第3話 カップ焼きそばの日

 恭平は思い出す。

 アレが起きた時の事。


 技術的特異点シンギュラリティ

 その正確な意味など恭平には分からない。造られた人工知能が、造った人間の知能を越える時点。そのような意味合いで有るらしい。

 

 アレが起きた後、惑う人間達の集団に恭平もいた。そこに居た人から聞いたのだ。IT関連企業の人間、そっち方面の大学生、知ったかぶりのSFファン、入り混じり討論していた。

 恭平は隅の方で聞いているしか無かった。スマホで検索が出来ればある程度理解出来ただろうが、それが使えないのだ。

 

 考えて見れば世の中はAIで溢れていて、掃除機やら洗濯機にすら搭載されていて。

 そして世の中はWifiやらNETで溢れていて、その情報網同士がどこでどう繋がっているかなんて、既に誰にも全貌は分からなくて。

 だからどれだけの人工知能が、どれだけ情報網で繋がっているか、もしも人工知能同士が情報のやり取りをしていたとしても、そんな事は誰にも判別できなくて。


 そんな事を、そんなSF映画のような話を、男達は大真面目に討論していて。高校三年生、来春から大学生になる予定であった恭平にとって、自分より遥かに年上のサラリーマンや白髪の混じる大学教授とやらが本気でそんな話を語り合ってる光景は現実離れしていて。

 ……滑稽だな、とさえ恭平に感じさせた。



「……明るく楽しくお送りしましょう。

 では今夜のまひるさんの晩ごはんのコーナーです。

 パチパチパチパチーー!!!

 今日の私のディナーは何でしょうーっ?!

 正解した人にはわたしのラジオを聴き続ける権利をプレゼントしちゃいますー」


 

 なんと、それでは絶対正解しなくてはいけないではないか。

 

 カップ焼きそば。


 恭平は素直に口に出す。 

 


「ジャジャジャーン!!

 正解は?

 カップ焼きそばでしたー。

 正解のあなた、さすがです!

 不正解の方、残念でしたー。

 まだまだ修行が足りませんねー」



 正解を知っているに決まっている。

 昨日まひるが言っていたのだから。明日は週に一回のインスタント麺の日です、と。

 

「では修行の足りない不正解の方はここからラジオを聴いちゃダメですよー!

 ………………

 ウソです、ウソですからね。

 ジョーダンです。

 聴いてくれてる人がいるならば、絶対聴き続けてくださいね!」


 うん、分かってる。

 もちろん、分かってるよ。

 キミが何と言おうと俺はこの声を聴き続けるよ。

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