第40話 ああ嫌だなあ(嬉


 ハヲリさんがお風呂から戻ってきたので別れの挨拶を。


 とはいえ、〈箱庭〉の扉も置いていくことに決めたので今まで以上に気楽に会えるから軽いものだ。

 パーティーから離れて自分時間も増えたしね。



「一応、これハヲリさんにしか見えないから。

 無いと思うけど誰か招待したいなら手をつないで入れば扉はくぐれると思う。

 だいたいいつもアルファさん居ると思うから、なにか欲しい物あったら勝手に頼んじゃって。」



「や~~ん、ユージ君やさし~」


「あと、こっちの扉は街の自分の家に出るんで。

 街門通らないけどバレなければ。」


「これって簡易テレポート?」


「そんな感じですね。

 扉の設置数まだ余裕ありそうだし、王都・港湾都市と隣の帝国にも拠点作りたいかな。

 こいつは忙しくなってきたぜ!」





 ハヲリさん宅からおいとまする。


 一度森から街道まで戻る。街門が見えるところまでくると、街の自宅に戻ったほうが早かったんじゃないかなと考えたりしてしまう。


 でも、ハヲリさんにも言ったけど入街処理しないで街を出る、出入りの記録が合わなくなるとどこに引っかかるかわからない。

 面倒ごとになったら嫌だ、どういう管理してるのかわからないけど妙に鋭いところあるからなあ。冒険者証タグの活動歴・犯罪歴管理とか。

 このへんは今の人力・マンパワーじゃなく古代の技術っぽい。



 街道沿いに北東へ向かう。馬車で2日の距離に辺境都市がひとつ。

 帝国からの侵攻を防ぐ城塞都市だ。


 正確に言うと城塞都市から先は王国の領土では無い。

 凶悪モンスターや大規模な盗賊団、帝国軍なんかに侵略・蹂躙されても基本王国軍は、人道的な救援活動を行うことはあっても『国として』は関与しない。


 今から行くキューサの村、オジールとイノアの故郷はそういうところにある。




 迷宮都市から城塞都市に向かう街道、途中の宿場町を超えたところで不穏な空気を感じる。


 馬車がすれちがえる程度の広さの石畳で整備された林道、2kmほど先で数人の光点反応をその倍以上のの反応で囲まれている。


 ああ嫌だなあ(嬉


 衣装箪笥バックパックにフォーメーションチェンジして鉄木棍てつぼくこんを杖代わりに。


 足音を殺し足早にひたひたと視認距離まで近付く。

 視線、〈索敵〉魔力の波動を感じるギリギリのところで並足に切り替え、視線を足元に落とす。



「ちょっと通りますよ」


 軽く会釈して街道の片隅を通過する。

 いちゃもんつけられずに通してもらえると、それはそれで困る。



「あぁあ!?」


 馬車を囲んでる十数人の輪の外にいる、ひときわガタイの大きい奴が凄んできた。



「あ、お構いなく」


「通せるわけないだろがクソボケが!

 てめえもその荷物置いてけよ!」


「いやどす」

 なんとなく、で返してみる。



「てめ! 生きて帰れると思うなよ!!

 殺れ!!」


 リーダーっぽいのの命令で3人ほどこっちに来て囲んできた。


「へぇ、あんたは何もしないんだ」


「ずいぶん余裕だが俺が出るまでも無いだろうが!」



 とりあえず3人は一瞬で飛ばす。利き腕の手首と両膝を狙い粉砕骨折。


 流れに乗せてリーダーの肩にドスンと100kg。

 トゲはついてないけど革の肩パットの上からなのに痛がって転がりまわっている。


「イキってた割に根性ないな~」


 言いながら足に追撃。片足でも砕いておけば逃げられまい。

 ついでに頭頂部に〈着火〉しておく。


 いい悲鳴で転がってくれちゃってるけど、〈鑑定〉で見る限り強姦に強盗殺人その他、真っ黒なんだよな~。

 鑑定結果の犯罪歴を鼠皮そひ紙に転写しておこう。



 馬車側も決着がついたようだ。

 生き残った盗賊集団は森の中に散っていった。

 いちおう〈探知〉魔法のマーキングはつけておいたけど、追いかける気はあんまりない。


 護衛の冒険者、軽い怪我はあるけど死者は出なかった模様。




 ぶち転がしたボス含め4人に〈睡眠スリープ〉をかける。

 戦闘中にはまず入らないけど、抵抗を諦めた相手には結構効くんだ。

 まあ第一位階、基本魔法クラスだし実戦レベルで戦闘に投入できないけど、そのことに不満は無いかな。


 ちなみにこの〈睡眠スリープ〉の魔法、不眠症対策には全く役に立たない。

 意識が飛んで気がついたら時間だけしっかり過ぎてるって感覚。

 その間の脳の休憩とか体力の回復とか全く無い、寝覚めはサイアクとかそんな感じ。


 この攻撃系補助魔法の毒抜きは結構タイヘンなんだよと自画自賛。

 呪文としてはいいところだけ使うことができないけど、『魔力水』に混ぜてポーション化してから不要部分を抜くことはできる。




「ありがとうございます、助かりました」


 護衛の冒険者さんから声がかかる。

 御者さんも物陰から出てきてこっちに来る。身なりがいいのは雇い主本人が操車も兼ねているからだろう。



「これどうします?」


 転がってるナニを棒でつつく。


「おそらく指名手配の賞金首、ネームドと思われます。

 街まで連れていけば報奨金が出るでしょう。


 手足を縛って街まで報告に行って衛兵に取りに来てもらうとしても、逃げた仲間が取り戻しに来るだろうし殺してしまうのもひとつの選択かと」



「とりあえず判断は街の司法に委ねましょうか」


 台車を出して眠ってる4人と護衛冒険者側が止めを刺した3体を乗せる。


 装備含めて1トンぐらいありそうだけど、こっそりので水に浮かべたボートのように軽く引っ張れるのだ。




「すごいっすね~」


 冒険者の一人が話しかけてくる。


「ポーターだからね」


 答えになってないような気がする適当な返事で返す。



 なんやかんやであと5kmほどの道のりを一緒する。


 商人のおっさんに興味持たれたけど、今のところ特定の誰かの専属になるつもりは無いのでやんわりと断っておいた。




 街門で門兵、衛兵のおっちゃんに引き渡す。

 お礼言われて、冒険者ギルドで報奨金の受け取りできるように手続きしておく、と。


 流れのまま流されて、護衛冒険者達といっしょに商人のおっちゃんに酒場宿に連れ込まれてしまった。

 この食事と宿泊は「お礼」ということで。


 護衛冒険者達は遠慮なく食べて飲んでいた。

 酒は1杯だけ付き合った。食事はおいしかった。





――――――――――――――――

この城塞都市を「ルミエスト(タモツさんのいる街)」にしようかと真剣に考え中。

固有名詞はてきとーだけど、地理的には両方に書いてるもので矛盾は無いはず。


ここにタモツさんが来たり「おっさん召喚」にユージが出たりすることは多分無い、と思う。

公爵夫人は出るかも。あの人のスイーツへの熱意は侮れない。

作者でも把握しきれない行動力の化身。

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