第7話 人間の声

 別の集団の人間を武闘派の男達は奴隷のように扱った。

 お前らは俺達に負けたんだ。俺達より下って事を肝に銘じておけよ。


 いつの間にか集団には階級カーストのような物が出来ていた。

 この食料は俺達が取って来た物だ。食いたいんなら俺達の言う事を聞け。


 恭平は高校3年までケンカすらまともにしたことが無いのだ。粗暴な男達の仲間には加われなかった。連中の機嫌を取っておけばいいのでは。そんな事も考えたが、実行する気にはなれなかった。


 そして集団が割れる日は早々に来た。女性達が出ていくと言う。良識派の男達も一緒だ。恭平もそれに加わるつもりであった。

 どうやら少女の一人が男達に良くない悪戯をされた事が原因となったらしい。具体的な話は伏せられていたが、恭平にも大方の察しは着く。

 男どもは、あの女が食い物欲しさに媚を売って来たんだぜ、等と言っていたが女性陣は勿論耳を傾けなかった。

 

 良識派の男達は食料の半分を要求したが、交渉は難航した。武闘派の男に言わせれば、あの食料は自分達が危険を冒して手に入れた戦利品と言う事になる。だが勿論、手に入れる為には他の人間も協力しているし、そもそも食料の有りそうな場所の情報を掴んだのは良識派の男なのだ。

 最終的に4分の1を良識派が持って行くと言う線で落ち着いた。

 

 良識派の男性と女性陣は昼間の内、平和的に集団から離れようとしたが思惑通りには行かなかった。


 何を持って行こうとしているんだ。

 言っただろ、4分の1までだって。

 女も持って行っていいのは4分の1までだ。


 男は言っていた。女はモノだと。

 

 武闘派のリーダーにいつの間にかなっていた男は言った。

 服を着ていても分かる程のタトゥー。どこからか拳銃を調達し、武闘派に配った男。

 

 恭平は逃げた。

 女性達を助けなければ。そんな思いは勿論頭をかすめたが、無理な物は無理だ。

 元々奴らは武闘派の人間が集まっている。女子供と頭脳派の男達では相手にならない。しかも相手は武器まで持っているのだ。


 どう逃げ延びたのか。恭平は無事、かなり離れた街に辿り着いた。

 そこで、他の人間集団に出くわさないよう暮らした。

 どこの集団も同じような展開をしているだろう。現在生き延びている集団は恭平のような武力を持たない人間にとって危険な存在なのだ。

 

 夏の暑さから逃れるため家電売り場に行き、電池式の小型冷風機を手に入れた恭平。

 そこで夜を過ごし、たまたま見つけたラジオを弄っている内に音が聞こえて来たのだ。


「こんにちは。

 だれか聴いてくれてる人が居るでしょうか。

 いると信じてます。

 まひるは信じます。

 あなたが聴いてくれてると。

 ……キョウヘイくん……」


 数か月ぶりに聴く人間の声だった。

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