第16話 助太刀いたす!


 ダンジョン探索2日目。

 初日から濃い探索だった。


 今日の目標は30ボス前のセーフエリアまで。いけるかな。



 20層台はなかなか厄介なエリアなのだ。


 人型モンスターは順調にランクが上がっていき、ついにオーガなんていう身長3m近いモテモテイケメン最終兵器が。

 高身長・高耐久・高破壊力の3高だけど女性人気あるのかどうかは謎だ。



 人型より嫌なのが狼系。

〈策敵〉範囲が広く〈隠密〉が効きにくい。

 実は〈隠密看破〉みたいなスキル持ってるんじゃないか疑惑。


 ぼんやり進んでるとどんどん集まってきて連戦から逃れられない。

 ソロ殺しだよなあ。俺の棒捌きともあんまり相性よくないし。




 23層、〈隠密〉スキル全開で狼の群れをやりすごす。

〈隠密〉スキルを発動していても移動してるとバレるので、息をひそめてじっとする。


〈マップ探査〉で見てると、狼さま御一行の行く先に緑の光点、たぶん一組のパーティーが魔物に囲まれている。

 ここに追加の狼さま5名様おかわりが入るとまずいかもしれない。



 20層台以降で活動しているパーティーはかなり絞られてくる。

 10層台で活動してるパーティーの3割、30パーティーと少しというところ。


 日帰りで気楽に入ってこれる距離でもないので実際活動してる、出会える確率としては半分の15パーティーというところか。


 さすがにこの人数まで絞られるとパーティー名とリーダーぐらいは把握できる。

 挨拶に、助太刀に行ったほうがよさそうだよな。



 ハイウルフの群れを、マップの光点見ながら追いかける。

 灰ウルフじゃないよ、グレーウルフはひとつ格下だ。サンドウルフは別系統だ。





「助太刀いたす!」


 なんかハイウルフの群れを連れてきた感じになるのが嫌だけど、そんなこと言ってられない。




「助力感謝する!」


『烈撃』リーダー、リックさんから返答貰う。



 状況をしっかり見てから救援に入らないと、望まれぬ戦闘の横入りは斬られても文句言えないぐらいのマナー違反、迷惑行為になり得る。


 ここで「助けてください!」とか言っちゃったら、「」ということでこの後の主導権を恩着せがましく完全に握られるのだ。


 冒険者めんどくさい。




 状況的に、戦闘中に背後から追加が入って挟み撃ち状態になってフォーメーションが崩れた、ってところかな。



 狼を打ちあげる。敵が素早いとはいえ初撃はなんとかなる。

 乱戦になってくると、鉄木棍てつぼくこんの重量操作が間に合わなくなるんだ。


 対オーク軍団戦程度、「1! 2! 3!」と声を出して数えるぐらいのスピードなら追いつくんだけど、「123456789!」と早口で読むぐらいの対応を迫られると無詠唱とはいえかなりきつい。


 連れて来たウルフを前衛に押し付け、後衛側に抜ける。

 ふたり倒れているのを見て〈中級ポーション〉を2本渡す。


 礼はいいから早く飲め!



 後衛側のウルフを何匹か飛ばしたら後衛側はなんとなく落ち着いた。

 一度フォーメーション立て直せたら、このエリアで活動しているパーティーだ。なんとでもなる。

 窮地は脱したかな。


 こうなればパーティーの連携を崩さないように後方の後ろに控えて、まわりこもうとする狼に対処していくだけ。






「助かりました。ありがとうございます」


『烈撃』パーティーメンバーが魔石や狼牙などの今回の戦闘のドロップアイテムだけじゃなく自分たちの荷物から持ち出しでお礼を出そうとしているので制止する。


 今回の〈中級ポーション〉2本分だけ魔石払いで貰うことにする。



「お礼受け取れ」「言葉だけで十分」の応答ラリーができる関係っていいよね。


「俺が困ってるんだから助けて当然」「お前が勝手に割り込んだんだ」みたいな態度、わざわざ手を出して不快になるというのは嫌なものです。




 27層でも戦闘中の気配を感じたが、これはモンスターの援軍もなさそうだし光点の光の強さを見て苦戦もしてなさそうだし、顔出さなくてもいいや。



 29層で1組見つける。戦闘中ということでもないので挨拶しにいく。


『月光』もベテランパーティーだ。中心メンバーが30代半ば。

 穏やかに、何年もこのあたりの階層で狩りを続けている。


 俺たち『光の覇道』がこの迷宮都市に来たときから6~7年はここにいると思う。

 面倒見がよく、後輩の後進に力を入れている。

『光の覇道』が30ボスを倒し、追い越すように先に進んだときも悔しがることもなくいっしょに喜んでくれた。



 悪く言えば覇気が無い。

 このままあと数年でそっと引退してしまうことを想像すると、ちょっと悲しくなりそう。




 積極的に他パーティーに関わりに行くのは、このあたりの階層で活動してると印象づけるため。


 アリバイ工作というやつだ。



 ちなみに30ボス前『回復の泉』広場でもう一度『月光』メンバーと合流したよ。


 スープとオープンサンドを奪われた!


 いや全く問題は無いんだけどね。言いたかっただけ。

 迷宮奥地で温かいスープを振舞うのは俺の密かな趣味だ。


 温かい汁物って、胃といっしょに心もぽっかぽかに温かくしてくれる。

 俺はそう思ってるけど、他の冒険者さんって軽視してるよねえ。

 そのわりにみんな欲しがる。


 友人には振舞う。顔見知りには街の屋台価格、嫌な奴には10倍以上。

「命が危ない」と情に訴えるようなら、自分ではあんまり食べないカッチカチ乾パン携帯食を。水分は泉があるからね。大丈夫だよ。


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