第14話 一緒に帰ろ

俺が向井に全てを話した次の日、俺たちは早速、作戦を決行してみることにした。まずは向井には成瀬と一緒に帰ってもらうこと。これがまずは第一段階だ。

俺は昼休み頃、給食を摂った後でお腹いっぱいになり、眠くなっているていで机に突っ伏しながら、成瀬の方をじっと観察していた。そして、しばらくすると作戦通り、成瀬の元に向井がやってきた。


「よっ、成瀬」


「あ、向井。どうしたの?」


「あー、ええと、よ。今日、一緒に帰らないか?」


と、向井はそう言った。これは俺の指示通り。成瀬は変に鋭いところがあり、下手に嘘を言うことは望ましくない。何故ならこの作戦は成瀬自身への信頼が重要だからだ。

だから、向井自身が嘘偽りなく、成瀬と帰りたいというところだけを成瀬に表現すれば、嘘を吐いたことにはならないだろう。


「え、突然どうして?」


「いや、実はちょっと…な。ああー、ええと……」


「何か変なこと考えているでしょ。どうせそこで寝たふりしている八輪と一緒に」


いきなり俺の名前を呼ばれ、俺の体は静かに硬直した。流石に鋭い。だが、ここまで早くこの作戦が看破されるとは思わなかった。

それにこの作戦が看破されたということは成瀬の心に疑いの芽を植え付けてしまっただろう。

こうなれば仕方がない。別の作戦を考えて、実行するしかないか。と、俺は思い、寝たふりを止めて、成瀬に冗談と言おうとした瞬間、向井から出た言葉に俺は耳を疑った。


「……俺は成瀬が好きだから、よ。一緒に帰りたいんだ」


ガタっと、成瀬の机が揺れた。向井から出た衝撃的な言葉に思わず机の上に置いていた手を動かしてしまったのだろう。

それにこれは俺にとっても想定外の展開で、俺が伝えた作戦の中にはそんなものはない。


「え…ええ……………??」


突然、告白に近いことをされた成瀬は言葉に詰まっているようだった。だが、今の告白で、成瀬の心は揺れ動いているようだった。


そして、小学生というのはこういう噂は大好物だ。たまたま成瀬達の近くを通りかかった男子児童が、そんな向井の告白を聞き。


「おーい!!みんな!!向井が成瀬に告白してんぞー―――!!」


と、騒ぎ立てた。それを聞きつけた他の男子児童は「おおー!!やるじゃんか、向井!!」「こんなとこで告るなよなー」とそれぞれにさらに煽った。

本当に想定外の想定外のことが起こりつつあるが、これは好都合なのかもしれない。向井はなんだかんだクラスメイトには好かれている方であるため、向井の恋路の話を逃したりはしない。

そして、こんな教室の中で成瀬と一緒に帰ろうと言ったとなれば、成瀬にクラスメイト達の注目は集まった。つまり藤田達が成瀬を無理やり連れだして、成瀬をいじめることは困難になった。


これは俺が考えた作戦より一段階上へ行ったのかもしれない。


「告白の返事はまた今度でもいい。だけど、一緒に帰る返事は帰るまでに教えてくれ」


向井は成瀬にそう言うと、周りで騒ぎ立てていた男子児童をかき分け、教室から出て行った。

少し時間が経ち、教室内が成瀬達の話題が一通り終わった後、俺は今更起きたように机から顔をあげ、教室を抜け出した。

その最中、成瀬の席を見たが、そこに成瀬の姿はなかった。


そして、昼休みが終わる直前、一緒に帰るという向井からの誘いの答えが成瀬の口から語られた。


「一緒に帰るっていう話の返事。いいよ」

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