第10話 元メンバーとデートだってばよ?


 予定通り、10層ボスフロアのゴブリンどもを倒して〈転移門ポータル〉で帰還。


転移門ポータル〉は、たいてい10層毎のフロアボス撃破したその先に設置されていて、迷宮奥地から迷宮入り口へ瞬間移動することができる。

 ただし一方通行だ。





 翌日は少し思い至るところがあって、2週間ほどの遠征準備に走った。


 準備と言っても、屋台メシのオープンサンド的なものを15日30食分、あとスープが作れるように野菜類をいろいろ、全部合わせてかご一抱え分ぐらい。



 食べることしか考えてないのは何故だろう。



 戦闘や道中で使う消耗品なんて全く無いし、ポーション類も十分な数は用意してるし、なんなら戦闘中でも追加で増やせるし。




 夕方と言うには少し早い時間、公衆浴場に向かう。

 湯船に入る人は少なく、サウナで汗を流す文化。


 広いサウナは心地いい。

 熱気を共有するように女性用と木板の壁1枚で繋がっており、異性の気配や話し声がダイレクトに伝わる。


 壁1枚挟んで向こう側で女性が汗をかきながら熱気に耐えて熱いため息なんてついているところを想像するとお忍々にんにんが忍ばなくて困った事態になるけど、今はまだ肉体労働組が風呂入りに来る時間じゃないから人は少ない。


 ついその場のノリで腰巻きのタオルを外してしばし公共エリアで自分のへそを突き刺すような開放感に酔いしれる。



 お馬鹿な遊びは置いといて、ゆっくりさっぱり、心も体もリフレッシュしてから待ち合わせ場所へ向かう。


 いちおう自分は貴族様との顔合わせ、交渉ごととかあるからフォーマルっぽい服は用意している。

「冒険者が謁見する」と言えば、全身鎧や装備効果のあるローブなどなどそのままダンジョンに向かえるような臨戦態勢の装備でも通用するところあるんだけど、そうは言ってもポーターが生成りの麻服に衣装ダンス背負うスタイルはなんとも様にならない気がして。



 ケールは小悪魔だった。

 黒のひらひら膝上ゴスロリドレスに膝頭が隠れるロングブーツ、ドレスの装飾ボタンが缶バッジぐらいでやたら大きく、それがローティーンっぽい幼さを演出。


 スカートのふくらみ、丸みを作るパニエの白生地がほんの少し見えるのが、それだけでドキドキしてしまう。

 膝上スカートの裾からブーツの膝頭まで、ほんの少し見える生足のふともも“絶対領域”が目にまぶしい。本気で輝いて見える。


 俺の少し下、20前ぐらいのはずなのに、女性ってシチュエーションで化けるよなあ。

 冒険者として危険に晒される中、頼れる存在としてのケールの凛とした佇まいとはほんとまるで別人だ。


 こういうふわっとした姿は、パーティーメンバーとして5~6年一緒に居たはずなのに見たこと無かったかもしれない。




「さ、行きましょ」


 小悪魔に見とれていると、腕を取られて絡みつかれた。

 ほんのり、あるかないかの胸部を押し付けられ上目使いで見上げられると頬の肉も緩むというもの。


 陽が落ちそうな黄昏時の街をふたりで恋人のように歩く。



『白銀霊峰』は貴族の方も利用する高級店だ。迷宮都市の中でも最高級と言って過言ではない。


 同格の店が数店、それ以上を望むなら領主様が主催する特別な晩餐会ぐらいしか無い。



 できれば狭くない4人掛けの個室を用意してもらいたかったが、ウェイターのいらぬお世話で二人用の、しかもちょっと暗めのいい雰囲気の部屋になってしまった。


 席に案内してもらう隙をついて、今日の予算として金貨1枚(10万円相当?)渡しておく。

 ワイン2本、白赤をオススメで。残り6~7割を食事代に。




 女性と飲むのは楽しい。

 話題のほとんどが愚痴だとしても。


 追い出された後の話から近況報告まで、追い出された側も残ったパーティー側も。


 ケールは斥候組合ギルドにお世話になっていて、昨日のようにスポット参戦ということもしているらしい。


 その他、街のウワサなんかを集めることも積極的に。



 もしかしたら、『光の覇道』パーティーの現状あけっぴろげに話しすぎたかも。

 今回の依頼の顛末とかパーティーのA級昇格公認が絶望的とか、こういう情報は知りたい人なら金貨1枚どころじゃない価値があるかもしれない。


・・・やらかしちゃった?



 そして、期待はしてなかったけどアフターは無かった。

 腰を抱いて少し強引に連れ込めば、行けたかもしれないけど。



 いい感じに俺の息子が元気で下品なので、このまま花町に消えよう。

 滅多にない、よそ行きの一張羅だからな。





 娼館や娼婦とは言っても、性奴隷とか借金のカタに無理矢理とかそういうのは無い。



・・・多分。




 多少なり後ろ暗いところはあるだろうけど、客にそれを見せることは無い。

 うまく化けるよなあ。女のひと凄い。


 端から全員身請けしていって解放してあげるほどお人良しでもないけど、借金返済とかなにかの足しになるようになるべく足繁く通い、チップは多めに渡すようにしている。



 通うと言っても一人に入れ込んでるわけでもなく、行きつけの数店舗にお気に入りの娘が十数人。


 高級娼館の、「いかにも上流でございます」みたいなお色気ムンムンのお姉さんはあんまりタイプじゃない。


 なんか「自分の値段を知っている」というか、「男なんて馬鹿だから適当におだてて金出させてなんぼ」みたいな男性蔑視してるくせに媚びてる感じとかが。


 そういうのよりは嬢も客側もお互い尊重しあって、和気藹々わきあいあいと楽しみたい。

 行けば会える、食堂の給仕娘ウェイトレスに挨拶に行く感覚。

 もちろん娼館だからその先がある。



 顔面偏差値40のぼんやりした平たい日本人顔なんて、モテとは縁遠い。

 女性に相手してもらう理由なんて、お金以外に何も無い。


 なんのかんのと言いわけ重ねたところで、ただ俺がなだけだ。


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