第21話 スリップ!


 40層ボス。

 今回はでかいなあ。身長5mぐらいありそう。

 2階のベランダに、目線の高さの棚に手を伸ばす感覚で届くみたいな。


 ここまででかいと、足しか狙うところ無いよねえ。

 跳び上がって攻撃しても腰あたりまでだし、股間狙っても意味無さそうだし。



「スリップ!」


 言いたかっただけ。スイカぐらいの油壺を踏ませる。

 踏んだらアキレス腱を狙って1トンフルスイング。


 まあ簡単に転んで決着がつく相手でもない。が、転びそうになって股間の球体関節にかかる負荷はHPに追加ダメージ入るのだろうか。


 狙えるところなんて膝と足首ぐらいしか無いからね。

「弁慶の泣き所」を攻撃されて泣きたくなるのかどうかは小一時間問い詰めたい。



「部位破壊」というか、足が膝から1本飛んで、まともに立てなくなった。


 こうなったらもう巨大ゴーレムも雑魚でしかない。

 頭上から打ち下ろす、一撃で死んでしまいますみたいな攻撃も無いし人間の骨格からそんなに外れてないゴーレムの挙動に怖さは無い。


 攻撃が届くようになれば、顔じゃなく核のある胸元、鳩尾に集中攻撃。

 それはもう、何かに憑りつかれたように。




 今回、無事『古代ゴーレムの駆動核』を確保することができました。

 あと、『上級怪我治療薬』『上級状態異常回復薬』『上級病気治療薬』3点セット。

『怪我治療』も、さすがに上級ともなれば部位欠損を回復してくれる。

 ただ「失って1日以内」など、いろいろ制約を伴うが。


『病気治療』の上級は価値が高い。

 王家に売って恩も売るのもいいし、競売に掛けるタイミング次第では一生暮らせる値段がつくこともある。


『状態異常回復』の上級は、だいたい中級で用が済むので常時高値ということもない。

 上級が必要なたちの悪い呪いにかかってる人なんて世界に一人いるかどうかの珍獣。なんて言ってしまったら失礼か。








【Side:光の覇道】



「いやああぁぁぁぁ!!」


【重戦士】ピンスの悲鳴が18-19層階段通路に響く。


(※健康中毒「ごめんよピンス・・・、この役目、君しかいないんだ・・・」



 現れたのは巨大なムカデ。体長は20mを超えてるだろうか、通路の先の闇に消えて全貌が見えない。

 頭部の大きさだけでも肩幅を越えており、その牙は人の頭を軽々と噛み潰しそうな大きさがある。


 そのボス個体を筆頭に2mとか5mの個体がうじゃうじゃと。




 ピンスの腰は完全に引けてしまっている。構える盾も形だけで意味はなく、振り回すだけの剣撃もまともな有効打にならない。


 イノアとティーキーが目を覚まし援軍に入る。

 ふたりとも虫系は苦手だけど、不意打ちじゃなければ必殺の魔法で寄せ付けないからまだ余裕がある。


【氷雷魔術師】イノアの〈氷嵐ブリザードストーム〉と【賢者】ティーキーの〈炎蛇プロミネンス〉が吹き荒れる。


 つめたいあついで中和されることもなく、冷えた体が熱される温度差で相乗ダメージが乗る。



「任せて!」


【姫騎士】シャリアがボス級オオムカデに切り込む。

 狙いすました一撃で頭を斬り飛ばすが、本体の動きはなかなか止まらない。これだから蟲系はやっかいだ。


 牙と尻尾の毒は強烈だが、百足の足ひとつひとつについている爪にも毒がある。

 適当に暴れて巻きつかれて、皮膚をひっかかれるだけで火傷のように腫れ上がってしまうのだ。


 動きが鈍った雑魚ムカデは非力な魔法職が杖で殴っても踏み潰しても十分致命打になる。



 ピンスも熱い冷たいの嵐の中だろうが気にせず、腐った魚の目で蟲を潰し続ける。



 戦闘はほどなく終わり、戦況が落ち着くと見るやピンスが鎧を脱ぐ。

 白い肌がところどころ赤く腫れ上がっているのが見ていて痛々しい。


 も、文句や泣き言ひとつも言わず状態異常回復薬を塗りこみタオルで拭っていく。


 シャリアが背中など手の届かないところを手伝うが、掛ける言葉が無い。



 オジールは起きてこなかった。


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