第3話 成瀬あかり
例え俺と俺の彼女を殺した犯人がどんな人間だとしても、俺は絶対にそいつを殺さない。
もし殺してしまえば、こんな暖かな家庭で俺を育ててくれた母さんや父さん、そして、一応妹に対して、恩を仇で返すことになってしまう。
そんなことはあってはいけない。
そんなことを思いながら、精神年齢19歳の俺からしたら懐かしいもう黒色のランドセルに、教科書やノートなどを入れていた。
そして、今日授業で使うものを入れ終わった後、ランドセルを閉じ、背負った。
(とりあえずこれで良し………ッ!!)
だが、ランドセルを背負った瞬間、あまりのランドセルの重さに俺の体は一瞬だけ左右に揺れてしまった。
それだけではなく両肩にランドセルが食い込む。
重い、重い、重い、重い。
もはやそれしか考えることはできない。
(うそだろ!!俺、こんなのを背負って小学校に毎日通っていたのかよ!!)
と、俺は思うが、そういえば、と過去の自分を思い出した。
俺は中学に入って、テニス部に所属するまで全く運動してなくて、体力が全く無かったのだ。
小学生の頃の俺は日常生活を送ることしかできない程度の身体能力しかなかった。
なら、タイムリープ直後に絶対に俺が為すべきことは決まった。
体力作りだ。
だが、俺が小学生の頃から体力をつけるという行為をしたことで未来が変わってしまう可能性はゼロではないため、誰にも見られないように体力をつけることにしよう。
そうすれば、未来であの殺人女に襲われたとしても、多少は対抗の仕様がある。
その上、今回は殺人女がお化け屋敷で襲ってくるということを知っている。
アドバンテージはこっちにあるはずだ。
(………ん?あれ?)
と俺はあることに気が付いてしまった。
俺は記憶を引き継いだまま、この過去の世界に来ている。
なのに、なんで俺はあの時、お化け屋敷に入らないという手を使わなかったんだ?
それに俺はあの時死んだのか?生きているのか?
そもそも筋トレだけであの襲撃を回避できるのか?
俺の拙い頭でそんなことばかりを考えていると、妹が俺のランドセルをぐいぐいと前へと押してくる感覚があった。
「ほら、お兄ちゃん。早くいくよ、班長なんだから」
「は、班長?」
妹の言葉に俺は疑問の声を挙げてしまった。
班長とは何だ?
と、思っていると、妹に押し出されるように家の外に出ると、そこには俺と同じランドセルを背負った小学生が俺の家の前で待っていた。
そこで俺は妹が言った班長、という意味について理解した。
これは小学校へ行くまでの間に事故や事件に巻き込まれることや不審者に声をかけられないようにするために近所の小学生と共に登校する。そして、班の中で最も学年が高い小学生が先頭を歩かされる。
それが班登校で、俺はこの近所の小学生の中で最も学年が高いということか。五年生だというのに。
俺がそんなことを思っていると、その小学生たちの中で俺と同じ身長くらいの女子小学生が近寄ってきた。
「また寝坊でもしたの?八輪!!だっさいなー」
と、女子小学生は俺のことを指さしながらそう言ってきた。
後ろに髪をまとめたポニーテールに、ピンク色の英語の文字がプリントされた白色の半袖シャツに、水色のホットパンツ、そして黒色のニーソを履いていた。
俺はこの女子小学生の姿に見覚えがあった。
確か俺の幼馴染、成瀬あかりだ。
必要以上に俺に絡んで来る面倒くさい性格で、確か小学6年生の夏頃に親の意向で転校して、それ以来関わりはなかった。
それで俺はこいつにどう対応していたのだろうか。本当に忘れてしまった。
とりあえず、悪態をつかれたことだし、悪態をつき返してみるか。
「うるせぇ、だせぇって言う方がだせぇんだよ!!」
俺はそう指さし返しながらそう言った。
だが、小学生の考えるような悪態を自然に出せた俺が非常に恥ずかしい。
精神年齢は19歳というのに、俺の語彙力が無いからなのか、俺の演技が上手いのか。なるべくなら後者であってほしい。
俺がそんなことを瞬時に思っているが、この成瀬との会話が途切れることはない。
「はい出た!!ださいって言う方がださい理論~!!そういう言い返ししかできないんでしょ、八輪ってバカだから」
「はぁ?バカじゃねぇし!!」
「あれ?バカって言う方がバカって言わないの~?ああ、そうか。バカって言われたのがそんなに恥ずかしかったんだ~。ぷぷぷ」
成瀬は片手で口を押さえながら、小馬鹿にするような顔で笑ってきた。
俺はこいつにどれだけ嘗められているんだ
本当にこいつ殴りてぇ。だが、落ち着け、俺。俺の精神年齢は19歳。こいつよりも8歳も上だ。
つまりこいつよりも数倍頭が良い。人生経験だってある。なら、ここで大人な対応ができるはずだ。
そして、俺は成瀬の視界に入らなそうな空を指さしてこう言った。
「あ!UFO!!」
「え!!?嘘!!?」
俺の言葉と指に釣られるように、成瀬は急に空へと視線を移した。
だが、そこにはまるで何もない。
そそて、俺は成瀬の視線が俺の方へと戻るタイミングを見計らって、片手で口を押さえた。
「ぷぷぷ、騙されてやんのー」
俺はそう言いながら成瀬の真似をするように笑った。
だが、次の瞬間、俺の溝内に激痛が走った。
見てみると、成瀬の拳が俺の腹にぶっ刺さっているのだ。
俺はそのまま地面に倒れこんだ。
見えはしないが、「大丈夫?」という俺の班の小学生の声や、「またやってる」という妹の声が聞こえた気がした。
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