第17話 雄叫び

 既に世界は暗くなる時刻を迎えていた。季節は冬、太陽が姿を消すのは早い。


「あの黒犬獣ブラックドッグは夜になると出て来る」


 少年が言う通り、大型の機械が暗がりの中姿を現そうとしていた。



 もっと慎重に準備を整えるべきでは。

 共同体コミュニティではそんな意見も出た。

 確かに音声で引き付けると言っても、スマホを最大音量にアラームを鳴らしても大した音ではない。家電量販店に戻れば、もう少し良い道具もあるかもしれなかった。

 だが、恭平には余裕は無い。昨日のまひるの声は……既に限界を迎えていた。

 恭平が今日行くと言うと、少年も頷いた。


 一体か二体しかいない黒犬獣ブラックドッグのタイミングを狙う。そんな計画とも呼べないレベルの手筈。

 だが大真面目に恭平と少年は議論していた。


 同時に出て来る数は三体位が多いんだよ。それでは幾ら音で引き付けても、全て行ってくれるか? だよな。たまにだけど一体しかいない時もある。それを狙うか。だけど可能性は少ないぜ。……待つのは18時半までとしよう。それまでに一体の時がなければ、二体でも三体でも行く。……分かった。


 そして現在、恭平と少年は情報電荷都市エレクトリックシティを窺っているのだ。

 

 大きな四つ足の影は同時に二体。さらに奥からもう一体が現れる。


 少年が腕で×マークを描く。遠方ではスマホを持った男が双眼鏡を覗いている筈だ。

 

 ポーズ止めた少年は息を止めて、黒犬獣ブラックドッグが通り過ぎるのを待っている。

 ほとんど駆動音も立てずに動き去る機械。本来こいつらは音を立てず、人間に近寄りその息の根を止める事が出来るのだ。にもかかわらず気まぐれのように頭部から雄叫びを発する。

 やはり威嚇としか思えない。獲物を怯えさせて楽しむ狩猟本能。機械にそんな物があるだろうか。

 ちょうど、現在のように……


 通り過ぎようとしていた一体の喉から響いていた。


 GU! GUGYAGYAGYA! GUUUU! WoooooooooooON!


 少年の顔は紙のように白くなっている。おそらくは恭平も同じような顔色になっている事だろう。

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