第12話 震える声

 恭平は歩き出す。あの場所へ。

 情報電荷都市エレクトリックシティ


 そのおよそ十キロ四方には何も残っていない。

 人工機械ではない、機械の造った機械によって全て破壊され撤去された。黒犬獣ブラックドッグがうろつき、抵抗する人間は全て死に絶えた。


 無論近付きたくない場所だ。

 あそこは範囲じゃない、と誤魔化して目にも入れないようにしてきたが……

 行くしかない。


 あの都市のように見える場所の中身がどうなってるか、考えたくも無かった。

 周囲の建造物が、機械が、生物が全て持ち去られ、黒犬獣ブラックドッグが人間の死骸を持って行く。

 おそらく中に生きた生物はいない。そう大学教授を自称していた男は言っていた。

 しかし、その中にまひるはいるかもしれないのだ。


 人間の足は徒歩で四キロほどの移動距離だった筈。

 陽が高く昇った時点から歩き始め、まだ正午にはならない。

 すでにかなり近づいて見える。色彩の無いメタリックな輝き。生物の温かさを拒否するような印象を受ける。


 歩き続けていた恭平はいきなり引き倒された。

 人間!

 自分は生き延びた人間に襲われたのか?!

 武闘派の男達を思い出し、恭平はパニックに陥りそうになる。

 しかし彼を押し倒した男は言った。


「何してんだ! 死ぬ気かよ。 

 それより先は高圧電流が流れてんだぞ!」



 恭平は木々が隠すテントの中に居た。元は公園だったのだろうか。池と土の地面が広がる場所。

 距離で言えば情報電荷都市エレクトリックシティと大して離れていない。

 10人ほどの人間が暮らしている様だ。暴力的な雰囲気は感じられない。テントの裏手には畑らしきものも見えた。

 未来のため食料の自給自足する。恭平の居た集団では戯言で終わったがこの共同体コミュニティでは規模こそ小さい物の実行しているらしい。


「あそこの高圧電流に突っ込もうとしていた無謀者アホウとは彼か?」


 老人が恭平をここに連れて来た少年に訊ねる。


「そう。自殺未遂だよ、俺が止めたんだぜ。

 褒めてくれよ、長老」


「長老と言う呼び名はこっぱずかしい、止めんかキョウ。

 アンタ、世界がこんな風になって悲観するのも分かるが……

 人はたくさん死んでしまった。

 若いアンタが自殺するのは勿体ないと言う物じゃぞ」


 自殺なんかする気はない。

 老人と少年のやり取りに口を挟もうにもパッと声が出て来ない。恭平は他人と話すのが久しぶり過ぎた。


「…………あの中に入りたかっただけだ」


 声が震えそうだったが……まひるのラジオにいつも呼びかけていたおかげか、なんとかその言葉を声帯から絞り出す事が出来た。

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