第16話 元凶との対面
六時間目が無事に終わり、遂に帰りの会を迎えた。
ここからが本当の勝負だ。まずは何故、俺が向井を成瀬と一緒に帰らせようとしたのか、そしてその誘いを教室内で目立つようにやらせたのか。それはクラスメイトの目を成瀬に注目させることだ。
俺も帰る支度をしながら、成瀬を見るクラスメイトの視線を伺った。少し時間が経っているとはいえ、向井が教室で成瀬に告白をしたことはクラス内では持ち切りで、クラスメイトは皆、成瀬と向井の様子を離れたところから見ている。
このクラスメイトの視線が藤田達に迂闊な行動をさせないための予防線となる。少なくとも今日だけは放課後にいじめることはできないはずだ。
俺がそんなようなことを考えていると、いつの間にか成瀬が俺の目の前まで来ていた。席が隣であるため、距離にしては一歩程度動いただけだが、その行動にクラスメイトはどよめいていた。
そう思っている俺もその成瀬の行動には理解が追い付かず、少し困惑してしまっている。そして、成瀬が俺の腕をつんつんと突きながら、消えてしまうようなか細い声で俺に呟いた。
「向井と帰ることになったんだけど、何話せばいいと思う?」
そんな成瀬の顔は少し赤くなっていた、今から迎える向井との帰宅に緊張を隠せずにいるのだろう。そして、本来の様子ではない成瀬に、俺の目的のために、俺はいつもとは違う態度で。
「あいつはスポーツ系が好きだからその辺の話でもすれば盛り上がるんじゃないか?」
と、適切なアドバイスをした。本来の俺であれば、おそらく知るかー。とこの問いに真剣に返しはしなかっただろう。けど、成瀬のため、そして未来の俺の彼女のためにいつもとは違う俺を見せた。
「そ、そっか!!ありがとうね!八輪!!」
成瀬は引き攣った笑顔でそう言うと、自分の席に着いた。
おそらくいつもとは違う俺の態度に気が付いたのだろう。だが、それに問い詰めることはなく、成瀬は引き下がったのだ。
それが成瀬にとって最善で、それしか彼女にはなかったのだから。
そして、帰りの会が終わり、俺はちらりと横に視線を向けた。そこには成瀬と向井が話しながら、並んでそこに立っており、俺の視線に気が付くと、「また明日」と互いに言い合い、二人は教室を後にした。
さて、そろそろ俺の番かな。
俺は教室を出ると、廊下を歩き、階段を下る。そして、一階に着いた後、物置にされている空き教室へと向かい、そこの戸を開いた。
「あ、八輪君。ようやく来た。それで私に話って何かな?」
そこには俺が呼び出したこの件の全ての原因、藤田恭子の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます