第20話 夏休みの計画
「よぉおおし!!夏休み来たー!!!!」
と、向井の声が5年3組の教室中に響き渡った。周りのクラスメイトがぽかんと向井を見つめる中、椅子の上に足を乗せて、ガッツポーズを決めている以上、何か取り返しのつかないことをしてしまったかのように向井はそのままの状態で固まってしまった。
そして、俺にヘルプと言わんばかりの目線を送ってくる。だが、テンションを上げ過ぎた向井の自業自得なので、俺はそっぽを向き、窓の外を眺めていた。住宅の屋根の上に白い積乱雲が外に見えたため、今日は雨が降るのかもな、などと考えていた。
2012年7月20日。俺にとっては小学五年生として二回目の夏休み前の最後の学校の日だ。そして、今はもう一学期最後の帰りの会は終わり、向井の他にも、クラスメイトのほとんどがテンションは上がっているようだった。
本当は見たくもないが、あの藤田恭子達も、どこかそわそわしており、ちゃんと少女らしく楽しそうな笑みも浮かべていた。悪魔みたいな所業をしておきながら、あんな笑みを浮かべているなんて、どこか許せない気持ちがあったが、あいつらと約束を交わしてしまった以上、俺の方からも迂闊には手は出せない。と、俺がそんなことを思っていた瞬間、俺の両耳に小さな痛みが走った。
「人の話を聞けー!!!」
何故か怒っている成瀬に後ろから両耳を横に引っ張られた。だが、その痛みはどこか今までよりかは優しいものであり、今までの痛みを激辛ラーメンと例えるなら、今回の痛みはカレーの中辛を食べているようなものであった。
「え、どうした。成瀬」
「どうしたも、こうしたもないよ!!向井と八輪と私の夏休み計画を立てているんだから、ちゃんと話し合いに混ざってよ!!」
「えええ、いつの間にそんな話になってたのかよ」
「八輪が聞いてないからでしょ!!」
と、成瀬に少し怒りながらそう言った。正直、右ストレートパンチが飛んでくるのではないかと、俺は警戒していたが、その心配は必要なかったようだった。
そして、さっきまですごい恥ずかしい思いをしていたはずの向井はいつの間にか復活しており、俺たちは一つの机を囲んで、『夏休みすることリスト』を書き出していくことにした。
「まずはプールだろ、バーベキューだろ、海に釣りにも行こう」
「いやいや、向井。センスないぜ。プールじゃなくて海、バーベキューじゃなくてキャンプ、海じゃなくて川で釣りだろ」
「いやいやいやいや、プールじゃないと流れるプールで泳げないし、バーベキューだけじゃないと盛大にできないし、海で大物釣りたいだろ」
「いやいやいやいやいやいや、海の方が波とか市民プールでは味わえないようなものあるし、キャンプだって家で泊まるよりもなんか良いし、川の方がアユとか色々釣れるだろ」
向井と俺は割と不毛な争いをしていると、成瀬は向井と俺の顔の前に手を出して、静止を促した。最初は止まる気は互いになかったが、成瀬が譲る気がなかったため、俺たち二人は口を動かすのを止めた。
そして、成瀬は満を持して、口を開いた。
「二人ともセンスがないよ。夏休みと言ったらやっぱり遊園地でしょ!!」
「「それもあるけど、俺らの意見を聞けー!!!」」
成瀬の言葉に、俺と向井は同時にツッコミを入れた。
そして、その後も話し合いは続き、10時40分には帰りの会が終わっていたが、いつの間にか11時10分ごろになっており、30分くらいこのやり取りをしていた。だが、その30分でも決着はつかなかったため、俺たち三人は後日、再び話し合うことに決め、帰る準備を始めていた。
「く、どうしてわからないんだ、めぐると成瀬。絶対に俺の提案に乗ることが一番良い夏休みを過ごせるというのに」
「それはこっちのセリフだ。俺のが一番良いに決まっている。な。成瀬」
「遊園地に行くことは決まったけど、私は釣りに関してはしたくないからね!!釣りって暇そうだし」
それぞれがそれぞれの意見を言いながら、同時にランドセルを背負った。だが、俺は背中に感じるランドセルの重みがいつも以上であることに気が付いた。
「なんかいつも以上に俺のランドセルが重たいんだが」
「まぁ、八輪って今日までに全然学校から持って帰らなかったしね。自業自得なんじゃない~」
俺の言葉に、少し煽り口調で成瀬はそう言った。
だが、言われてみれば俺は夏休みまでに荷物を持って帰らなければならないものを忘れていた。だから、俺のランドセルの中はパンパンに詰められており、外には給食着やら体育着やらが入った袋がランドセルの横に巻き付いている。
反対に成瀬や向井のランドセルの中は一、二冊教科書とかが入っている程度で、もちろん外側には何も巻き付いていない。
仮にも精神年齢が大学生だというのに、小学生にこのような点で劣るなんて…。
「はぁ~」
と、俺は少し自分の不甲斐なさにため息をついてしまった。だが、そんな時、俺のランドセルの横に巻き付いていた体育着と給食着が入った袋を成瀬に奪い取られた。そんな成瀬の方を見ながら、俺は思わず驚いた表情を浮かべてしまっていた。
対して、成瀬は少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら。
「八輪が言わなくても、私は気が付いているから。だから、何も言わずに私にこの二つを持たせて」
と、言ってきた。
いつもなら絶対に成瀬は俺の荷物なんて持たないし、多分笑い転げているところだろう。けど、今の成瀬は違う。少し恥ずかしい気持ちを抱えながらも、俺に感謝の意を伝えようとしてくれているのだろう。
「わかった」
だから、俺も多くは語らない。承諾の意だけ伝えて、俺はそのまま成瀬にその二つを任せることにした。
剛力先生といい、成瀬さえも俺に感謝してくれるのか。だが、少し悪い気はしないな、こうやって感謝されるのは。
俺がそんなことを考えていると、向井はそんな俺と成瀬の背中を押して。
「さぁさぁ、帰ろうぜ!!」
と、言った。
最愛の彼女と共に殺された俺は過去を変えたいのか @chachakotaro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最愛の彼女と共に殺された俺は過去を変えたいのかの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます