💝5 魔法少女は希望する ~仲間がいる!もうなにもこわくない!~
「魔法少女、魔法抜き――ってそれただの少女やないかーいッ……的な!?」
「理解が早くて助かる」
「!?」
このフレーズちょっとおもろいかもッス~、くらいの気持ちでそのまま口に出してみたサラは、朱鐘ににべもなく肯定されていっそう目を見ひらいた。文字どおりシャレにならなかった。
「才能があれば使えるのはたしかだよ」
隣りでシグが
「前例なしだろ」
「朱鐘はすぐボクをワルモノにしようとする。いいじゃないか。きみたちに魔法が使えなくて、いったいどんな問題があるっていうんだい? むしろ疑似的とはいえ、変身魔法だけは好きなだけ使えるんだ。ボクが戦うから戦わなくていいし、なんなら今後一切関わりを持たなくたってかまわない。きみたちが損をするようなことはひとつもないよ?」
「だったら
「ヨビ!?」
「その言いぐさはひどい」
サラの悲鳴にシグが同調、もとい便乗した。
「八人目だからって軽く扱ったりはしないよ?」
「七人目までまともに扱ってから言え。そういうところだって自分でもわかってるだろ。でなきゃ、どうしておれに隠れるみたいにこそこそわざわざ隣り町まで契約取りに来るんだ?」
「あの公園はギリギリ
「そういう問題じゃない。おい、きみ」
シグと平行線のやり取りをつづけて据わってきた目を、朱鐘はそのままサラに向けた。心音もなくしたように固まっていたサラは、急に電気を流されたように全身で跳ねた。
「学校は?」
「はぇぇ、と……リョウゼイ、第二、ッス」
「やっぱり隣り町……って第二ッ!?」
令法野の隣り町、
第二学園は、中高一貫校として作られたものだが、数年前の事業再編で高等部がまるごと第一高校へと編入されてなくなった。つまり、現在の第二学園生徒は――。
「中ッ学ッ生ッじゃねえかッ!」
思わずといった様子で朱鐘がテーブルを殴りつける。グラスから飲み残しが跳ねたのに合わせ、シグの姿がその場から消えた。直後に同じ魔法生物の声が、ふたりの頭上に振ってくる。
「センコートーシと言ってほしいな」
シグはテーブルの真上に浮かんでいた。短い腕を器用に組んでいる。
得意技の
「それっぽい単語でごまかすなッ。ただでさえ令法野の外の人間におまえ……!」
「そんなこと言ったって、もう契約しちゃったし。どうせ十九歳になったら自動で切れるんだし、それまで忘れてたっていいんだし」
「そういうことじゃないって何度言えば――」
「あのぅ……」
ひらき直りはじめた魔法生物を見あげて朱鐘は苦い顔をしつづける。その彼に、サラはまたおずおずとたずねてみた。口をはさむと朱鐘はちゃんと聞いてくれる。
「令法野っていうか、
「あぁ、いや……」朱鐘は少し申しわけなさそうな顔をした。
「きみのほうに非はない。ただ、慣例としてだが、契約者は令法野の在校生に限ってるんだ。そのほうが安否の把握がしやすいし」
「安否?」
「いや、魔法少女でいることに危険があるわけじゃない。けど、不謹慎だが、もしものことで欠員が出たとき、うちの害獣が全力を出せなくなる可能性がある。そこでマガツヒたちに先手を取られないための、保険みたいなものだ」
「いまはひとり欠けても問題なくなったけどね」とシグ。朱鐘がいままでで一番渋い顔をしてうめく。
「この
「魔法少女だけの部活!?」
サラの反応に、朱鐘も気づいたらしかった。さっきまで目を涙でいっぱいにしていた子供が、いまは別の意味で頬を赤くして目をキラキラさせている。その勢いと変わりように戸惑いつつも、気持ちのゆるまない者はいなかった。
「ハイ! 行ってみたいッス! その部活!」
「『魔女部』に?」
「まじょぶっ!?」
新しい情報を渡されるたびにサラはおおげさに驚いて興奮していく。ずっと硬い表情でいた朱鐘もようやく目を細め、軽く肩をすくめた。
「まあ、そう言ってもらえるならありがたい、か。ただ、中学生をどうやって校内に入れようか……」
「その点は問題ないんじゃない?」
頭上から声が降ってくる。丸い胴体からそのまま伸びた太い尾を揺らして、シグは電灯の下に浮きつづけていた。
「サラ、そろそろ変身を解いてみたら? 朱鐘に素顔を覚えさせないと」
「はっ! それはそうッスね」
サラは朱鐘に出会ってからずっと自分が魔法少女のままでいることを思いだした。体格から違うのだからもう少し違和感があってもよさそうなものだが、そこは〝理想の自分を実現している〟という変身魔法の特質なのかもしれない。
「えと、普通に解いちゃっていいんスよね? 見られても?」
「問題ないよ。認識阻害の魔法が周りに、アストラル★セイランのきみは『見てないうちにいなくなった』と思わせるし、元の
「ほぇー。録画されててもバレないんスか?」
「うん。そもそも人類の作った機器に二次元的な記録は残らないからね」
「うぇっ……?」
サラはまた半笑いで凍りついた。単に驚いたときと様子が違うことに、朱鐘も気がつく。
「どうかしたか?」
「ほへぇ!? やー、なんっ、なんでもないッス! ってゆーかそのぉー、せっかくだから自撮りアップしたいなー、なんて思ってたんで、そこはちょっちザンネン、みたいな?」
「ああ、そういう契約者は多い。見た目がよくなれば承認欲求をくすぐられるのも自然な感覚だろう。自分が自分だと気づいてもらえないと、人はストレスを溜めやすい。そこを埋め合わせるための魔女部でもある。同じ魔法少女にだけは認識阻害が働かないからな」
「なるほどッス~。だからセンパイには身バレできるんスね~、なるほどッスぅ~。そんじゃあそんじゃあ、気を取り直しましてー……グローリー・オーバー!」
変身を解きたい、と思ったところで頭の中に浮かんだ言葉を、サラは迷わず口にした。朱鐘がそうしたときと同じように、視界がブレて、目線が変わる。
元の視界は、慣れ親しんだ赤いフレームに縁取られていた。ひとまわり大きくなった手を見れば、今朝自分で描いた猫の絵のネイルが指先にある。お気に入りの雪だるまのチャームブレスも。
無事に元の姿へ戻れたことに、サラは自分でも少し意外に思うほど胸をなでおろしていた。安心しついでに、そういや変身中ハダカにとかはならないんスねー、とちょっぴり拍子抜けのような気もしつつ、改めて朱鐘に顔を向ける。――と、彼はソファの背もたれ側へのけぞるようにしながらサラを見て、ぽっかりと口を開けていた。
「ふぇぇ? な、なんスか? ちゃんと着てるッスよ?」
「はぁ!? や、だって中、がく……」
サラは一日着ていた青いセーターとブラウスをつまみ、引っ張って材質まで確かめてみる。顔の横に見える金色の髪も、うしろでまとめているポニーテールも変身前のそのままだ。ポケットからスマホを出してインカメにも映してみた。祖母ゆずりの緑の目とうっすら散ったそばかすが、いつものようにそこにある。
「なんかヘンッスか、朱鐘センパイ?」
「や……変じゃ、ない、けど……」
キョトンとするサラの顔から、朱鐘の視線が
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