第38話 だって、だってなんだもん。
勝てませんでしたーーー↓
勝ち負けの話じゃないんだけど、アルファさんは強かった。
「強者の余裕」というか、こちらのやりたいこと全部受け止めてくれた上で軽く転がされちゃったよ。
ゲームの「オセロ」最強レベルに挑んで10連続全滅食らったとかそんな感じ。
全く勝てるビジョンが見えない。 なにが【主人公最強】タグだ!
無理矢理1石2石残すために無茶を通すことは試せても、相手を倒すため勝負に持っていくための攻撃では無いんだよねえ。
朝風呂に行く。〈箱庭〉の離宮、サウナ付き大浴場。
当然のようにアルファさんついてくるんだよな。
湯船でだるーんと、アルファさんとふたり肩を並べる。
たわいない会話をしながら思うのは「これ、メイドの格好した恋人」だよなあと。
完全な主従関係じゃなく、友達間で軽くリーダーシップ取るぐらいの今の上下関係は心地いい。
猫のように体を寄せてくる。自然に手が伸びる。
いつの間にかアルファさん俺の足の間に納まって背中を預けていた。
振り返り、熱く潤んだ瞳で見つめられて「旦那様、お願いします」と言われたら応えちゃうよね。
・・・ふぅ。
また軽く転がされてしまったぜ。
満足させてあげている気が全くしない。
アルファさんにその手の『欲求』が無いとすれば、俺を満足させるためにうまく誘導してるんだよねえ。
朝ごはんに『ねぎとろ丼』を貰う。
牛丼チェーン店の品、半解凍のままパックの四角い形で「ぺっ」って丼に乗せられてる寂しい姿を想定してたんだけど、ごはんの量に負けないぐらいのしっかりとしたねぎとろ盛り。
これはどこの店だろう。
冒険者ギルドに向かう。
朝ラッシュの時間を避けて、ちょっと遅めの重役出勤。
まずはティーキーのところ、ギルド施療室に向かう。
・・・うわぁ、『光の覇道』全員いるよ。
とりあえず無視してティーキーに話しかける。
「体調はどう? まだ何か残ってるものある?」
「ん、大丈夫。
ポーション飲んでからすごく楽になった。ありがとう。
昼過ぎにはここ出られると思う」
「
「ん。ちょっと全身だるいだけでもうちょっとゆっくり休めば問題ない、と思う」
「よかった。本当によかったよ。
・・・じゃ」
「じゃ、じゃないでしょ」
「シャリアさんナイスツッコミ! じゃ!」
「なんで逃げるのよ」
「だって、だってなんだもん」
「きちんとお礼ぐらい言わせてよ、ほんとありがとう」
シャリアから渡された巾着袋は冗談で金額を盛った金貨100枚にしてはそれ以上の重さに感じる。
上級ポーションをタダで譲り受けることに何か思うところあるかと〈追跡〉魔法をポーション代に重ねて金貨100枚で言ってみたけど、それが裏目に出てしまったか。
なんか自然な流れで受け取ってしまった。今さら半分返すのも変な流れだ。
これはもう、おまけつけるしか無いよな。
シャリアに細剣、ティーキーに魔法杖から魔力の通りが素直な万能タイプを渡す。
『帝国兵装』シリーズ、数打ち量産品のほうだけど多分今使ってる装備より良いものになってると思う。
ピンスに「今、大盾出して持って帰れる?」って聞いてみるが、問題なさそうなので大盾を出す。
肩幅のリュックから体が隠れるサイズの大盾が出てくるのは冷静に考えてシュールな絵面だけど、実際出てくる姿は「そういうもの」だと自然に見えて不思議と疑問も湧かない。
「私にはなにか無いの?」
イノアが何か言ってるので「ニッキ飴」を1粒渡す。
これと「黒飴」がなんで滅ばないのかは世界の7不思議だ、謎すぎる。
「ユージ、」
「オジールには何も無いよ。オジールの持ってるナントカ剣のほうが良い品だと思う」
言わせない。
「ちょっと街から出る予定だからね。しばらく連絡つかないと思う。
時間ができたからちょっとキューサの顔を見てこようかなと。
シャリアは知らないかな、ピンスティーキーも覚えてるかどうか。『光の覇道』にパーティー名を変えた頃まで居たヒーラーだよ。」
「ユージ」
