第15話 あばよ、とっつぁん!!

 さて、ひと暴れしようか。



『旋風』メンバーは退却して、あとは俺と、オークおまえと、貴族パ大五郎


 大五郎って誰だ!?




 オークの群れの中に入って、適当に大暴れする。


 顔や肩を棒で小突いて怒りヘイトを稼ぐ。

 騎士様に負けないぐらい顔真っ赤にな~れ~。



 大きく避けるときは貴族様たちの方向へ。


 棒で床を叩きながら挑発する。顔に向けて小石を投げる。



 普段は大仰しく、腕を組んで胸を反らしている草野球の監督みたいなイメージでどっしり後方に控えているリーダー格なんだけど、煽り耐性は低い。


 ヘイトコントロールの魔法とかスキルが無くても、一度挑発に乗って動き出したらなかなか冷静に戻らない。



 3人(ジェネラル+リーダー2)をこっちのリーダー、騎士様じゃなく貴族の坊ちゃんのほうに向かわせる。


「監督ぅ! やっちゃってください!!」



 念のため、豚監督3人に〈加速ヘイスト〉をかける。

 第一位階、いわゆる《基本魔法》のランクなので気持ち早くなる程度だけど、〈激高バーサーク〉状態の監督の役に立つ。


 ていうか、逆の〈減速ディレイ〉が豚に効くからと逆転の発想。

 コマンド選択RPGで言うとひたすら「たたかう」「なぐる」連打みたいな行動だから、スピード奪われたらワンランク格下になるぐらいこの戦法が刺さるんだ。




 貴族パーティー巻き込んでレッツパーリー!


 ごちゃごちゃと大乱闘スマッシュお祭り騒ぎになってきたのでそろそろ頃合いか。




「あばよ、とっつぁん!」


 目が合うタイミングというかリーダーを背中からドロップキックで坊ちゃんに押し付けて、騎士様に親指立てていい笑顔でサムズアップ見せてからの戦場離脱。



〈隠密〉で隠れててもいいんだけどね。

 でも、奴らに迷惑掛けてやるのが主目的だからね。


 目の前で『逃走エスケープ宝珠オーブ』使ってやる。

 金貨5枚、オークションだと金貨50枚を超えるアイテムをドブに捨てる。


 騎士様の「信じられない!」っていうびっくり顔見て満足。











 さっきまでいた休憩エリアに戻る。

 ドロップキックの反動、余波で浮いてる状態だったので背中から落ちる。



「大丈夫ですか!?」


『旋風』メンバーが寄ってきてくれる。親指立ててサムズアップ。

 こちらには挑発の意図は無い。



「まあ大成功でしょ。あとは運とあいつらの頑張り次第」



 今のところただの押し付けモンスタープレイヤーキルだけど、生き残ることがあったら厄介だ。


 地上に帰さないために、自分で手を下さないといけなくなる。

 そうなるとレッドネーム、犯罪者扱いになる覚悟も必要になる。


 冒険者タグが何を見て判断してるのか、こういうとこ高性能なんだよなあ。




『回復の泉』から1杯貰い、〈マップ探査〉で光点を確認、観察する。


 ひとつ、またひとつと光点が消えていく。




 殺してしまうほどの悪意でもなかったとは思うところあるけど、こので10年も冒険者やって自分の命を賭け続けていると、平和な日本人感覚ではいられないというもの。


 犯罪者も山賊も何人も殺してきた。

『光の覇道』パーティーとして立ち会っただけでなく、裁判なんて無く獄門打ち首になるのを知ってて捕縛して衛兵に突き出したり、時にこの手で引導を渡したり。



 貴族相手というのは厄介だ。


『貴族』という特権階級を使って、無実の罪で一方的に殺しにくる。


 そこまでひどいのはいないが、稀によくある話。

 奴らもその手の予備軍。


 屋敷のメイドさんとかを「平民だから」と好き勝手に転がして闇に捨てるような立派な貴族に育つことだろう。



 ダンジョンの中だからこそできる、自衛の手段。




「軽く煽ったら、売り言葉に買い言葉で勝手に突っ込んでいった。

 そういうこと。いいね?」


『旋風』パーティーにきっちり言い含める。

 雑なアリバイ工作だが、記録魔法がいい塩梅に「逃げんなポーター!」のところで終わってる。


 煽るところはある程度俺が悪いように言ってもいい。


 ここで、ここから割り込むように先にボス部屋に突っ込んだというストーリー。

 死人に口無しだ。生き残るようならその口を封じるが。





〈マップ探査〉の光点から、人間の生存を表す緑の光点さいごのひとつが消える。


 消えたオークは3~4体ってところか。見積もり甘かったな。

 貴族様チームの実力を高く見すぎた。

 



『旋風』パーティーに一声かけてボス戦再戦。


 リーダー1体減って、ジェネラル1・リーダー1とあとは取り巻き。

 大技、広範囲魔法が炸裂したようだが倒すまでには至らずというところか。




 さくさく転がしていくけど、その姿を見た『旋風』メンバーに呆れられる。

 ジェネラルですら手合い違い、全く相手にならないレベルだからな。



 ドロップアイテムは『バスターソード』と『豪力の腕輪』、『雷の属性宝珠』。

 あと中級ポーション1本含め消費アイテム色々。



 遠慮する『旋風』メンバーに金貨含めドロップアイテムを押し付ける。

『雷の属性宝珠』と肉ドロップ半分量、『オークジェネラルの睾丸』だけ貰う。


 オークジェネラルは28~29層で探してでも狩るつもりだったからここでドロップしたのはおいしい。

『オークの睾丸』は『精力剤』になる。王侯貴族に跡取り問題は重要事項だ。

 製薬難易度、材料入手の手間賃に関わらずかなりの高額取引になる。

 こういうのはなんぼあっても良いものですからね。



『旋風』には嫌なドロップアイテムを押し付けて後始末をお願いしておく。

 冒険者タグを6枚、家紋の入ったペンダントと懐刀、あと杖とか兜とか。




 ふう。長い1日だった。


転移門ポータル〉から帰還する『疾風』パーティーを見送りながら息を吐く。





――――――――――――――――

P.S.

というわけで貴族チームは即退場。

地上に戻るのはだいぶ後になる予定だからね。作者、忘れると思うよ。



それはともかく、ポーターの地位向上のために入り口からの最高攻略層への転移を無くしたりそもそも転移を用意しない設定にしたりぶれぶれだったので、「40層まで5日帰りは3日、この辺での活動数日」の滞在予定で最短10日に設定してたけど、長いよね。半分でいいよ。


これぐらい無いと手荷物山盛りのまま上位モンスターと戦闘する苦労が無くなるからね。

往路の転移ができると日帰り前提の攻略になるし、それだとほんとにポーターいらなくなってしまう。

オジールはこの苦労を知らないから「ポーターいらない」感覚なんだけど。


ポーターのいない初「ダンジョン探索」、苦労してください。是非ぜひ。

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