第69話

「追加で~す」


「ちょっと待て」


「はい?」


「これ、こいつら帝国軍じゃねえか」


「山賊集団ですよ」


「おい!

 何しれっと言ってんだ、帝国と戦争になるだろうが!!」


「いやですよぉ奥さん。

 ひとつ先、王国外の中継都市じゃあ受け止めきれないじゃないですか」


「誰が奥さんだ!

 しかし、だからといってなあ・・・」



 問答無用で押し付けて、次の10人を取りに帰る。


 何度か往復してると、偉い人が追加された。

 衛兵さんとは鎧の輝きが違う。白に近いメタリックシルバーがすごく高級に見える。


「偉い人」とは言ってもご年配で偉そうにふんぞり返ってるのではなく、30上ぐらいの精悍な、いかにも仕事できそうなタイプ。

 なんというか統率力がすごい。軍隊と関係ない自分も統率スキルで支配されてるような、命令されたら従っちゃいそうな、そんな錯覚までしてしまう。



「帝国軍とケンカしてるって?」


「盗賊集団ですよ」


 罪状をコピーした鼠皮紙を渡す。

 隊長さん?が一瞥し、後ろの白鎧に渡す。



「おいおい、マジで帝国軍じゃん」


 同じ白鎧の、ちょっと軽薄で女好きそうな兵士、騎士?さんから言葉が出る。



「強盗集団ですよ」


 繰り返す受け答えがなんだか面白くなってきた。


「世話になった方の故郷を襲われて皆殺しにされるのが目に見えてて、相手が悪いからって泣き寝入りなんてできるわけないじゃないですか。

 殺されるぐらいなら最後まで抵抗しますよ」



「それはまあ・・・、当然なんだけどなあ・・・。」


 隊長さんの顔が渋くなる。



「さぁ、どんどん連れてきますよ。

 張り切って行きましょう!!」



「ちなみに聞くが、あと何人ぐらいいるんだ?」



100人ぐらいですかね?」



「今日は、ってぇことはまだ増えるのか」



「まだケンカの途中ですからね。

 どんどん連れてきますよ。

 鉱山奴隷でも戦争奴隷でもいいからどんどん落として、国力増強の足しにでもしてやってくださいな」



「おまえなあ・・・。そう簡単な話じゃないだろ」



としては、こいつらの罪が裁かれてきっちり償ってほしいと思ってるんですけどね。

 ここに持ってきたのも理由はそれひとつ。

 そのへんの奴隷商に大銀貨1枚で売ってハイおしまい、とはしたくないんですよ」




 渋い顔の白鎧さん達を置いて、次の10人を取りに帰る。

 数回繰り返し、総計100人きっちり預ける。


 今回引き渡したのは砦組が半分以上、8割近い?

 単純に罪業値の低い順に出したからこんな感じだけど、〈手加減〉できっちり魂にダメージ入れてないから〈魅了〉が解けたら騒がしいな?



「じゃあ、また近いうちにお世話になると思いますんでヨロシク。

 野盗基準で考えて、100人で金貨10枚ぐらいの報奨金が出ればいいんですけどねえ。


 事の顛末、よろしければ教えてくださいね」





 天幕を片付けてアルファさんと街に入る。

 昼の一刻、正午から2時間後の14時頃ってところ。


 屋台広場というか公園の一角でちょっと珍しいものを売ってたので立ち食い。

 小麦粉を練って太く切った麺に澄んだスープを張った汁麺。


 フォークとれんげ、スープを掬えるように深いスプーンをつけてくれているけど、これは『うどん』だ!


 昆布と魚介の出汁に軽く衝撃を受ける。

 願えばいつでも「和風出汁」は味わえるんだけどね。手に入るようになったのは最近の話。



 もしや同郷者かも?と思って「もうかりまっか」と声をかけてみたけど、「はあ。まあなんとか」みたいな覇気の無い返答。

 食い下がるのもなんだし、向こうには向こうの生活があるだろうから引っ掻き回すのも良くないか。


 ねぎひとつまみだけのシンプルすぎる1杯に大銅貨5枚、500円はここでは高いんじゃないかと思う。

 ミートソースとかで和えてパスタ風に出すとかしないと客は来なさそうなんだけど、それこそ余計なお世話というものか。


 注文したけどアルファさんが手をつけなかった分も含めて2杯いただいてご馳走さま。




 宿を確保してから街に繰り出そうと、宿屋街っぽい方面へ流れていく。

 中流の中でもハイクラスな、1泊2名で大銀貨1枚1万円のところに入る。


〈箱庭〉があるから無駄使いではあるんだけど、自炊してるから外食はしなくていいって話でも無く。

 大銅貨3枚、300円の宿でノミやダニにたかられてかゆくて眠れないようなところしかなければ遠慮するけど、たまには贅沢したいじゃないですか。



 部屋はきっちり整えられているけど、ベッドメイクにアルファさんのチェック、手直しが入る。


 シロウトには何が悪いのかわからないが、これはチャンスと押し倒す。


「あら」


 少し驚いたアルファさんの顔が、すぐに余裕の笑みに戻る。

 アルファさんの胸に手をもっていき、ふくらみに沿って軽く撫でる。


「すぐ、脱ぎますね」


 脱がなくていいと無言の圧で、目で訴える。


「この服、アダマンタイトとミスリルの合金糸で編んだ対刃対衝対魔法効果の装甲なので、このままだと何も始めることができませんよ」



・・・ちくしょう


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