「ティーキー、どうしてもだるさが抜けなかったらこれ飲んでみて。
俺特製『元気ポーション』、王都王城の文官たちに人気あるんだよこれ」
言わせない。
元気ポーションを3本ほど渡しておく。
「ユージ!」
「元気になると言っても、『元気の前借り』だからね。
1刻ほど力が出るけど、切れたらツケが全部返ってくる。
1本だと効果切れた瞬間がわかる程度で問題ないけど、何本も続けて飲んで疲れをごまかしてるとほんとに倒れるからね。」
言わせない。
「気に入ったら銀貨3枚で注文受け付けるよ。
王宮には銀貨5枚で売りつけてるやつだよ。お買い得!」
「ユージ!」
「じゃ、俺はそろそろ。」
言わせない。
今さら恨み言も謝罪も再勧誘も聞きたくない。
「ユーージぃー!!!」
無視して施療室から出る。オジールが立ち上がる気配がした。
アルファさんが軽く会釈して施療室の扉を閉じる。
これで一連のごたごたは決着ついたかな。
俺のできるところはここまで、あとはあいつら次第。
ギルドに『駆動核』ひとつ預けてもいいけど、さすがにそこまでやったら過保護すぎだろう。
『自動販売機』の件も一時保留、というか王都に一軒構えて雑貨屋でも開こうかと。
こっそり一人で仕入れ値ゼロで。
「というわけで?
ちょっと旅に出るから〈箱庭〉で待っててくれるかな?」
「了承しました。
私としては乗り合い馬車でも夜通し走るのでもなんでもお付き合い致しますが」
「その気持ちだけで十分だよ。
夕方か日暮れ頃、ひとりここに呼ぶかもしれないからよろしく」
アルファさんを〈箱庭〉に押し込んで、『魔女の森』の『森の魔女』に会いに行く。
近日の、こんな愉快なことが重なったら報告とか自慢しに行くしか無いでしょ。
朝一で向かっても日帰り往復は厳しい距離、今からだと陽が落ちるまでには『魔女宅』に到着できるだろう。
久しぶりのソロ行動、ひとりの気楽さと話相手のいない寂しさを同時に感じる。
『魔女の森』、ほぼ入り口と言っていいエリアに不自然な一本杉がある。
これが『魔女宅』の入り口だ。
ここからある手順でまわらないと《結界》に入れない。
空を飛ぶことが出来れば、少し上空から見れば5つのポイントがひとつの円の上に置かれていることがわかるだろう。
大杉から大楠、大岩、白樺、
今までそこに無かった、ちょっとした広場に出る。
そこの一軒家が魔女さんの家だ。
残念ながら魔女さんは不在だった。
空振りがちょっと悔しいから〈箱庭〉に戻って、アルファさんにひとつお願いする。
しかし〈箱庭〉発動してドア開けるまで数秒ってところなのに、なんで目の前で待機してるんだろう。
お屋敷の中のいろいろなお仕事こなしてる気配はあるんだよなあ。
箱庭から出る際にちらりと確認。
『出口』、もうひとつあるよね。
もうひとつの『出口』を確認してみると、〈箱庭〉ドアを常設してるマイハウスに出た。
ということは、どこからでも『自宅』に帰ることができるということか。
無制限でもなさそうだけどまだ『出口』ドア設置箇所は増やせそう。
居間の机に『ヂェラシー』を置く。一目で日本を思い出せる、バタースカッチの名品だ。
あとダメ押しで『おいしい棒』。サラダ明太納豆味の3品。
『おいしい棒納豆味』は名作だと思う。あの本気の納豆味と少し感じる粘り。
スナック菓子でここまで再現してる納豆味は他には無い!(断言)
フリーズドライの納豆そのものを菓子やふりかけにしたものはノーカン。
追加で怪しい銘柄の『コーラ』缶。USコーラとかLasコーラとか1缶29円みたいなの見なくなったよねえ。うちの近所だけ?
さすがに1ヵ月家を空けることは無いだろうとの読みで常温日持ちのするもの置いてみたけど、いつ帰ってくるんだろう。
アポ無し突撃の弊害だよね。
〈箱庭〉に戻ってアルファさんに晩ごはんをお願いして、夜はゆっくり。
何を「お願い」したのかって? 聞きたい?
・・・「のり弁」だよ。
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