審判
──慶孝!──
……
……
誰かに名前を呼ばれた。
目を開けた視界には、教師とクラスの奴らの目線が一斉にコチラを向いている。
要するに寝落ちして教師に怒鳴られた。
──やる気が無いのなら帰れ!!──
……
………
◇ ◇ ◇
とあるベンチに座っての読書。
内容は[原爆により どの様に死んで逝くのか]
何が起きたかわからずに‥熱さと痛みにもがき、水を求め、死が確実に迫ってることに苦しみながら死ぬ。
人にとっては目を背けたくなるような写真でもじっくりと。
バイトまでの空き時間には丁度良い。
……
……
『慶孝くん』
……
また名前を呼ばれた。
そこには同じクラスの一人である女性。
名前は 生月 絢音 (いきつき あやね)
学校の奴らからは業務的会話どころか挨拶さえも遠ざかされてる自分に対し、この人にはよく声掛けられてる‥気がする‥。
いわゆる[お人好し]に分類される性格ってとこか。
……
「なに?」
『いやぁ‥。何でさっき授業抜け出しちゃったのかなぁ~‥って‥‥』
……
「教師が“帰れ”って言ってただろ?」
『べつに、本当に帰らなくてイイじゃん‥。先生も本気で言ってた訳じゃナイだろうしさ‥‥』
……
……
「記憶が正しければ、自習時間に大声で騒いでいたクラスの奴らに教師が腹を立て説教をした。騒いでない、出された課題もやってた自分に仲良く説教聞く筋合いは無い。説教終わった所で後は授業無しで下校するのみ。それならさっさと帰った方が合理的だろ?」
『………』
「どう?‥‥。これでイイですか?」
『合理的とか‥‥そんなんじゃないんだよ‥。私は慶孝くんに学校に‥‥』
……
……
もう正直めんどい。
駐輪場に停めていた原付を取り出しエンジンを掛けた。
「すまない。今からバイトなんだ。話はこれで終いにしてくれ。」
……
『あっ‥ああ‥‥。うん‥。また‥学校でね‥』
「ああ‥。またな‥」
◇ ◇ ◇
アイツは‥ここ最近父の方の親は、独り言が多くなっていた。
アイツの母‥‥自分にとっての祖母が亡くなってからはよく。
離婚してからの暫くは無口だったのが日を追うごとに、誰かが聞いてる訳でもなくしょっちゅう。
──いつになったら幸せが来るんだ~──
──飯がマズイ~──
自分勝手に泣き嘆き、他人に作ってもらった食事に愚痴る。
怒りや呆れを通り越して気持ち悪い。
──お前俺に恩返ししようと思わんのか!?──
──べーべー言うな!!男だろーが!!!──
うるさい
──どれだけ俺が苦労してるかお前知らねーんだろ!!──
うるさいうるさい
──慶孝!!──
バイトから帰って来てからさっそくの怒鳴り声。
本当に人をイライラさせるのが得意なお方だよ。
──なんだ!この成績は!?──
奴が手にしてるのは奴の目に入らぬトコに置いてたハズのテストの順位表。
どうやら自分の成績が芳しくないのが気にくわないらしい‥。
──俺が一生懸命働いて金稼いで学校行かせてやってるのに!──
──お前申し訳ないと思わんのか!?──
──俺が倒れたらどーすっつか!!?お前!!──
…………
──家族なんだから協力せなイカン!!──
まだアイツの話が終わりそうもない‥。
自分は[あるモノ]を持って来るために立ち上がった。
──おい!!人の話はちゃんと聞け!!―――
………コトッ‥
???
―――――!!!?
自分が奴に突き出したのは台所の包丁。
2本持ってきて1本はアイツに、もう1本は自分の目の前に‥。
さっきまでの騒音でうるさい空間が時が止まったかの如く静かになる。
……
………
「もうさ、来やしない幸せを願ってすがって生きてたってしょうがネーよ。ホラ、これで仲良く死にましょうや?」
……
……
「誰もアンタの幸せなんか知ったこっちゃねーんだ‥。喚き散らすだけしか能がない迷惑野郎は消え失せてた方が世のためなんだよ‥‥」
……
………
「ホラッ!!コレで腹を突き刺すか首を切るんだよ!!!」
………
…………
―――――バンッ!!!!
腹立たしいのか憎たらしいのか定かではないが、アイツは異様な表情取ってから拳を食卓に叩きつけ、わざとらしく音立てて玄関の引き戸を開けから、何処か行ってしまった。
………
「はぁ‥‥。あれが大人かよ‥‥」
「何であんなのが親なんだよ‥‥」
一生帰って来なくんなよ
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