第6話 赤い服を着せてやる

 翌朝、今日もレッドは眠ったまま。

 マリアンヌ様も同じ。

 あたしは今、二人のそばでリリィの書いた紙きれをもう一度見ている。十枚ほど同じだから全部同じだと思い込んでいたけれど、よーく見たら、一つだけ違う。

 使われているのがインクじゃない。

 その時、ジーニャ先輩がヒョコッと顔を出した。


「ミーニャ、朝の検温だけど」


「先輩、よろしくお願いします。あたし急用が出来たましたにゃ!」


「コラーー!!」


 あたしは急いでクリニックを後にした。

 階段を二段飛ばしで跳ねていく。途中、メイドにネイビー様への伝言をお願いして目的の場所に急ぐ。

 本当は一緒がいいけど、早くしないと逃げられてしまう。


 ノックをしないでドアを蹴破ると、目的の相手は居た。

 ふろしきに大量の荷物を積み込んでいる。

 まさに夜逃げスタイルにゃ。


「逃がさないにゃよ!」


 あたしは飛びついて標的を鷲掴みにして壁に叩きつけた。よくもよくも! あたしの大切なひとを傷つけて苦しめて!

 白衣を素早く脱いでグルグル巻きにして床に引き倒して乗っかる。

 そうしてネイビー様の到着を待つ。


「ミーニャ、そいつが真犯人なのか……根拠はなんだ」


「レッドに突きつけられた悪口の一つは、インクでは無い物で書かれていました。

 それはこの部屋にたくさん置いてあるもの。

 絵の具ですにゃ!」


 足の下でグルルルとうなっている画家の犬コロを見る。

 マッドアーティストめええ!

 あたしは絵の具で描かれた文章を読み上げる。


「“ 赤い服を着せてやる”ズバリこれは犯行予告ですにゃ!」


「ちがうワーン!!」


 犬コロはジタバタ暴れまくる。

 あたしがゴツンと拳で頭を殴れば「キャン」と鳴いた。大人しくしてろにゃ。


「ちがうワン……それは、そのままの意味で、赤い服を着て欲しかっただけワン……」


 謎の自供に、ネイビー様が顎に手を当てた。


「レッドは髪が赤いから、服まで赤いとバランスが悪いと言ったはずだが?」


「ネイビー様……暗めにすればいけます。レッド様の明るさと気品を出すためには……絶対に、赤がいいんです。赤い服にしてくださいワオオーン!」


 あたしはネイビー様に犬コロを任せて、部屋に飾られている絵画を見て回る。

 赤い服の肖像画ばかり。いつも白を着ているマリアンヌ様のラフ画も赤いドレスになっている。

 あ、赤い服マニアにゃあ……。


「貴様、レッドに力ずくで赤い服を着せる為に突き落として血まみれにしたという訳か!」


「ちがうワン! 死んだら肌ツヤが悪くなるワン! 絶対にしないワン!」


 うーん。デジャブにゃねえ。

 犬コロの荷物を調べると、貴重な金品の数々が見つかった。とりあえず窃盗罪で逮捕にゃね。

 犬コロは投獄が決まった。


 うーん、また違ったのにゃ。

 いったい、レッドを落としたのは誰なのにゃー!

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