水と油(火)の関係。ま、俺には関係ないけども。-その①-

 研究室での時間を終え高校へと登校する間、ハーは俺の周囲で右へ左へちょこちょこ動き回りつつ、冴木先生とのやりとりをあれこれ論じる。


『久道くんは本当に知性的な女性が好きですね。ところで、〝あなたの頭脳〟はこの世界で誰よりなにより優秀かつ全知全能な知性の権化です』


『灯台下暗しという言葉を久道くんはご存知でしょうか』


『銀縁眼鏡……(冴木先生と同じ銀縁眼鏡を具現化させてかけてくいっとブリッジ部分を持ち上げる仕草をしながら)』


 と囁いてくる。


 え、もしかしてちょっと焼いてるの?


 でもなんか余裕な口ぶりなせいで焼いてるというより単にからかわれてるだけって感じもして、俺は判別つかなくて気になっちゃう。


「教えて〝俺の頭脳〟。それはちょっと嫉妬してくれてるってこと?」


『〝あなたの頭脳〟は答えます――男の子は往々にして女の子の気持ちには疎いものです。なので男子諸君はこういう問題にこそ真剣に取り組んでみるべきなのかもしれません』


「なんでも教えてくれる俺の専属能力〜」


『これが〝最適解〟です』


 なんてやりとりをしているうちに学校に到着。

 教室の扉を開けると、今日もいつもと変わらぬ光景が飛び込んでくる。


 まず、赤髪ツインの勝ち気な声が威勢よく響き渡る。


「だーかーらー! あたしが最強なんだからねっ! この前のテストでレコード突破したし! この前だってチンピラ共を5秒で瞬殺! やっぱ元素系最強はこのあたし、焔木小炎ほむらぎこえんなんだからっ!」


 すると喧嘩を売られた青髪ミディアムヘアも同じく子供みたく声を上げる。


「どこのチビメラメラが最強だってっ? 大雨降らすぞ。温度操作も出来ねー単細胞が、このたきシズク様の前でキャンキャンうっせーぞコラ」


「はぁっ!? 誰がチビよ! 可愛さナシナシのオトコオンナ!」


「せいぜい吠えてろよ下位互換の火事女」


「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!!!!」」


 ……さて。


 ということで。

 俺はこのお二方とはなんの関係性もないので、なるべくこの不毛な争いに巻き込まれないよう、彼女らを視界に入れない・入らないようにそっと席へと向かう。


 炎を具現化し操作する元素系能力者の焔木小炎さんと。

 水を具現化し操作する元素系能力者の瀧シズクさん。


 さっきの台詞からも窺い知れる通り、焔木さんは操作可能なエネルギーは膨大だが、現時点では炎という物質の具現化のみに特化した能力者だ。


 一方、扱えるエネルギー値はやや劣るが、起点となる物質(瀧さんの場合ならば水)を具現化せずとも温度操作を行える瀧さんは、頭ひとつ操作能力に秀でていると言える。

 彼女は水や氷を具現化させずとも、主に約25度〜氷点下20度の範囲内で温度操作が可能なのだ。

 実はこれは画期的なことで、研究者視点から見てとても興味深い才能である。


 そして彼女達二人は間違いなくこの〝新・高度養成特区高等学校〟の未来を担う有能な人材である。

 学校や国側もこういった優れた才能を積極的に競わせて能力を高め合うことをよしとしているので、なにかにつけて比較対象にされがちな両名ではある。


 ある、が――。


「うるさいうるさいあたしが最強優秀ー!!!」


「んなわけねーだろ大味ど下手くそヤロー!!!」


 うるせ〜〜!!!!


 ったく……これだからパワー系人材は。

 腕力(能力)が全ての指標みたいな語り口は全くおこちゃま地味ている。

 やだやだ。

 俺は静かに読書でもして授業開始を待とうとしていた、が――。


「……おうぐふぉ!??」


 唐突に頭部にがつんと痛みが降りかかってきた。


「ハー、な……なにが……おきたの?」


 なにかしらの痛みの衝撃で机に突っ伏した状態の俺は蚊の鳴く声でハーに問うと、ハーは耳元で『瀧シズクさんが生み出した氷塊が流れ弾で久道くんの後頭部に直撃した模様です』と冷静に教えて下さった。


 ハーは俺の後頭部をさすさすしてくれながら『よしよし……』『いたいのいたいの飛んでいけー。あ、飛んでいったのは氷塊でしたね』などとちょいおちょけて囁いてくれるのでちょっと救われたが、それにしても突如教室で氷塊が流れ弾してくるって無法地帯過ぎるだろ。


 ……仮にも、この〝新・高度養成特区高等学校〟の中でも更に選りすぐりの人材を集めた〝Sクラス〟だというに……。

 ヤンキー……いや。むしろ小学生レベルだぞ。その喧嘩の仕方は……。


「ほら、見なさいよ。モブキャラ君が怪我しちゃったじゃないっ? チャチな氷もこうして他人を傷つけることがあるのよっ? かわいそーう。コントロールがなってないからこうなるんじゃない」


「知るかよそんなもん。てめーがちゃんと受け止めきらねーからだろーが。同じ炎一つしかまともにコントロール出来ねーくせに。つーかいたっけこんな奴?」


 ひっでぇな両方。

 でも俺はとにかく関わり合いになりたくないのでモブらしく無難な笑みを急ごしらえで顔面に貼り付けて受け流す。


「……あぁ、いいよ。気にしないで……」


 が、しかし。

 不幸は続くもので、この流れで本日の最初の授業である〝基礎開発〟で俺はこのお二方のうちの一名とペアを組まされてしまう。


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