第10話 夕食

 ラジオから響く声に恭平は聞き入った。

 それはすぐに恭平にとってかけがえの無い日課になった。

 夜19時にまひると名乗る少女は放送をしている。時間は15分間だけ。

 

「えへへ。

 何故19時にしたかと言うとですね。

 お夕食時じゃないですか。

 夕飯時に話す家族が居ないと淋しいですよね。

 わたしがここに1人きりでいるように、独りでいるあなたがきっといる。

 そんなあなたの少しの話し相手になれればいいな、って。

 ついでにわたしもご飯食べます。

 そうするとわたしも寂しくないから……一石二鳥です」



 一石二鳥の意味は少し違う気がする。

 けどまぁ良いよ。


 恭平の乾いた精神にまひるの声は雨水のように沁み込んだ。


 あっと言う間に恭平はまひるに関して詳しくなった。

 彼女はアレが起きた時に高校二年生、恭平の一年下。彼女の父親が変な機械にすぐハマる変わった男だって事も。母親は幼い頃に離婚してずっと逢って無いって事も。


「へへへ。

 こんなこと話すと暗い人生歩んで来たみたいですね。

 でもそんな事ゼンゼン無いです。

 子供の頃は少し思いました。

 おおーっ、まひるちゃんの人生どらまちっく!

 マンガの主役みたい!

 でも……どこのご家庭もそんなものです。

 両親の一人がいなかったり別居してるお家が日本では10%を越えてるそうですよ。

 特に東京は20%近いって聞きました。

 とゆー事はまひるのクラスにも何人も居るって事です。

 残念!

 まひるちゃん全然どらまちっくじゃなかったです。

 マンガの主役になれないです」


 そんな風に明るく話せる彼女が素敵だと思う。

 寂しい時も、辛い時も有った筈なのだ、でもそれを乗り越えて明るく話せる彼女になったのだろう。


 たまに彼女はキョウヘイくんと呼びかける。聞き間違いでは無い。あなた、と不特定多数に話しかける中にほんの一瞬キョウヘイくんと呼びかける時があるのだ。

 まひるなんて名前の娘、知り合いにいただろうか。


 何を考えてるんだ。

 キョウヘイなんて名前、まったく珍しくない。恭平では無い、キョウヘイくんなのだ。


 だけど。

 考えてしまうのだ。

 学校の後輩、その下の名前まで知ってる女子はほとんどいない。

 もしかして、クラブの後輩、アイツの名前……まひるだったのでは。

 はたまた、帰り道が良く一緒になる可愛い子、あの娘の名前は…… 

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