第4話 15時30分

成瀬に溝内を殴られた後、数分後に俺の登校班は登校を開始し、無事小学校にたどり着くことができた。

これから俺は小学5年生として小学校で過ごしながら、俺の彼女を殺した犯人を探し出していくのだが、それよりも前に俺には問題がある。それは俺の小学5年生のクラスでの席が分からないということだ。


俺と同じ登校班だった成瀬は同じクラスで、5年3組だったが、さっきのことがあり、口を全く聴いてくれない。もちろん学年の違う妹なんかが俺の席を知るはずもない。

さて、どうするか。と俺は思っていると、後ろからランドセルをバンバンと二度叩かれた。


俺はそれに反応して後ろを向くと、そこにはかなり日焼けしている少年がそこには立っていた。


「おい、どうした!?めぐる!!こんなところでぼーっと立って!!!」


声変りをしていない男子小学生の大声が教室中に響き渡った。

元気が良すぎる。

だが、その日焼けとこの元気の良さがあるこの人物を完全に覚えている。コイツは向井大輝。俺の親友で、大学生の頃にも何回か会っていた。だからちゃんと覚えている。


「良いだろ、そういう時だってあるんだよ」


「ほほう?もしかして、悩みでもあるのか?この俺が聞いてやってもいいぜ、俺と隣の席なんだからな」


と、向井は俺にそう言うと、びしっと親指で自分を指さした。

ん?というか、俺の隣って言ったか?

