはできないかもしれない。けど、だからって謝らないなんて選択肢はない。仲直りしたいなら、それに向って最善を尽くすのみ。
「そう、だね。うん、ありがとうサラ。そしてみんなッ!」
せかせかと教室を後にしようとしていたみんなに、僕は声をかけた。そして大きな声で、笑顔で、心からの言葉を言う。
「本当にありがとうッ! みんな、大好きだよッ!」
「「「ウ……ッ!!!」」」
そうしたら何故かみんなが、心臓を撃ち抜かれたみたいな反応をしていた。男子達は股間を押さえて前かがみになるし、女子の中には鼻血を出してる子もいる。一体どうしちゃったというのか。
「の、ノア。今の不意打ちは、ズ、ル、い、わァァァ……」
「あ、アンタはもっと自分の容姿を自覚しなさいよ、馬鹿ッ!!!」
真っ赤な顔をしたゴンちゃんとサラにも怒られちゃった。協力してくれるみんなにお礼を言いたかっただけなのに、何がいけなかったのかな? まあ良いや。
何はともあれ、みんな協力してくれることになったんだ。スマホのチャットアプリにはジェニー捜索隊という名前のグループが作られ、逐一状況を連絡し合うことになった。二人から何十人単位に増えた為に、広い街での虱プレスが一気に加速する。これなら、見つけ出せる。
待っててねジェニー。手遅れになる前に、絶対に君を、見つけ出してみせる。
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