第一話① こちら911だ。どうしたんだい? 何、ハンバーガーが時速百キロでタマ●キンにぶつかった? そりゃ大変だッ!


 学校についたわっ! わたしの通っているゴールデンボールスクール、通称タマ●キン小学校よっ!

 創設者が社会貢献をしたことで州から表彰され、記念品として純金の球を受け取った由緒正しい由来があるみたいなんだけど、下ネタにしか聞こえないバグが発生してるわっ! システムエラーなら、早く業者を呼ばないと駄目よねっ! 電話番号は何番だったかしら? 確か911ねっ!


「おはようジェニー」

「あっ、エマっ! おはようっ!」


 いつの間にか教室に着いてたわっ! 隣の席のわたしのお友達、エマ=カッシーニが挨拶してくれる。挨拶してくれたんなら、挨拶を返さないと駄目よねっ! わたしはすぐに挨拶したわっ! 挨拶のリターンエースよっ!

 エマはわたしより少し背が高くて、茶髪の髪の毛を三つ編みにした女の子なの。茶色がメインのカントリーな生地のワンピース風ドレスエプロンを着てて、大人しそうで顔にそばかすもあって、イモいって言葉がピッタリよっ! えっ? イモいって言葉を知らないって? 可愛いっていう意味よ、多分っ!


「エマは今日も最高にイモいわねっ! ゲファッ!?!?!?」

「喧嘩なら買うよ。いくら? お釣りは要らないから」


 笑顔で言ったらお腹に膝を入れられたわっ! 苦しいっ! 息ができないっ! 駄目よっ! わたしは酸素を必要としてるのに、酸素はわたしを望んでいないのかしらっ!? 会いたくても会えないなんて震えちゃうわっ! 

 そしてこわーいっ! エマったら顔は笑ってるのに、目が笑ってないじゃないっ! エマのお弁当のフライドチキンをつまみ食いして半殺しにされたあの時の記憶が蘇るわっ! イッツ、トラウマリターンズっ! このままじゃまた、ベッドでガタガタ震えて眠る生活になっちゃうわっ!


「ゲホッ、ゲホッ、ま、まことに申し訳ございませんでした」

「うん、良いよ。顔を上げて、ジェニー。もう膝は入れないから」


 わたしは咳き込みながらも、すぐに床に額を擦り付けて謝罪の意を表したわっ! ジャパニーズ土下座ねっ! この前パパが編集者さんにしてるところ見てて本当に良かったわっ! エマも許してくれたし、何でも勉強しておくものなのねっ! また一つ賢くなっちゃったっ!

 そしてエマの膝はこれ以上いけないわっ! 今だってロクに息ができないじゃないっ! エマの黄金の膝で、EGK(Emma’s Golden Knees)って名付けようかしら? 多分彼女の膝にかかったら、自由の女神様だってイチコロよっ! 手に持ったたいまつと独立宣言書を投げ捨てて、お腹を押さえてうずくまるに違いないわっ! だってわたしが今そうなんだもんっ!


「ほら、チャイム鳴ってるよ。席につこう、ジェニー」

「う、うん……」


 その内にベルが鳴って、授業が始まったわっ! 一時間目は算数ねっ! 駄目、わたし算数嫌いっ! 全然頭に入ってこないわっ! 先生っ! お腹が物理的に痛いから保健室に行っても良いかしら? ちょっとEGK入れられちゃって……。

 それにしても。朝から強盗さんが来て、そしてEGKを入れられるなんて、今日は厄日ってやつなのかしら? やること成すことツいてないっていうあれねっ! 大丈夫、厄日に負けるわたしじゃないわっ! だってわたしには、楽しみな日が待ってるんだからっ!


「そう言えばジェニーのお誕生日会って、来月だっけ?」


 するとエマが、こっそり話しかけてきてくれたわっ! 授業中のひそひそ話って素敵よねっ! イケナイことしてるっていう背徳感が、癖になっちゃいそうよっ!


