当日


……


頭が重い。

相変わらずもまた目覚めの悪い朝。

結局寝たの何時間だ?‥。


それなりに寝て体力回復しないと昼間がキツいってのに、余計なモノ見て、それでまた余計に勝手にイライラする。


始まるまで1時間ちょっとか‥。



◇ ◇ ◇




降り立った場所は会社ではなく、山沿いにある現場。


大雨による土砂崩れが起きて、再発しない為の工事作業。


もっぱら自分は知識も技術も無いから土砂運びと掘削がメインになるんだろうけども‥。


他にも道路補修工事周辺の交通警備、建築現場の足場の運搬,組立、公道の除草、等々の他、土木作業を少し。


これが自分が昼間の方にやってる仕事。




◇ ◇ ◇



──お使いに行って来てくれ──



暫くすると現場管理人を兼任する社長さんが言ってきた。


急ぎでも無いからゆっくりでイイと唐突に出てきた長めの休息に内心少し安堵。


渡されたメモと必需品持って、運転時間約10分。1番近くのホームセンターへと向かった。



◇ ◇ ◇



昼食間近となると、店内のちょっとした食品コーナーに目を向けたくなるが、視線を向けないようにコトを済ませ、助手席に座り、冷凍してた御飯と冷凍食品を詰めた弁当を味わう事もせず、ただの栄養補給作業の感覚で一気にむさぼり尽くす。


せっかくの長めの休憩時間。

無駄にはしたくない‥。


すぐさま仮眠しようとするが、狭き軽トラの中では身体のどこかしらが硬い部分に当り、とてもじゃないが寝れそうにない‥‥。


はぁ‥。


すこし考えれば分かるコトを‥。

ちょっと余裕が出ると直ぐこれだ‥。


そしてそのちょっとのイラつきで眠気が無くなるという皮肉‥。


相変わらずの自分の思考力の無さと要領の悪さには嫌気がさす。


ああ‥だめだだめだダメだ駄目だ。

駄目駄目駄目駄目。


考えない‥。

考えない考えない‥‥。

考えない考えない考えない‥‥‥。


考え――――




『慶孝くんだよね?』



――――!!


唐突に誰かに下の名で呼ばれ、身体に電流が走ったかの様な感覚に陥る。


声に出してた?

聞かれてたのか‥?


車の窓越しに距離50cmにも満たない近さに、その女性は居た。


彼女が誰なのか認知するのに5秒もかかりはしない。

いわば知り合いであるがゆえに名前も分かるし会話したこともある‥。


ただ、唐突過ぎて言葉が詰まる。


「あっ‥」


『やっぱり慶孝君だぁ~♪今ちゃんと顔が見れてハッキリしたよ~♫‥今仕事の休憩中?』


「‥‥いや‥まぁ‥そうだけど‥」


『そっか‥。じゃ、私ん家スグそこだから寄って来てよ。今の時期だと車の中でもけっこう寒いでしょ?』


何故か自分の了承も得ずにグイグイと話が進んでいる‥。


「いや‥午後からも仕事があるし‥別に‥」


『ほら!早く早く♪休憩時間無くなっちゃうよ♫』


彼女は自分(慶孝)を半ば強引に運転席に追いやろうとするのでつい――


「ちょっと!!」


『‥‥!!』


「別に‥いいから‥‥」


彼女の突拍子もない大胆な行動に、つい声を高らかに上げてしまった‥。


そもそも知人とはいえ、数年間会ってなかった奴を偶然に出会っての、ものの数分で自宅に招き入れようとするか?普通?‥。


その知人としての過去だって録に会話なんてしちゃいない。


第一自分は彼女に‥。


『……』

「‥‥‥あ‥‥」

『…………』

「いや‥‥あ‥‥‥」



『‥‥‥‥これ‥‥』


……??


『重くて運べないから乗せてってよ?』


膨れっ面の表情をしてる彼女の手には、ホームセンターで購入したと思われる品が入ったバッグ。


「いや‥家近くなんじゃ‥‥」

『重くて運べないって言ってるじゃん!』


じゃ何で運べない量になるまで買い込んだんだよ‥。


そもそも店から離れたココまで、ソレ持って歩いて来てるじゃんか‥。


「それで‥家はどこ?」

『ソコ』


………


指差した先に数軒の家。


本当にスグソコだった‥。

運転に15秒も掛かりそうのない距離。


先程の膨れっ面とはうって変わっての楽しそうな表情。


結局言われるがままにしてるが、この後自分どうすればイイんだ‥‥。



◇ ◇ ◇



『じゃお仕事頑張ってね~♫』


「ああ‥。今日はどうも‥」


彼女の家の昼食をお裾分けして貰った後、大量のカップ麺やお菓子を渡され車に乗り込む。

シートベルトを絞めてエンジンを掛けようと瞬間また彼女が言ってきた。


『あ~っと!その前に慶孝くん!ちょっと携帯出して!』


「えっ?携帯?」


『そう、せっかく久しぶりに出会ったんだからさ♪番号交換しようよ♫』


「な‥‥何で?」


『─何で─‥って‥。慶孝くん‥嫌なの?』


「いや‥嫌じゃないけどさ‥‥」


『ならしようよ♪同じ地元暮らしなら色々と役立つって♫』


言われるがままに携帯を取り出し、番号を伝えた後、手を振ってる彼女に会釈で返し現場へと戻って行った‥。


……


まさかあの時以来の再会が、こんな形になるるとは。

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