第11話 キョウヘイくんのママ
そんな幸せな妄想はすぐ終わった。
「今日も隣の家からカプメーンを借用して来てしまいました。
ドロボーじゃ無いですよ。
借用です。
必ず返します。
ホントに返すつもりなんですよ。
隣のママさんが帰ってきたらどうしよう!
謝ったら許してくれるでしょうか。
これはアレでしょうか。
The土下座。
伝説の中の頭を下げる行為の最上級の出番でしょうか。
キョウヘイくんのママさん許してくれるかな」
ポロっと出た言葉。その後はそんな事は一度も言っていないけれど、間違いない。恭平は全神経をまひるの声に傾けていたのだ。聞き違える筈がない。
まひるは言っていた。
「隣の人とは結構仲良いです。
東京では死滅したと言われるご近所さん付き合い。
まひるの家では生きてましたー」
その隣の奥さんがなにかと非常用保存水や、災害用食料を買い込む人だった。だから彼女は食料にすぐ困る事は無い。
隣のママさんに感謝!
そう言っていた。
キョウヘイくんは隣の家の子。
そのママさんの息子だ。
恭平では在り得ない。
恭平の家はマンション暮らし。隣の部屋など訪問したことも無いが全く同じ造りのLDKの筈だ。
そんな事はどうでもいい。最初から分かっていた筈の事だ。東京の何処かに居る別のキョウヘイくんの事だと。
まひるがキョウヘイと言う男と仲が良かろうが、悪かろうが関係ない。
恭平にとって彼女の声が聴こえる時間が人生で最も大事な時間。
その事実に全く変わりは無い。
恭平は住み心地の良かった家電量販店を出た。
個人で放送するミニFMは大した距離電波を飛ばせない。アンテナの感度によっては意外なほどの遠距離で聞こえてしまう事もあるが、通常なら歩いても15分程度の範囲なのだ。
虱潰しに一般家屋を当たって行けば放送元はすぐ見つかる……筈だった。
アンテナを自作し、比較的良く聴こえる方向へと移動し続ける。ところがいつまで経ってもまひるの家は見つからない。
恭平は自分が何か幻覚でも聞いているのではないか、とすら思い始めていた。
しかし、ついに新たな情報を入手した。まひる父親の放送機械は改造されていた。数十キロを電波が飛ばせる違法機械。
ならば……あの場所さえも。
範囲に含まれる事になる。
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