第15話 MPプレイヤー

 黒犬獣ブラックドッグ

 何時、誰がそう呼び始めたのか。

 威嚇するような音を頭部から出し、それが狗の雄叫びを思わせる為だろうか。


「逃げよう、逃げる……逃げ……」


 少年は四つ肢で動く機械を遠目に震えていた。

 この人間の身長を大きく超えるサイズの機械が他人の命を奪う処をすでに目撃しているのだろう。

 恭平自身も既に幾度も見て来た光景だ。


「だ、駄目だ!

 あの獣の速度には人間じゃ敵わない。

 俺……おれも死ぬのか!

 そんな……まだ……おれ……あいつを」


 恐怖にすくむ少年の腕から懐中電灯を取り上げる。

 驚きの声をあげる口を左手で塞ぎ、右手で電灯の明かりを消す。


 恭平の胸ではラジオが切れようとしていた。


「……ゴメンナサイ!

 今日はもう終わります。

 明日……あしたまた……話します。

 多分……

 こんなわたしの話がイヤになって無かったら聴いてください……」


 最後の一言を聴いた上でラジオの電源を落とす。


 少年がもの問いたげな視線をこちらに投げる。

 恭平は自分の口に一本指を立てて見せる。子供にも伝わる、音を出すなの合図。


 恭平はジーンズのポケットから取り出す。

 こんな時の為のお守り。小型スピーカーを突っ込んだMPプレイヤー。曲は知らない外国のアーティストの物。最初に20秒の沈黙があってから流れ出す設定。

 

 方向感覚に自信が有る訳ではないが……多分あっちが共同体コミュニティから遠ざかる方角。

 出来るだけ遠くへ飛んでくれ!

 恭平は腕を大きく振った。


 腕を振った態勢のまま、一切身体は動かさない。少年も察してくれたのか、自分の口を塞いで身動き一つしない。


 まだか!

 20秒、もう経っただろ!

 投げた拍子にボタンが押されて一時停止でも入ってしまったのでは……

 

 と、思うと聞こえて来た。

 大音量のイントロダクションと英語フレーズ。


 GU……GAGA!GUGUGUUUUU!


 駆動音を立てる機械はMPプレイヤーの方向へ走り出す。



「今の内、逃げるぞ」


「……アンタ……今のは?」


黒犬獣アレは音や動く物に反応するんだ。

 俺らが大きい音さえ立てなきゃMPプレイヤーアッチに気を取られてる」


 恭平は小声で少年に囁いた。

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