第5話 真夜中の襲撃者

 その夜、レッドとマリアンヌ様のベッドを訪れた影に声をかける。


「面会謝絶にゃよ」


 ベッドの下から顔を出すと、影はビクッと震えて持っていたランタンを落とした。鋭い音と共に病室のカーテンが開き、ネイビー様が顔を出す。


「ミーニャの仕掛けた罠にまんまとかかったようだな」


 ネイビー様の手には色紙がある。

 あたしは城中を駆け回り、レッドの為の寄せ書きをお願いした。インクの質と書き方のクセを見るためだ。

 そして犯人を特定して、呼び寄せた。


「今夜は難しい手術があるから、医者はみな奥に集まっている。こんな大嘘にホイホイされて馬鹿にゃねえ」


 影は大急ぎで逃げ出そうとして、ネイビー様の闇魔法に止められ、床に叩きつけられた。

 ビシビシと鈍い音と共に沈められていく。

 あああ、患者さんが転ぶから穴を開けないで欲しいにゃー!

 ネイビー様の低い声がクリニックに響く。


「王家反逆罪だ。どんな答えをしようとも、死は免れぬと思え」


 ネイビー様の重力が止まり、影がゆっくりと起き上がる。


「うっ、ううううう……仕方なかったのです」


「誰かに頼まれたのか」



「レッド様が! かわいいから!! 悪いのです!!!」



 雄叫びが木霊した。

 全く意味が分からなくて固まる。


「ああああ天真爛漫なレッド様かわいいいい! そんな彼が、悪口を見て傷ついた顔がまた、最高にかわいいいい!!」


「じゃ、じゃあ“罪人”っていうのは」


「レッド様の可愛さマジギルティィィー!!!」


「貴様、そんなくだらぬ理由で突き落としたのか!」


「ってええっ!?

 そんなわけないじゃないですかあ! 窓を眺めていたらレッド様が落ちて、死ぬほど心配しましたよ!

 マリアンヌ様に助けて頂こうとすぐ呼びに行ったのです!」


 影の正体は、王妃専属メイドのリリィだった。

 彼女は鞄をゴソゴソして、悲鳴を上げた。中からクシャクシャになった折り鶴の大群が現れた。


「わあああん。レッド様に早く治って欲しくて頑張って折ったのにいい!!!」


 落ちた鞄の中身を探すも、凶器の類は無い。トドメを刺しに来たわけではないという事。

 えーと???

 ネイビー様も頭を抱えている。


「……つまり貴様は、レッドに悪口を書いただけで、落としてはいないのか」


「当たり前じゃないですかあああ!

 死んじゃったらもう笑ってくれない。泣いてくれない。絶対そんなことしませんよ!

 今夜は誰も側にいないって聞いて、かわいい寝顔を見に来ただけですよ!」


 だいぶ歪んでいるものの、どうもレッドのファンであることに間違いは無いみたいにゃ。

 リリィはひとまずメイド長に引き渡され、処分も彼女に任された。あたしは念の為に折り鶴を調べる事にしたけど、特に毒や呪いの類は見つからなかった。


 ──犯人探しはフリダシに戻された。

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