第36話 伝説級の逸品ですよ。お買い得!!
「ポーション代はいいけど、これ買わない? 金貨100枚」
そう言って10層台あたりから取れるレベルの魔石を見せる。
「それは?」
「これはですね、とあるアイテムへの追跡魔法をかけてあります。
発動すれば、多分まだこの街にひとつあるはずのあのアイテムへ光が伸びていくものです。
持ち主側まで光線が届いて相手に伝わる親切仕様となっております。
天空城へ導く『飛行石』をイメージして魔力を込めてみました、伝説級の逸品ですよ。お買い得!!」
「「それよ!!」」
シャリアとピンスが同時に声を荒げる。
「なんで依頼の達成報告してないのよ?」
「・・・え?」
わざとらしくキョトン顔を作る。
「関係ない他人のパーティの報告盗んだら犯罪でしょ?」
「だからなんでそうなるのよ!!」
「勝手な推測だけど、俺が報告したら俺も報酬の頭数に入るから先に口減らししたかったのと、今回この達成でパーティランクが上がりそうだったから、メンバーの平均ランク下げてる俺が邪魔だったんじゃないかな。
元々オジールは斥候や回復職まで追い出すタイプだし、俺みたいなサポーター職はいらない派だったんでしょ。
迷宮探索や未開地のモンスター退治なんかはDPSだけじゃないと思うんだけどね。
戦争とかスタンピードとかで『目の前に敵が山ほど』いる状況なら6人パーティー6人全員攻撃力高くて殲滅力あれば目立てる、功績上げられるだろうけど」
「「でぃーぴーえす?」」
「ダメージ・パー・セカンド。
一定時間にどれだけダメージ叩き込めるかを数字で出したもの。
数字で出してそれがそのまま役に立つのは『御前試合』みたいな状況だけ?
スタンピードとかだと何日も休めないような中長期戦になるし、そうなれば回復なんかを含めた継戦能力も考慮に入れないといけなくなる。
でも攻撃の瞬発力は把握しておかないと、包囲を突破するときとか皮算用で賭けにはなかなか出られないよね。
賭け金は自分の命だし」
「ちゃんと考えてるのねえ。
オジールよりあんたのほうがよっぽど立派なリーダだわ。
あんたみたいなのが軍師参謀やってくれてたからA級に届くところまで成長できたのね。
あんたのいないダンジョン探索やって、一度で
けど、まあ今さらよね。
そのナントカ石はオジールに話をつけておくわ。
期限に追われてもう一度40層まで向かうぐらいなら個人で金貨100枚でも払いたいもの」
「オジールと顔合わす気は全く無いから先に渡しておくよ。
すれ違って会えない感じだったらギルドのほうにお金は預けておいて。
あと、ティーキー1日安静にさせてあげて、まだ何か具合が悪いところあるようなら聞いておいて。
明日の朝にもう一度顔出すよ」
「・・・あ、あの」
ピンスが何か思い詰めたように話しかけてきた。
「なんだろ」
「あの、あの・・・」
なかなか言葉が出てこないなあ。
「10層以降の虫ってどうにかならないの?
