第13話 策を練る
「ってことなんだ。今まで黙っていて悪い。けど、剛力先生の件は奴らのやったことだと俺は推測しているから下手に他の人を巻き込むわけにはいかなかったんだ」
俺は今までのことを向井に全て話し、最後にはこう締めくくった。俺の真面目な表情からそれが嘘ではないことを感じているようだった。もちろん俺が言ったことに何一つ嘘はない。
そして、向井はその真実を受け止めるのに苦戦しているようで、腕を組みながらうーん、と唸るように声を出していた。
「……俺はこの話を思ったより簡単に受け止められている。たぶん俺は何となくわかっていたからだと思うけどな」
「まぁ、そうだろうな。実際、成瀬とあの女子グループ、いや藤田との仲は明らかに良くなかったし。ただその現場に出くわさなかったら、いじめまでやっていたことには気が付けなかったかもな」
「だよな。俺もそこまで険悪だったとは思わなかった。だけど、いくら仲が悪いとはいえ集団で一人をいじめるなんてことをやっていい理由にはならないけどな」
向井は今まで見たこともないようなくらい目に力が込められており、怒りに満ちた表情を浮かべていた。向井は少しお調子者のところがあるが、こういうことに関しては許さないという人情に熱いところがある奴だ。だから、こういう反応することはわかりきっていたことだった。
「それで?お前は成瀬を助けるんだよな?」
向井はそんな怒りの表情のまま俺の方を見てきた。
俺はもう成瀬を助けるのを諦めてしまっていた。もう無理だと思ってしまっていた。だけど、向井にこうやって問い詰められてしまうと、成瀬を助けざるをえないのかもしれないと思ってしまう。
……………………………………………………‥いや、違うな。
俺は誰かに背中を押して欲しかったのかもしれない。俺はものすごく弱い人間だ。俺一人で何かをやろうとしても、何かと言い訳をつけて簡単に諦めてしまう。
だからこそ、向井にこうやって問い詰めてもらってどこか俺自身がどこか救われた気がしていたのかもしれない。
「ここ最近、迷ってばかりだった。成瀬がいじめられているっていうのに。助ける手段も何も浮かんでないし、なんだかんだ下手に巻き込まれるのが嫌だったのかもしれない。けど…俺はやっぱり成瀬を助けたい」
「それでこそ、めぐるだ。でも、安心しろ。何かを考える時は一人で抱え込むよりも、誰かと考えるほうがいい。そして、今回その誰かが俺だっただけだ」
向井は右手の親指でびっと指さしながらそう言った。そんな向井の自信過剰な態度に俺は少し呆れながらも、どこか頼りになりそうな雰囲気を感じ取った。何の根拠もないが。
「はっ、なんだそれ。でも、お前と組めば少なくとも俺一人でやるよりもいいかもな」
「だろっ」
向井はそう言うと、自分を指していたその右手を差し出してきた。その右手は握り拳を作っているが、何かを攻撃するためではない。その意味を理解した俺は少し恥ずかしながらも、同じく握りこぶしを作った右手を差し出した。そして、向井と拳を合わした。
「それで、まず一つの手として俺一人じゃできなかったことをやってみたいと思う」
いつまでも拳を合わせるのも恥ずかしいため、俺は三秒ほどで離すと、これからの方針を話始めた。
向井が成瀬と一緒に帰ってもらい、俺が藤田達に話を付けてくる。
かなり単純な作戦なのだが、俺以外の人間は向井も含めて小学生だ。別に甘く見ているわけではない。現に大人がやられてしまっているのだから。だけど、下手に藤田達を刺激することは得策ではない。話し合いで済むのならそれで済ましたい。
だが、この作戦は意味を成さない可能性が高い。それに向井も気が付いたのか。
「もし、藤田達が話し合いに応じてくれなかったどうするんだ?それにその場では軽く流されて、また裏でやられる可能性があるだろ」
「ああ。だからまずは藤田達が成瀬をいじめるようになった原因を聴き出す」
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