第4話 冬は──

 あ、よっすよっす。来てくれたんだ。うん、ありがとう。そこに置いておいて。


 あーあ。もう冬になっちゃったね。見てよ窓の外。雪降ってる。こりゃ明日は積もるかも。


 キミって電車だよね? もし積もっちゃたら……あ、そう? もー、頑ななんだから。


 もう秋は終わったんだよー? これ以上は私に尽くさなくても良いんだぞー? ……ちょっと。何でそこで悲しそうな顔するのさ。私の世話するの癖になってるでしょキミ。


 本当に止めてよね? そんなに熱心にお世話されたら、私が駄目になっちゃうじゃん。ドンドン深みに嵌ってく気がして怖いんだけど。


 ……いやだってさぁ、アレじゃんキミ。その内に私の全部をお世話しそうなんだもん。ご飯食べさせて、身体を拭いて、挙句の果てにはトイレにまでついてきそうじゃん。ヤンデレかって。いやヤンデレ通り越して介護の領域か。


 は? 『必要なら』じゃないんだよ! 少なくともトイレは止めろ! シリアスな表情で乙女の尊厳を破壊しに掛かるんじゃない!


 もうっ。久々に叫んだから疲れた。喉痛いんだけどー。……だから泣きそうな顔になんないでよ。キミさ、本当にこの数ヶ月で変わったよね。


 私のことをそれだけ大事にしてくれてるってのは、もちろん分かってるんだよ? でもちょっと落ち着こ。ほらクールダウンクールダウン。


 いい? 確かに今は大変だよ。それは否定しない。でもキミが今みたいにさ、目の前しか見えなくなるのは違うんじゃないかな。


 私だけを見てくれるのは凄い嬉しい。私みたいな人間を、こんなにも想ってくれてるんだって。駄目な恋人だったのに、ここまで愛してくれてるんだって。それが実感できて泣きそうになる。


 でも同時に、キミの変化は不安なんだ。キミがこの先どうなってしまうのか。それが堪らなく怖い。


 あ、重いとかそういう話じゃないよ!? そこは誤解しないでね。さっきヤンデレとか言っちゃたからアレだけど、キミのそれは本当に私を想ってのことだって、ちゃんと分かってるから。


 私が言いたいのはね。キミはもっと、周りに目を向けるべきなんじゃないかって。ほらキミって、ゲームの時もそうだけど、やり込んだりのめり込むタイプでしょ?


 特にここ数ヶ月は、私に対してその悪い癖が発動してる気がするんだよね。


 キミがそうしたいからってのは、理解はしているけれど。……気付いてる? ここ最近で、どんどん顔色が悪くなってるんだよ。


 私はキミのどんな表情も好き。笑顔、ドヤ顔、無表情、怒り顔、泣き顔。色んな表情を見るのが好き。──でもその顔だけは見たくない。そんな不健康そうな顔だけは、絶対に見たくない。


 大丈夫。大丈夫だからさ。肩の力を抜こうよ。ほら前に言ったじゃん。私たちにシリアスな空気は似合わないって。


 今年はずっとそうだったでしょ? 春は桜並木でのんびりお散歩して。夏は花火大会で屋台を沢山巡って。秋はちょっと私が体調を崩しちゃったけど、それが幸せだって思えるぐらいベッタリだったじゃん。


 この冬もそう。色々と大変なことはあるけれど、振り返って幸せだったと笑えるような冬にしよ?


 この季節は寒いからね。こうしてベッドで寝転がりながら、のんびりするの。横ではキミが座ってて、他愛のないお喋りをする。


 ほら、今は丁度雪が降ってる。冬の風物詩の景色だよ。この光景を眺めながら、キミと笑い合っていたい。それがこの冬の思い出。


 ……ホント、振り返ったらいい一年だったなぁ! 私の我儘から始まったことだけど、想像以上に大切な思い出になりそうだよ。


 私は現段階だと、人生で一番素敵な一年だったけど。キミはどう? ……えへへ。嬉しい。そうだよね。そうするべきだよね。


 今年は確かに素敵な年。でも来年はもっと素敵な年。毎年毎年、『素敵な思い出』は更新していくものだもんね。


 あー! もう駄目だなぁ……。キミが来年って言ったせいで、顔がどうしてもにやけちゃうよ。もー、そこで『当たり前だろ』って追撃しないでよ。今の私にはクリティカルなんだよ?


 ……うん。頑張る。頑張るよ。キミがここまで信じてくれてるんだ。だったら私もね。大切な恋人のお願いだもん。


 『また来年』。また来年も、今年と同じようにいっぱいデートしよう。いっぱいいっぱいお出掛けしよう。次は旅行も行こうね。その次は海外にも行きたいな。


 どんどん夢が膨らむね。一度考えちゃったら駄目だ。歯止めが効かなくなっちゃった。


 ……ちょっといいかな? 今更ではあるし、何度も言ってきたけれど。それでも改めて言わせて。


──ありがとう。そして大好き。

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