第7話 事件解決

 とぼとぼとクリニックに戻ると、ジーニャ先輩がレッドとマリアンヌ様の病室に花を飾っていた。二人とも花が好きだからにゃね。

 声を掛けたら、少し驚いて白い耳を揺らす。


「用事とやらは終わったの?」


「ええまあ、はあ、犯人がいなくなったにゃあ〜」


「犯人って?」


「レッドをベランダから落とした犯人にゃよ〜」


「事故じゃないと言うの」


「そうにゃ〜」


 ジーニャ先輩に捜査状況を話した。多分、疲れていたんだと思うにゃ、それはもうベラベラ話していたのにゃ。


「ちょっと現場を見てもいいかしら」


 気がついたらジーニャ先輩をレッドの部屋に案内していた。あれ、上手いこと動かされている気がするのにゃ。

 ま、まさかジーニャ先輩が真犯人!?

 あたしの目を盗んで証拠隠滅を計ろうとしているのにゃ!?


 そうにゃ、医者猫族は魔王の一番の花嫁候補。ネイビー様を手に入れるためにレッドを──いや、それならマリアンヌ様の方を狙うにゃね。

 ?????


「高い位置にあるカギなら、本を大量に並べて階段にすれば届くんじゃない?」


 ほ、本を、階段に?

 大事なことが沢山書いてあるのに!?

 ジーニャ先輩が本棚からレッドの目線で取りやすい位置にある本たちを取り出す。


「ああっ!」


 裏表紙に靴の跡が残っている。

 ひ、ひどいにゃ。

 いくら子供だからって、知識を蔑ろにすれば後で後悔するにゃよ。


「次はベランダね」


 ジーニャ先輩はベランダの手すりの上にトンッと飛び乗った。

 にゃああ、落ちたら危ないにゃああ!


「きっと、あれが原因ね」


 ジーニャ先輩が指さした先を見ると、窓枠の上に鳥の巣が出来ている。よく見ると巣に穴があいて雛の姿が見えている。

 チュンチュンと鳴き声がする。


「活発なレッド様は、嵐の間、外に出られずストレスを溜めていた。

 嵐が去ってからも水浸しの地面は危険だからと外出を禁じられ、せめて爽やかな空気を吸いたくて鍵を開けてベランダに出た。

 そして、落ちそうな雛を発見して、助けるためにカーテンを引っ張り、背中からドンドン手すりに近寄っていき──濡れたベランダに足を滑らせて、落ちてしまった」


「犯人なんていなかった。事故だったにゃね」


「おそらくね。さあクリニックに戻りましょう」


 病室の中から声がしたのでチラリと覗くと、レッドが起きてしまっていた。ガッデム。ずっと側にいれば良かったのにゃ。

 でもネイビー様がレッドの手をかたく握っているのにゃ。

 良かったにゃ……。

 あっ、マリアンヌ様も目を覚ましたにゃ。

 ネイビー様はマリアンヌ様の顔を手のひらで包み込み、優しい微笑みを浮かべているのにゃ。

 なんて素敵なファミリー。

 あまりの美しさ、あたたかさに、あたしは見とれてしまったのにゃ。


 背後からジーニャ先輩がポツリと告げる。


「お似合いよね」


 その声色は寂しげで、いつものツンとした雰囲気はなく、泣き出しそうに感じられた。


「ネイビーが幸せなら、それでいいの」


 ジーニャ先輩はすっと仕事に戻っていく。ああ、やっぱり。好きだったのにゃね。元カノかもしれないのにゃ。

 うーん、どうして先輩はフラれたのにゃ?

 もちろんマリアンヌ様はとても魅力的だけど、先輩だって美しさでは全然負けてないのにゃ。

 ネイビー様のお母様が医者猫族で、それはもう冷たかったという噂を聞いた事がある。次男のパールオレンジ様ばかりを可愛がっていたとか。

 だから猫が嫌いなのにゃ?

 むう、レッドは猫好きにしてみせるにゃよ!


 あたしは、レッドを絶対に手放さないにゃ。


 今来たかのように装い、あたたかな家族の元に駆け寄った。

 ずっとずっと、大事にするにゃよ!



「医者猫ミーニャはナゾトキしたい」

 ハッピーエンドがお好みの方はここで終わりです。

 読んでくださり、ありがとうございました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る