第43話 なかなかシュール


 自由交易都市の食堂で水をしっかり飲んで出発する。



〈索敵〉で敵性反応の光点が3つほど、食堂からつかず離れずついてくる。

 街から出て少し進むと追ってくる光点が速度を増して距離を詰めてきた。


 面白いからこちらも自然に見えるようにやんわりと速度を上げる。

 1kmほど、振り返れば見える、声は届かない程度の距離を保ちながら引っ張ってると20km超えたあたりで諦めた。


 背丈×両手広げた幅の衣装ダンスポーターバッグ背負った非戦闘職に追いつけないなんて、根性無いな~。


 交易都市から次の宿場町、馬で1日の距離を昼過ぎに出て3時間ほど、夕暮れ前に到着する。


 歩くスピードがやたら早い。

 誰かと一緒に歩いてたら相手の速度に合わせるけど、前に誰もいなければペースメーカーがいなければ、普通に歩いているつもりでも意識せず馬並みの速度を出してるようで。


 ダンジョン内で行軍速度の計算が合わなかったのはそのせいなのかも。

 時速4kmとか6kmで計算してると全然合わない。

 そりゃそうだ、無意識に20~30km/hぐらい出してるんだもんね。

 ゾーンに入るというか集中力が時間を引き伸ばす感覚かな。集中してるときは全く自覚無い。

 戦闘中なら斬撃がゆっくりに見えるとか比較対象があるけど、歩くだけだと足を出す一歩分前に出るのは脳内処理で当たり前の動作だから無意識で早送りしてても気が付かなかったりするのかな。

 王都の文官に渡してる『元気ポーション〈加速ヘイスト1.1〉』、近くに誰かいたところで相手が目の前の書類なら加速に気付かず「集中できてきっちり捗った」ぐらいの感覚なのかもしれない。



 ちなみに時速25kmと言えばママチャリで結構本気で漕ぐスピード。

 風を切る音が聞こえはじめるのがちょうどそれぐらい。


 マラソンのトップランナーが42kmを2時間だから、時速20km。

 それを衣装タンス背負った人が走らずに並走すると思えば、なかなかシュールでおもむき深い。

 しかも1日で100kmぐらい平気でこのペース保てるから。自分のことながら怖い。





 ここ宿場町で一泊してもいいけど、なんとなく進めるだけ進んで朝のいい時間にキューサの村に入りたいかなと思い立って先に進むことを選ぶ。

 場末の宿場町に泊まるよりは『野宿』と言いながら〈箱庭〉宮殿に帰るほうが快適だからな。


 少国家群へ向かう本街道から外れて林道へ入り、名も無き村へ向かう。

 人通りが少なくなると比例して盗賊もいなくなる。

 そりゃそうだ、ここまで田舎に来ると1日待っても誰も通らないとかあるだろうし。

 村に向かう行商とか、通ることが前もって分かってたら待ち伏せすることもあるだろうけど。


 日が落ちると魔物が元気になる時間だ。

 とはいえこの辺りは群れなければ初級冒険者でもなんとかなる程度の個体しかいない。

 オオカミ系はポーターバッグや冒険者タグなどを見ていないようで、力量差を感じるのかあまり寄ってこない。

 ゴブリンは馬鹿だから?誰彼かまわずケンカ売って返り討ちにあってるけど。 しばき倒して街道脇に転がしておくとオオカミ達が食べに来る様子。

 そして味を占めてついてくる。このままだと村にトレインしてしまいそう。


 困ったな、どうしようか。

 大きくてあんまりおいしくなくて金にならない素材なんていちいち保管してないからなあ。


 少し強い魔物反応があるので街道を外れる。

 オークが3体、俺と村の安全のために犠牲になってくれ。


 魔石だけ抜いて即座にその場を離れる。

 推定20匹程度ならこれで腹いっぱい食えるだろう。



 林を抜けて少し小高い丘に出る。

 ここからだと昼間なら村全体が見えるだろうか。

 今は体感20時ってところ、家から灯りが少し溢れるのが見える程度。


 ここで〈箱庭〉に入る。

 アルファさんに夕飯用意してもらう。

 慌てなくてもいいとは思うんだけど、現在大絶賛進行中の懐かし日本食ブーム。


 チャーハンとラーメンとギョーザ、中華で攻めてみる。

 若干足りなくて天津飯とエビチリも追加。


 そういえばこれら、物議を醸す言い方すれば全部『和食』だな。



 食べ過ぎと思うけど100kmぐらい1日で歩いてるんだからこの程度のカロリーで済むのは燃費良いと言っていいのか?



 浴場に行く。欲情はしない。

 当然のようにアルファさん入ってくるけど、拒絶はしない。

 浴槽でだらしなくぐでんと伸ばした足をアルファさんに揉んでもらう。


 サウナで整えて寝室に。

 使ってるのが食堂と浴場と主寝室だけだから、歩く距離をコンパクトにまとめられそうなら配置換え考えておいてと伝えて、意識を飛ばす。

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