第24話 整え、朝SPA師匠!
とあるパーティーの最後尾を歩くローブ姿の女性が音もなく崩れ落ちる。
集団がそのまま立ち去るまで、8つの目が気配を殺し闇にまぎれ息を潜めていた。
集団が十分離れたと見て、8つ目が動き出す。
アサシンスパイダー、胴は手のひら程度、足を含めて30cmぐらいの立派なタラバガニサイズ。
これで動くときは逃げる猫のように素早い。
巣を作らない地蜘蛛タイプで、糸を蓄える大きなお腹は持っていない。
いちおう少量なら糸を作ることもできる。
全身が光を吸い込むような真っ黒い姿だが、ポイントであしらわれる鮮やかな赤・緑・青の光沢ラインがかっこいい。
ユージがこの蜘蛛大好きで、いくつか剥製にして持っている。
『注意喚起』のためにと冒険者ギルドにもひとつ貸与されていて、20層を超えた冒険者に拝観させている。
もちろん迷宮から剥製にできる全身をゲットできるものではなく、迷宮外の野良暗殺蜘蛛を傷つけないように捕まえたものだ。
パーティーの後衛が行方不明になるのはだいたい奴が原因。
後衛だけかかる《転移罠》なんて無いんですよ。
20層台からのアサシンスパイダーによる死亡率は、実は馬鹿にならない。
十分離れたと見て、仕上げにかかる。
動きを止める即効の麻痺毒を再度注入。戦闘で使う毒は最前の2本の足の爪から。
あるいは体、手足を覆うトゲトゲの毛からも付与することができる。
落ち着いた状況になってから、改めて強力な筋弛緩毒を牙から注入する。
この毒は『
『
どうでもいい余談だが、この毒を抽出すること作ることはまだ誰も成功していない。
個体が死んだり影響範囲から離れるとなぜか毒の薬効が消えるのだ。
王国に一人、この暗殺蜘蛛をテイムしている
魔力やMPが少ないので詠唱完了、魔法陣完成まで10分ぐらいかかるのだ。
この蜘蛛にとって、ここは絶好の『狩場』だ。
どこから来るのか、〈気配察知〉に突然ひっかかるように湧いて出てくるのだが、結構油断している個体が多い。
毎日数回チャンスがあって、その半分ぐらいは油断していて攻撃のチャンスがある。
時間によっては次々に湧いて、〈影転移〉の時間が取れない。
なんとなく生活リズムから離れた時間に湧いた奴らには「チャンス!」と見て牙を剥く。
単独で行動している侵入者はほとんどいないので、こうやって群れから引き剥がして自分の巣、安全地帯に連れ込まないといけない。
自分
〈影転移〉の詠唱が8割ほど進み、転移魔法陣が姿を見せる。
深い青色だが迷宮の闇の中ではかなり遠目からでも目立つ。
群れが1組戻ってきたようだ。今日の『狩り』は失敗だ。
ここから動くと〈魔法陣〉が消えてしまう。だが仕方ない。
アサシンスパイダーは詠唱をキャンセルし、気配を消しその場から離れる。
入れ替わるように冒険者パーティーが1組走り寄る。
「おい! 大丈夫か!?」
「やばそうだぞこれ。蟲毒だな」
「20層が近い。そこまで運ぼう」
「すぐにポーション使わないと!」
「策敵して! モンスターは!?」
「近くにはいないよ!」
「よし、俺が運ぶ!」
大柄な男が盾を仲間に預けて、その女性を肩に担ぐ。
「んあああぁぁぁっっっ!!! あっはあぁぁ~~ん・・・」
緩みきった女性の体が震え、艶っぽい声が迷宮に響く。
「おぉー、色っぽい声」
「馬鹿言ってないで! とにかく早く
階段を掛け上がり、
女性陣が床にマントを重ねて敷き、ローブの女性を横たえる。
「
中級の『
唇の震えなどが治まり状態は安定する。
呼吸も落ち着いて、安心して寝ているように見える。
「これで、しばらくは安心かな。」
「彼女、あれじゃないの? もうすぐA級になるっていう『光の』」
「リーダーの彼女」
「「じゃない方!」」
「・・・そっか。でも何があったんだ」
「メンバーが帰ってくるか彼女が起きるまでしばらく待機だな。
休憩にしよう。
話の流れ次第ではこのままダンジョンから出ることも考える」
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