第20話 武器破壊(物理)!


 39層に戻る。いい感じの袋小路、行き止まりの部屋に陣取って『警報ゴーレム』をいじめる。


『警報ゴーレム』が警報を出す。

 ほどなく、うじゃうじゃと数十体の戦闘ゴーレムが湧いてくる。


 これ、俺の〈マップ表示〉じゃなきゃわからないと思うんだけど、ほんとに『湧く』んだよ。


 警報を聞いて近くのゴーレムが集まるんじゃなく、マップ上ところに敵性の光点が発生するんだ。



『湧き』を確認した瞬間に警報ゴーレムを飛ばすけど、追加おかわりが止まるだけで最初に呼ばれた十数体は現場に集合してくる。


 湧くのが半径1~2キロ圏内なので、到着には少しタイムラグがある。

 基本、奴らは直線攻撃しかしてこないので、狭めの直角通路で待ち構えていればほんと雑魚相手の経験値稼ぎだ。

 囲まれれば脅威だが、1トンの鐘突きに耐えられるゴーレムではない。





 ボス前フロアは『徘徊ボスワンダリング』と呼ばれる、時にフロアボスより強い要注意モンスターが現れることがある。

 19層のゴブリンジェネラルなんかが有名で、時に50近い大群になっていたりする。


 発見遭遇次第、討伐クエスト組まれて殲滅させられるのでなかなかそこまで大きくなることはないんだけどね。


徘徊ボスワンダリング』はたまに18層まで上がってくるけど、群れ系のボスについてこれる手下は少なく、さらに階層をまたぐと弱くなる。

 ゴブリンでいえば、ジェネラルからリーダーに格下げが起こるぐらい。



 8-9層の階段は安全地帯ではなく、むしろモンスターにとっての主要巡回ルート、幹線道路になっている。



 まあ、『光の覇道』時代はてきとーに決めたような部屋に泊まり、複数人で見張りを立てることもなかったからな。


 ほとんど俺一人に見張りを任せて、俺も「皆を起こす前、俺が気付く前に奇襲なんて受けることがあれば全員に金貨1枚払ってやるよ」と言いつつ、今まで何もなかった。


 睡眠時間も確保してたし自由時間とか言ってドロップアイテム求めて走り回っていたり、ずいぶん余裕かましてたものだ。





 適当に時間を潰しつつ、頃合いを見て40層に戻る。

 ボス前の広場で待ってるとなかなか復活しないんだけど、少し離れると復活が早い。

 早いと言っても6~8時間、1日3回バトれるか微妙なところ。

 今日は36層スタートで40層到達が昼過ぎだったので、ここで打ち止めだ。



 今回の40層ボスは「ソードマン」タイプのゴーレムだ。

 S級に匹敵する剣技、大会とか模擬戦なら軽々と1本取られるぐらいの技術巧者だけど、残念だ。相手の悪かった。



「武器破壊(物理)!」とか言いながら小枝を振り回すように1トンの打撃を与えてくる相手には勝てない。


 正面から受け止めたらそのまま

 戦闘中にそのことを学習する時間も与えられないまま、勝負の大勢が決まってしまう。




『古代ゴーレムの魔導核』といっしょに『古代帝国の正装剣』もドロップした。


 これは良いものですね。


 魔力のが、今使ってる鉄木棍てつぼくこん並に良い。

 通常なら『炎』や『冷気』、『雷』なんかを纏わせる魔剣系なんだけど自分のやってる『重量操作』も抵抗なく「すっ」と通る。


 鉄木棍は毎日毎回何度も何度も使い続けて手の形に馴染んできたところあるけど、この正装剣は最初からそのレベルに匹敵する。


 簡単にギルドに売り飛ばすのは勿体無い。使いこなせそうな相手を見つけて手渡ししてあげたい。


 ただ、『幅広剣バスターソード』ほどでもないけどスタンダードな長剣よりはひとまわり長くて重いのよね。

 駆け出し冒険者の膂力では厳しいかもしれない。




 今日のキャンプ地はボス部屋の前とする。

 ノルマ?は達成したしボス部屋超えた『ゲート前』のセーフエリアのほうが安全なんだけど、あっちからボス部屋に帰ってきてももう一度戦えないのよね。

 もう1回やったら30層に戻ろうと思っている。

 先に進むにしても、もう一度ボス戦やってもいいと思うし、『回復の泉』の回復効果ほんとすごいし。


 持って帰りたいと思うんだけど、部屋から出るとただの「水」になってしまう。

 この水は飲料水マニア、水道水が飲める日本人の俺からしてもかなり美味しい。

 薬効無くても持って帰って売れる。お金出す価値は十分ある。

 でも給水マシンがあるところでペットボトルの水1本に150円出す人もあまりいないが。






【Side:光の覇道パーティー】



 キャンプ中、1度襲撃があったがそれとはあんまり関係なくきっちり休めなかったご一行。


 目標は20層前だが、そこまで進めるかどうか。

 昨日は13層から15層までの3層しか進んでないぞ。



「嫌ああぁぁぁ! もう蟲イヤだああぁぁぁ・・・」

【重戦士】ピンスの心は折れている。腰が砕け、座り込んでしまう。

 その目から涙が溢れる。


 魔法使いふたりも無駄口ひとつ無く淡々と迷宮を焼き尽くす。

【姫騎士】シャリアですら前に出ようとしない。

【天戦士】オジールも、単体攻撃力には光るものがあっても大量の小さい目標には有効打があまり無いので元気が無い。


 勝てない相手じゃないのに逃げたり迂回したりしてると心が腐ってくる。


 くさくさした心の腹いせに襲われるウルフやオークたちが哀れ。



 18層でも散々迷いまくり、19層への階段へ到達したのはおそらく日付が変わる前。

 さすがのオジールも、ここからあと1層進むとは言わなかった。


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