第13話 野良ゴブリンに餌付けしてはいけませんっ!

 予定通り? 20層ボス前。


 ボス前には基本、休憩できる広間が用意されている。

『回復の泉』と呼ばれている、清涼な水が湧く泉があるんだ。


 怪我などを泉の水で洗って綺麗に拭いておけば、かなりゆっくりだが一晩で傷が塞がるぐらい回復してくれる。

 でも、怪我の治療よりも疲労回復のほうが効果がある。



 ただ、ここ『』では無いんだよね。

 まれに上からお客さんモンスターが降りてくる。


 特にここで店を開こうと居ついていると、なんかやばいのが来るらしい。

 それに出会って、生きて帰った人は居ない。



 逆にボス抜けた後の『転移門ポータル』のある広場はきっちり『セーフエリア』だ。

『回復の泉』は無いけど。


 街に帰ろうと思えばすぐに帰れる、ここで10倍値段で商売すると恨まれそうなんだよねえ。


 どうしても欲しいものがあると言えば20階層の距離分を足して現金払い。

 ツケは無い。


 ただ、命に関わる怪我をしているようなら応急処置ぐらいはしてあげるけど。

 杓子定規に端から全部突っぱねてると恨まれるしね。






 さて、ボス戦こなしてから休むか、休憩明け万全の体制でボスに挑むか。


 今ここに2組10人ほどいるんだよなあ。

 1組は『旋風』、少し後輩の、結構付き合いのあるD級パーティーだ。


 オジールを英雄視してるのはともかく、ちょっと懐きすぎな気がする。




 もう1組がなんて言ったか王都からのおのぼりさん貴族チーム。


 モンスターじゃない相手に警戒しないといけないのは精神的にきついんだよなあ。





『旋風』チームに軽く挨拶して、1歩離れたところに折りたたみ椅子をセットして陣取る。


 ハイブリッド折衷案、1時間ほど休んでボス戦やってから1泊。

 今、体感時間21時。今から殺りあうと結構夜更かしになっちゃうのよね。


 でも、あいつらが自分『』を見る目が気になるから少し無理をしても進んでしまいたい。





『回復の泉』から水を汲もうと近づいたところで立派な騎士様に阻まれる。



「ここはキャンプ地として我らが確保している。勝手に入られては困るのだよ」


 後ろでニヤニヤ笑いしてる坊ちゃんを見てだいたい理解した。



「そうですか」


 声に抑揚をつけず、すっと引く。




 この、腹にどす黒い何かが溜まって煮えたぎる感じはどうなんだろう。

 恩には恩で、悪意には悪意で返すとか考える俺は、主人公・英雄にはなれないな。





 彼らから離れ、『旋風』チームの近くに戻る。


 魔導コンロ・鍋・手荷物から水袋を出して汁物スープの用意を始める。



 魔導コンロはふたつ持ってて、旧式は七輪タイプ。発熱させた魔石を置くだけの簡単な構造だ。


 新型は魔力流入量を制御して火力が調節でき、燃費も格段にいいカセットコンロタイプ。

 小さくて軽いことは自分(チート運び屋ポーター)的には値段が数倍になるほどの利点ということもないけど、デザインがいい!



 新型旧式と言ってるのは単に自分が買った時期の話で、数年で技術革新が起きたわけではない。

 駆け出しの頃に買った『旧式』は銀貨5枚5,000円、ちょっと前に買った『新型』は金貨2枚20万円だ。




 スープには『味噌玉』みたいに味付けして固めたものを入れているので、ダンジョンの奥地でいただける味とは思えない深みがある、と自画自賛。


 巨大ウナギの切り身を『旋風』チーム5人にご馳走するために6切れ入れる。

 ウナギと言っても現代日本のようにプレミア価格がついているわけでもなく、ただの煮込めばほろりと崩れる上質な白身魚だ。

 あとはすぐに煮えてやわらかくなる春キャベツみたいな葉野菜ときのこ類たっぷり。



 もうひとつの魔石コンロ(新型)に鉄板を乗せて、飛竜ワイバーンの肉を焼く。

 塩とにんにくとハーブ類を獣油で練った俺オリジナルの香油は肉の焼ける香りと合わさってまさに香りの暴力だ。


 もちろん焼いた香りが出るように、わざわざ高級肉を使っている。

 ワイバーンの喉元はワイバーン肉の中でも最高級の部位で、手のひら1枚250g程度のステーキでも金貨1枚では食べられるものじゃない。




『旋風』のメンバーに、スープ1杯と肉一切れをおすそわけ。


 夕飯済ませているとは言っても、迷宮奥地で食べるあたたかいものは格別だ。

 特A級案内人が無駄な戦闘を避けながら一直線で向かわなければ、ここまで1日で来れる距離でもないし。




『旋風』メンバー5人とわいわいやってたら、案の定「騎士様(笑)」が割り込んできた。



「供出せよ」



「あ、すいません。ゴブリンのエサは用意してないんで無理っす」



「あぁ!? 貴様、我等を愚弄するか!!」



「はて?

 今ここには冒険者1組の他には迷宮探索のルールも理解してないが何匹か住みついてるだけっしょ?」


 首にかけてる冒険者タグを指先でもてあそびながら煽ってみる。




「貴様ぁ! 男爵家嫡男ジオス様を愚弄してタダで済むと思うなよ!」


 騎士様、顔真っ赤w

 向こうサイドもこっちの『旋風』パーティーもざわざわしてきた。



「そっちが勝手に売ってきたケンカなのに軽く言いくるめられたらすぐに家・親の名前出すんですね。

 つまりそれは自分たちに何の力もないただの子供ってことでFA?」




「D級ポーター風情が舐めんなぁ!!!」


 あーあ、剣抜いちゃったよ。





――――――――――――――――

P.S.

ナーガ、タニエン、マッター、ケノア、ジオス、イモノ、な。

多分全員の名前出す前に決着つきそう。


最近こんなことばっかり考えてる。

ちなみに『旋風』メンバーの名前はまだ決まってない。



迷宮内で「不幸な事故」に遭ってもらうか貴族位が危うくなるまで名誉を貶めるか。

ストック0、なにも決まってないのに酔った勢いで貴族様出しちゃって大丈夫かな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る