第2話 こんにちはは85点

「なんとなく……知らない人に話しかける時って、こんばんわって言いづらい気がします。

 こんにちはとゆー言葉には実は初めましてという意味も含まれているのでしょうか」



 そんな事は無いだろう。


 ラジオから響く奇麗で可愛い声に対して、恭平は声に出して答えてしまう。

 でも言われてみれば初めて会う人間にこんばんわと言う挨拶は似合わないかもしれないな。


「おはようございます、なら初対面の人に言うのはギリギリアリですね。

 おはようございますの初めまして度合いは60点くらいでしょうか。

 こんにちはは85点です。

 おおっ、高得点ですね!

 こんばんわは30点。

 残念、赤点です」


 

 初めまして度合いって何だよ。


 勿論、一方的に聞こえるラジオの声に応えてしまうのは馬鹿な行為だと分かってはいる。

 最初のうちは、声を出してしまっては慌てて口を塞いでいた。だが現在は……

 それもおそらく自分にとって必要なのだと思う。このままでは口の筋肉が言葉を話す行為を忘れてしまいそうだ。


 恭平はこの数ヶ月まともに他人と話していない。別にボッチが好きな訳でも、コミュニケーション能力に問題が有る訳でも無い。

 他人に出会う事が無いのだ。


 アレからどのくらい経ったのか。アレが起きたのも寒い日だった。ならばそろそろ一年が経とうとしている事になる。

 

「あなた、

 ラジオを聴いてくれているあなたが本当にいるんでしょうか。

 不安です。

 そろそろ建物の中に居ても肌寒い季節がやってきました。

 という事はアレから一年経つのでしょうか。

 わたしの声を聴いてくれていますか。

 わたしはあなたの声が……

 キョウヘイくんの声が聞きたいです」


 居るよ。

 ここで聴いてるよ。

 俺も君に逢いたい。

 君に話しかけたいよ。


「寂しいフンイキになってしまいましたね。

 ゴメンなさい。

 ずっと明るく楽しく話そうと決めていたのに」


 良いんだ。

 寂しくて、気が狂いそうになって、当たり前なんだ。

 明るい声を出せているだけ、君は凄いよ。


 それに実は俺は。

 君の楽しそうな声も勿論好きだけど。

 泣きそうになっている、震える声も嫌いじゃ無いんだ。


 おかしいかな。

 女の子の悲しい声を聞いて、心慰められるなんて、ヘンタイみたいだろうか。


 でも。

 寂しいのは、狂いそうなのは俺だけじゃ無いって。

 本当に安心するんだ。

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