思わぬ形で収穫を得た。


とりあえず礼でも言っておくか。


「お前が来たおかげで、悩みは消え去ったぜ」


俺がそう言うと、向井は満面の笑みを浮かべた。

そして、俺のランドセルをまた二度叩くと。


「そうか、そうか。なら、これからももっと俺を頼れよ!!」


と、言い、向井は自分の席へと駆け出して行くと、自分の席へとランドセルを置くと、教室の外へ出てどこかへ走り去ってしまった。

だが、問題はない。

向井の席は窓際。つまり隣の席はたったの一つだけ。

俺は向井がランドセルを置いて席の隣まで歩いていくと、その席へと重たいランドセルを席に置いた。


ドスン、という音と共に俺の肩が重さから解放された。

今なら空も飛べるかもしれないなどと、我ながら馬鹿なことを思っていると、ふと俺の第6感が殺意を感じ取った。

ふと俺は反射的にその殺意のする方へと視線を移すと、そこには俺の後ろの席に座る成瀬がいた。


まださっきのことを怒っているのだろうか、と思うことよりも、成瀬も後ろの席ということに驚いてしまった。


「よ、よう。まだ怒っているのか~、成瀬―?」


と俺は言ったが、反応はない。

俺の方には顔を向けずにそっぽを向いてしまっている。


「お、おーい。悪かったって。お前がそういうUFOとかにそこまで興味があるなんて知らなかったんだから。


俺が手を合わせながら、お祈りするように謝ると、ムッとした顔の成瀬がようやく俺の方を向いてくれた。

そして、一瞬だけ目を合わせると、成瀬は気恥ずかしくなったのか視線を外した。


「………………別にそこまで怒ってないし」


「本当か?」


「本当だし、てか近いわこの変態!!!」


成瀬は眉間にシワを寄せ、思い切り俺の脛を蹴ってきた。

女子小学生の弱い蹴りとはいえ、俺も体は男子小学生で、なおかつ俺の体は男子小学生の平均より弱い。

そのため、俺は脛に走る激痛に耐えられるはずもなく。


「っ痛うううう」


俺は恥ずかしながら半泣きになりながら、俺の脛を押さえる。

容赦なさすぎるだろ、こいつ。

俺はこんな理不尽な奴と毎日一緒に登校していたのかよ。

アホかよ、クッソ。


だが、確か俺はこいつに何度も話しかけていた気がする。

当時の俺の考えだ。

今の俺には知る由もないが。


そのため、この歴史を改変するわけにはいかない。

俺は成瀬にグッドポーズを出して。


「な、ナイスシュート!!」


と、訳の分からないことを言って、自分の席へと座った。


その後、精神年齢19歳の俺の小学5年生生活は順調に進んでいった。

全ての教科において、俺は楽勝に答えることができるが、そんなことはしない。

何故なら、俺の本当の小学生時代は全く勉強をせずに、頭が悪く遊んでばかりいたからだ。

このままの歴史でなければ、大学生の時に俺の彼女と出会えないかもしれない。


だからこそ俺は当時の俺のふりをしなければならない。


それを意識しながら生活していると、小学5年生生活一日目はあっという間に終わりに近づいていた。

もう時間は15時30分。最後の授業である6時間目の算数の授業を終え、俺たちの教室はわいわいと帰る準備をしていた。


俺も帰る準備をするかーと立ち上がると、急な尿意に襲われたので、帰る準備よりも先にトイレへ行くことにした。

俺は19歳の俺と現在の11歳の俺の体の違いをなめていたらしい。

今日ほとんどいかに小学生らしくいられるかを試行錯誤していたため、トイレに行くのを忘れてしまっていた。


トイレの場所はほとんどうろ覚えだが、確かこの校舎の各階の真ん中にあったはずだ。

俺は急いでトイレへ駆けると、男子と女子のトイレが隣り合わせになっているトイレを見つけた。

何故か、女子トイレの前には確か同じクラスの女子小学生が腕組んでそこに立っていた。

俺の方を見てくる。

だが、俺はそれを無視して、男子トイレのドアノブに手をかけ、中に入っていった。


男子トイレの中は別に中学、高校などとあまり変わりがない。

ただ一つだけ違いがあるとすれば、男子トイレと女子トイレの境目である壁が完全に遮られているわけではなく、上の方は空いてしまっている。


(そういえば、ここを登って女子トイレを覗こうとするバカもいたなー)


などと思っていると、たった一瞬、うめき声が聞こえた気がした。

それも隣の女子トイレから。

あまりこんなことを考えたくはなかったが、女子の誰かが踏ん張っているのだろう。


だが、そのうめき声は止むことはない。

いや、もはや口を何かで押さえられているような声だ。


俺はそんな異様な声に俺は思わず、壁に向かって三回ノックした。


俺が壁をノックした音は間違いなく、女子トイレまで聞こえているはずだ。

何故なら、女子トイレの方でドタバタと驚き、壁に何かがぶつかるような音が聞こえた気がしたからだ。

そして。


「たす、けて」


そんな僅かな、かすれるような声であったが、確実に聞こえた。

この声は成瀬だ。

今日一日中話しかけていたからよくわかる。


俺は思わず、男子トイレのドアを蹴破るような勢いで出ると、廊下を走って逃げる人影を見た。


(同じクラスの女子の奴らか!!って。今はそんなことよりも)


成瀬だ。

俺は何の躊躇いもなく、女子トイレのドアを開けた。

そこには疚しい考えや成瀬のいたずらかもしれないという考えは浮かばなかった。


「成瀬!!」


と俺は女子トイレの中を見ると、そこにはびしょ濡れになった成瀬の姿があった。

今日着ていたピンク色の英語の文字がプリントされた白色の半袖シャツは水に濡れてピンク色の下着が見えてしまっている。

そして、肝心の成瀬の顔は暗く、虚ろな目で俺の方を見ていた。


「………………………隣にいたの八輪、だったんだね。一番嫌な人に、一番嫌なところ見られちゃったかな」


今朝とはまるで別人のような声でそう言った。

ポニーテールだった髪型も、今はほどけて濡れた髪が顔を隠している。


「ごめん、俺、考えも無しに」


俺は謝っていた。謝ってしまった。

別に俺の行いが悪かったわけではない。それは俺でもそう思う。ただ良かったとも言えない。

あんなに生意気だった成瀬の姿はそこにはない。


それにこんな出来事、俺の本当の小学生の頃にはなかったはずだ。


「別にいいよ、謝らなくて。………………それにこれにはもう慣れたから」


成瀬はそう言うと、トイレ用具のロッカーを開けると、ボロボロに使い古された雑巾で髪や頭を拭き始めた。

俺はそんな光景を眺めることしかできなかった。もう頭の中が混乱してしまっているのだ。

成瀬は「もう慣れた」と言っていた。つまりそれは今日に限らず、もっと前から行われていたことなのだ。

つまり、俺が過去にタイムリープしたから何かが変わって、成瀬へのいじめが起きたのではなく、俺の本来の歴史でも成瀬へのいじめは行われていたのだ。


俺は、俺のことを呪った。

なんで、幼馴染へのいじめをタイムリープしないと気が付けなかったのだろうか。

俺は最低だ。

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