「そうよっ! 来月のお月様が満月になる日曜日、マンデーよっ!」

「ジェニー。マンデーは月曜日よ」

「これは一本取られたわねっ! HAHAHAHAHAHAっ!」

「取った覚えはないけど、ジェニーは失っちゃったのね」


 細かいことは良いのよっ! そう、遂にわたしの誕生日が来月に迫っているのよっ! 毎年一回は来るイベントだけど、今度のは格別。そうっ! 前も言ったけど、遂にママが帰ってくるのよっ!

 ママったら、家族を放って一体どこをほっつき歩いているのかしら? 帰ってきたら、連絡しなきゃ駄目でしょっ! って怒って、その後で一緒にパーティーするのよっ!


「こらジェニー。授業中に私語は駄目だ。あんまり酷いと死後にするよ?」


 と思ったら担任の先生から注意されちゃったわっ! 黒髪の男の人で、名前はルーカス=マーティンっ! まだ若くて、眼鏡をかけてて優しそうな見た目なのに、口先から出る言葉が物騒って有名なのっ!

 ベラベラ喋ってると死後になっちゃうわっ! これからは気を付けなくっちゃ、生きる為にもっ! また一つ賢くなったわっ! そろそろわたしのIQも強化上限値に達しちゃいそうねっ! 同種レアリティのカードを合成して、限界突破しないといけないわっ! 目指せ十凸っ! 課金の用意はできてるわっ!


「はーいっ! ルーカス先生、ごめんなさいっ!」

「うん、解ったなら良いよ。でも罰として、この問題は君に解いてもらおう」

「わからないわっ!」

「まだ問題を出してないよ。最初から諦めてちゃ駄目じゃないか。私が直々に生を諦めさせるまでは、ちゃんと足掻いてよね?」


 その後は黒板の前に立たされて、ルーカス先生直々に算数を教えてもらうことになったわっ! 頭が沸騰しそうよっ! 気のせいじゃないわっ! だって煙も出てるものっ!

 数字なんて数えられたら良いじゃないっ! 計算はコンピューターに任せればチャイニーズ無問題よっ! 何の為に人類が計算機を作ったと思ってるのかしら? 煩雑からの解放を目指した技術的革新に対して、人類はもっと甘えても良いと思うわっ! 仕事は機械に任せて、わたし達はもっと遊ぶべきねっ!


「大丈夫、ジェニー?」

「頭痛いよぉ……」


 でも結局、ルーカス先生の授業を最後までやり通す羽目になったわっ! 頭を万力で締め上げられているかのような心地だったわよっ! 拷問ねっ! 警察を呼びましょうっ!

 精神的苦痛を受けたと裁判所に申し立てないといけないわっ! 弁護士をお姉ちゃんのオフショットで雇いましょうっ! わたし秘蔵の、お風呂上りの色っぽいやつを使う時が来たようね。ジャパニーズ伝家のトレジャーカターナってやつだわっ! この前動画サイトで観たのよっ! ユーユーチューブは偉大ねっ! 何でも教えてくれるものっ!


「やあジェニー。相変わらず君は美しい。机に突っ伏しているその姿でさえ、一つの芸術作品にさえ思えてくるよ。ミロのビーナスも真っ青だね」


 するとそんなわたしに声をかけてくる人がいるわ。声色とこの気色悪い言い回しからして、あの男の子ねっ! げんなりしたわたしが顔を上げると、そこには予想していた彼がいたわ。ガッカリよっ!


「ハワード。何か用かしら?」

「何か用なんてつれないじゃないか。君という芸術品を、間近で眺める。こんな至福を無料で味わえる学校というシステムは、なんて素晴らしいんだッ! 学校教育というものを考え出した先人。そして君と巡り会わせてくれた運命の女神に感謝だッ! ああ、今すぐにでも抱きしめたいねッ! 人の目さえなければキスしてるところだよッ!」


 まるで舞台に立っているかのような仰々しい言い回しをしているこの男の子は、わたしのただのクラスメイト、ハワード=ロドリゴデトリアーノよ。

 わたしより背が低くて、黒髪のクルクルパーマを持ってて。いつも白い布一枚を身体に巻き付けて、ピンや帯で留めてるっていう古代ギリシャの哲学者みたいな恰好をしているわ。ジャパニーズHENTAIねっ!