今まで全然苦労したこと無かったんだけど」
「ああ、虫ねえ。
斥候系がいないからそこで苦労するとは思ってた。
10層超えるとこまでパーティーについていける斥候がいれば、ある程度以上の虫の大群は避けられるんだけどね。
リーダーがオジールのうちは増員あてに出来なそう。
となると、《探知》系スキルを取るか《探知》魔法を覚えるか。
魔法のほうが手軽だけど、魔力は無駄使いしたくないだろうし。
引き続き苦労して?」
「ああぁ・・・」
ピンスの目が死んでいく。
シャリアもすごくテンション下がってる。
一気にお通夜状態になってしまった。
「アルファ、これ用意できる?」
「・・・これですね。ご用意致します」
ビッグシュークリームを3個用意してもらう。
「これ食べて元気出せ」
1個づつ手渡し、自分の分を包装開けて口にする。
カスタードだけのシュークリームはだだ甘いだけでその存在を舐めてるけど、ホイップクリームの入ったダブルシュークリームは大発明だと思う。
ふたりとも包装開けて口にしたのを見届けて、施療室から出る。
ギルド受付前広間にて。
掲示板から、しばらく誰も手をつけてない『塩漬け案件』を見つけて受付票を剥いでいく。
今回の狙いは10層台から20層台、30層まで。
31層以降に進めるのは10パーティーを切るほどのほんのひと握りだから、掲示板に張り出される案件はほとんど無い。
それなりに急ぎの用事なら指名依頼になるというもの。
10層台以降だと虫系ドロップ品の人気が無く掲示板の片隅で忘れられて埃をかぶっている。
これはもしかして〈自動回収〉がいい仕事してくれるんじゃないだろうか。
大魔法で一気に殲滅とかしても、ダンジョン内なら本体の損傷状況に関わらずアイテムをドロップするから大量回収できるかも?
でもそんな魔法使いにアテが無い、か?
ティーキー、というか『光』パーティーは虫系に苦労したようだから誘っても泣きそうだし。
イノアは嫌だ。オジールより苦手。
東京に出てきた田舎娘、ブランド好きで一流・肩書きに騙されてるタイプ。
「東京に住んでる、所属してる」だけで自分が地元友人の中でも偉い、特別な存在だと勘違いしてる系。賃貸の安アパートのくせのに何言ってんだこいつ、みたいな。
そんなだから、『D級ポーター』と言ってあからさまに見下してくるんだよ。
そういうところ、すごく田舎者くさい。
自分にその手の大量虐殺手段は思いつかないからなあ。
となるとアルファに『駆動核』使って魔法覚えてもらう?
ま、そこまで急ぐものでもないからいいか。
後輩組からは「B級パーティーの金魚のフン」ぐらいに見られててそれでいいと思ってる立場上、いい条件で力を借りるのは難しいかもしれない。
昼飯どき。
食堂にしても屋台にしても、
ふつうの町娘の姿になるのも『嫌』なんだそうだ。
メイドの矜持がどうのこうの。
屋台メシを食べ歩く。食べないけど。難しいな。
屋台も入れ替わりが激しくて一期一会に近い。
同じ店、同じ店主でも品揃えをガラリと変えてきたり。
もちろん定食屋のように何十種類もメニュー揃えられるわけもなく、せいぜいがバリエーション違いの数種。
そもそもの定食屋や宿の食堂でも『日替わり』メイン1品ほぼ押し売りに小鉢的に追加する感じなんだけど。
最上級上流レストランでも、基本「お任せコース」だから今日用意できるもので店が提供したい品からは大きく外れないものなのです。
興味の湧いたものは10人前20人前と大量注文していく。
〈梱包〉してリュックに詰めるふりをしてストレージ収納。
しかし、アルファの顔を見て『おまけ』してくれる店主の多いこと。
世の男性すべて正しく『すけべえ』で下心丸出し。
顔面偏差値40の俺が連れ歩いていいレベルじゃないからねえ。
アルファに買い物交渉を任せたほうが『おまけ』が多くなるような気がするんだけど、ゴーレムに『人間力』が負けるような気がしてちょっとだけ嫌。
意味無く屋台メシの最新トレンドを網羅してみてるけど、歩き回っているうちに食べたい『とある一品』が心を支配していく。
「戻ろうか」
マイハウスに戻る。
道中、アルファに『現代の商品』なにをお取り寄せできるか聞いてみたけど、本人もよくわかっていないみたい。
コンビニ商品だけかと思ったけど、サンドイッチとおにぎりでメーカーが違った時点で怪しいとは思ってたんだ。
「というわけで、あれを出してもらおうか。
『彩り3種のチーズ牛丼大盛り、温玉トッピング』お願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます