過去

………


とても静かな朝。


いつも通りの日課として台所に向かう‥。


コンロの上には作りおきの味噌汁。

具材は豆腐玉ねぎの2種類。


あの人の最後となろう手料理は見た目からしても味気無さそうなモノだった‥。



──これからは母さんが居なくてもちゃんとしていくのよ──



自分の家庭は世間から見たら、いわば[複雑なご家庭]になるのだろう。


父の方の親が起業した会社がずっと経営困難状態が続き、小学校上がる前から両方口開けば金絡みで揉めてばかり。


そしていつかするんじゃないかと思っていたのが昨夜現実になった。


家族は今日から自分と父の方の親、祖母の3人。


新しく始まった3人家族での初めての食事は、今後の話をするわけでも無く、テレビ付けながらの黙食だった。


朝からすでに疲れていて学校行く気分でもないが、家に居た方が何かとゴタゴタが起きる。


だから学校には行く。


考えない

悩まない

考えない



◇ ◇ ◇



晩御飯は御飯に冷凍していたアジの開き一切れ。ちぎっただけのレタス。


数分で食べ終わり、少しテレビを眺めたら食卓で学校の課題に取り組む。


すぐさま布団の上に横になりたいが、課題をやらねば明日面倒な事になる。

そんな事は百も承知。


……


──慶孝──


……


父の方の親は目線も合わせもせずテレビ見ながら自分の名前を呼んだ。


──お金掛かるから高校行こうとするなよ──


………


マジだろうが冗談だろうが言うなよ‥。

聞いてるコッチは全く面白くネーから‥‥。



◇ ◇ ◇



とりあえずやるだけやりましたな課題を済ませ、週2~3の日課になりつつあるとある場所へと赴く。


自転車で緩やかな昇り公道約15分。

舗装されてなく隣に川が流れる山道約3分。


たどり着けばソコは町有一のキャンプ場。


田舎の平日夜ともなれば利用客なぞ存在せず、3つほどの街灯だけが暗闇で包まれてるキャンプ場を照らす。


向かう場所はもうちょっと先。


ここからは懐中電灯を頼りに、車も通れず自転車で行くのも無理な道を約5~6分。


………


来れば山ん中にあるちょっとした空間。


周りに民家の灯りは一切なく、人が日常的に出す音も無い。

隅っこには何かしらの作業をする為に立てられたと思われるトタン製の屋根。

その横には、キャンプ場の水道水として使われている小さな沢が流れている。


山側の斜面に背をもたれかけ、懐中電灯の光を消し目を閉じて一息深呼吸をする‥。


数秒閉じてた目をゆっくり開き、

そして辺りをゆっくり‥

じっ‥と眺める‥‥。


……


………


一言で言えば[綺麗]だ。


満月でもないのに月の光が地形の形をハッキリ写す。


耳をすまさなくても充分聞こえる自然の音。


心地良い‥‥。


いつもの日常の世界と本当に同じ境界線にあるのかと思うくらいに、とても神秘的でよい。


ココはあっちの方で起きた出来事も自然と忘れる事が出来る。


イヤ‥、無意識に持ち込まないようにしてるのかもしれない。


いわばココは[聖地]


穢れを入れてはならない神聖な場所。


ずっと‥‥。こうしていたい‥。


………


…………



──こんな時間まで何処ほっつき歩いてたんか!!──


ある時を境に脳内に響き渡るアイツの怒鳴り声。


……


戻ろう。


ココにはまた来ればいい。


ココは幻想ではなく実際に現実にあるのだから‥‥。

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