「おおっと、嫉妬してくれなくても良いぞジェニー。キスやハグなんて、所詮は挨拶みたいなもんさ。ぼくの気持はいつだって君にだけ向いている。君はいずれこのぼくの奥さんとして、世間にその名を轟かせることになるんだ。ハネムーンはヨーロッパが良いかい、マイハニー? ギリシャなんかはどうかな?」


 そして勝手に付き合ったとか結婚するとか言いまくってる、わたし非公式のストーカーよっ! もしもしポリスメン?


「ハワードくん。ジェニーが困ってるから、そんなに捲し立てちゃ駄目だよ」

「おおっと、エマちゃん。まさにまさに、君の言う通りだ。弁舌が立つ男は社会において必要とされることが多いが、こと恋愛においてはそうもいかない。うるさい男性を好む女性から、静かな男性を好む女性と、その趣味趣向は千差万別だ。ぼくは君と家庭を築き上げるにあたって、君が望む男性にならなくてはならない。これは、恋の……いや、愛の試練だ。しかし、全部が全部君の望み通り、という訳にもいかない。ぼくはぼくで、一個人としてこの世に生を受けている訳だからね。税金だって払ってるし、当然人権という権利も持っている。ぼくにはぼくの望みがあって、それは当然ってやつなのさ。最近で言えば、ぼくは街の図書館で過去の新聞を読むことに傾倒している。ぼくらが生まれる前からあった世界の一端に触れる素晴らしい行為なのだが、それは時として人から敬遠されることもある。当然さ。同級生らが流行りのアニメや漫画の話をしている中で、ぼくは大統領暗殺の記事を夢中になって読んだりしてる訳だからね。何を良いと思うか、という価値観は違って当然なのさ。だからこそ、お互いが歩み寄る必要がある。ぼくは君に、君はぼくにね。触れる距離まで近づこうよ、ぼくと。その一歩目として、今週末に水族館にデートに行かないかい? 活きの良いイルカが見られる場所があるんだ」

「それだけ長い前置きをしておいて、結局はデートのお誘いだったんだ」


 エマが呆れたような声を上げてるけど、わたしに至ってはもう声も出せないくらいゲンナリよっ! うるさいったらないわっ!

 あと活きが良いイルカって何かしら? ローテンションなイルカはいないと思うけど、もしかして手品とかまでやってくれる系? いけない、気になっちゃうわっ!


「で、どうだいジェニー? ぼくと甘い休日のひと時を、共有してみないかい?」

「ノーセンキュー」

「HAHAHAHAHAHAッ! 全くつれないレディーだね、君は。仕方ない、今日は引きさがるとするよ。今度は一緒にデートしようね?」

「ネバー、デート」

「HAHAHAHAHAHAッ!」


 笑いながら、ハワードは自分の席に戻っちゃったわ。でも戻っても、わたしに対して熱い視線を送ってくるの。熱すぎて日焼けしちゃいそうっ! 日焼け止めクリームを塗らなきゃ。わたしの真っ白なお肌が、ストーカーによってガンになっちゃうわっ!


「モテるのねジェニー。羨ましくはないし、あんまり私を巻き込まないでね」

「エマって本当に冷たいのねっ! 流石はわたしの親友だわっ!」


 つれない態度のエマ。ハワードの熱い視線と合わせてちょうど良い温度になっちゃいそうだわっ! ストーブとクーラーねっ! どうしてわたしの周りには極端な人しかいないのかしら? ちょうど良い人が欲しいわっ! 今度のクリスマスで、サンタさんにお願いしましょう。

 どうかちょうど良い友達ができますように。サンタさんの困った顔が目に浮かぶわっ! お仕事頑張ってねっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る