💝2 魔法少女は撃退する ~ビームを撃とう!撃ちたいよね?~
「
シグの体が発光する。同時に流れこんできた頭の中のフレーズを、サラはそのまま口にした。
瞬間、視界が白く吹き飛ぶ。
全身に冷たい感覚。水槽を突き破り水の中へ飛びだしたような。
凍えて丸めかけた全身を、今度は熱風が包みこむ。
炎が全身を、指の先までなめていく感触に思わず恍惚とした。いつの間にか落ちているような感覚だったのが、突き刺さるように地に降り立つ。
衝撃に跳ねあげられるように、サラは目を見ひらいた。
同時に目を見張る。まず景色が違う。目線が変わっていた。見えるものは真っ白になる前と同じなのに、やけに下がった視界はまるで別世界のようだった。
思わず自分を見おろせば、あふれんばかりの赤と白とが迫りくる。
無軌道なレースで飾られた、リボンとピンタックまみれのロリィタジャケット。
ガーターのついたニーソックスとホットパンツ。赤い手袋にトゥシューズ。
制服のブラウスも重ね着していた青いサマーセーターもどこにもなかった。ついでに胸もない。柔らかな生地の中に大切に包みこまれるようにして、細くて小さな体の自分がここにいるのがサラにはわかった。
「お? おおぉほほぉぉ!? ほ、ほんとに変身したデース!」
「デス?」
魔法生物が首をかしげる。
「す、すごいデース! 体が軽い! 動きやすいし、しかもめっちゃカワイイデース! 髪もふわふわ! ってふぁぁ!? 眼鏡も消えてるゥ! 裸眼でめっちゃ見えてるデスコレ!」
「おかしいな。口調にまで影響ないはずなんだけど」
「サラちゃん、なるときゃなるのデース!」
「もう
「セイラン……!?」
深い青から金に変わっていたサラの両目がいっそう輝く。カワイイのもカッコイイのも彼女にとっては大正義だ。ハニーブロンドのポニーテールもいまはピンクに染まったツインテール。その結び目の間で猫耳がピクピク振動する。
「ほぉぉぉぅッ。言われてみれば、ぱいぱい消えて身軽なだけじゃないデース。体中にパゥワーがみなぎっている気がするのデース。これがマジカルパゥワー、なのデスネ!?」
「違うよ。アストラルエナジーだ」
「こ、細かいデぇス!」
「アストラル★セイラン。はしゃぐのもいいけど、そろそろ敵が動きだすよ?」
「にょあッ!? そうデシタ!」
ベンチの残骸の上でのびていたトンボリウスが、いつしかガクガクと震えはじめていた。
「ほぇー……っと、どしたらよかデスか?」
「魔法でトドメを刺すんだ。杖を持ってるだろう?」
「ハッ! 持ってたデス」
サラは自分がずっと握りしめていた棒状のものに目を奪われる。杖というよりは、マーチングバンドの使うバトンの趣きだ。両端には赤いバラが咲いている。イバラがからまってはいるが、握りしめても痛くはない。
「ほぇっと、どう使うデスか?」
「使いたい魔法をイメージして、それらしい呪文を唱えるんだ」
「そ、それらしいってなんデスか?」
「呪文はただのポーズさ。集中力を引きあげるんだ。サラは初めてで不慣れだろうから、イメージする魔法も単純なものがいい。ビームとかね。ビームだね。ビームでいこう」
「ナゼにビーム推しどころか若干決まりかけてるデスか?」
「急いで、サラ! このままじゃ町が危ない!」
「ぬわああんっ、名前も戻ってるしイロイロてきとーデぇス! もうやればよいデスネやれば!? ぬぬぬぬぬぬぬッ!」
サラは杖を握りしめ、ひとまず目を閉じて念じはじめる。しかし、あ、でもビームっぽい呪文って全然思いつかねーや、と思っていったん薄目をあけた。瞬間、頭を起こしたトンボリウスと目が合った。
複眼なので目線はわからない。だがなぜか向こうもこちらを見たとサラは感じ取る。夕陽に照りかえるそのツヤめきがどこかあわれっぽく見えて、サラは思わず「んーでも、なんだかちょっとかわいそうデ――」と言いかけた。
瞬間、光の奔流が
凶悪な太さのその光線は、一瞬のうちにベンチとトンボリウスを丸呑みにしてちりも残さず消滅させた。あとには公園のタイル張りの遊歩道をきれいにえぐった弾道だけが残される。
その破壊の痕跡を、サラは呆然としながらながめていた。
確かにビームは出た。ビームは出たし、そのときサラも魔法をイメージしながら言葉を発した。ただ、それは呪文ではなかったし、だいいちビームは杖から出なかった。
「ふう。危ないところだった」
そのビームを代わりに撃ち出したものが、隣りでほっとしたように息をつく。
ドラゴンっぽい造形の魔法生物。ふかふかしていそうな額から、かいてない汗を短い手でぬぐう仕草をしながら、そのマスコットは
「上出来だよ、アストラル★セイラン」
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