第6話 一撃必殺マン・・・それ以上は駄目だっ!

 ブラッドベアーに襲われている駆け出し冒険者3人組を助けよう!



 前足で男の子を押さえながらこちらを見たクマさんの首元にお得意の鉄木棍てつぼくこんを叩き込む。


 クマさんの首が曲がってはいけない方向に曲がる。




 全速力で走り抜けるスピードで決着がつく。


 もう動く力は無いけど、苦しまないように解体ナイフ〈吸血公ブラッドイーター〉を首に差し込み頚動脈を切って命を終わらせてあげる。



 呆然としてる女の子に中級ポーション(※俺特製高品質)を渡して、「こいつは貰うよ」と一声かける。



「ワンパン・・・」


 それ以上言ってはいけない。危険な香りがする。





 一撃必殺のからくりはこうだ。

 インパクトの瞬間に〈重量増加〉で100倍、300kgぐらい重さを乗せるのです。


〈重量軽減〉とかも気軽に使ってたけど、本来100倍とかそれ以上の重量変化は一晩がかりとかそれなりの詠唱準備が必要な『重い魔法』なのだ。

 それがいわゆる『転移者特典』?、心の中で「使うぞ!」と準備するぐらいは必要だけど無詠唱で発動することができるんだよね。


 この使い方に気がついてから、定番の短剣から背丈の長さの棒、鉄木棍てつぼくこんに切り替えてみたのですよ。

 これがぴったり嵌まっていい感じ。


 背丈ほどの棒を腕を伸ばして振るえば2m超える射程の「コンコン棒」にもなる。

 罠をわざと作動させる程度の衝撃を与えるにはちょうどいい距離なのです。




 投げナイフでも刺さるタイミングで1トンを超える加重はできると思うんだけど、練習しても投げて刺さらないんよね。

 加重するタイミングもなかなか厳しいし。


 才能の無さを感じる。






 そのへんの木を使ってクマさんを逆さ吊りにする。


 血は調合に使えるので血抜きを急ぐ。

 時間が経つと心臓で血が固まって魔石化するのだ。


 魔素を使って動いている魔物は体内の魔力を血のように巡らせているから、体内の魔石を狙って砕いたり抜き取ったりという一撃必殺なチート攻撃はできない。


 もちろん? カンペキに血抜きをすると、結晶化するはずの魔石は残らない。


 血も魔力も全て出し尽くして激戦の末に倒れたモンスターは魔石のグレードがだいぶ落ちたりするのも、上位冒険者には知られた話。


 血と体内魔力はイコールでは無いんだけど、一般人感覚ではいっしょに考えてて問題ない。





 魔力が結晶化するぐらい強いものなので、薬品など調合のグレードを上げるにはかなり使い勝手がいいものなのだ。


 魔物によっては、その血をそのまま飲むだけでもかなり効く即席魔力マナポーションになる。




 血抜きと内臓の処理を平列で進めていく。


 肝や心臓などなど、鮮度が大事なものを次々と〈梱包パック〉していく。

 血も200mlぐらいの瓶に何本も詰めて〈梱包〉する。


〈梱包〉魔法は内部の時間を抑えて品質劣化を防ぐものだ。


 この魔法、『ポーター』だから使えるというわけでもなさそうなんだよな。

 調薬とか錬金に手を出してるからなのかな、簡単そうな割に使ってる人のいない珍しい魔法だ。



 でも、みんな見慣れている。



 迷宮の食肉ドロップなどにはこの魔法がかかっていて、真空パックしたようなビニール膜で覆われているものなのだ。


 この真空パック、『時間停止』ではなく『遅延』。

『遅延』と言ってもドロップ品の生肉が常温で1週間ぐらいはいける。


 この膜は刃物で簡単に剥がすことができる。刃物で傷をつけると、するりと剥けて消えてしまう。


 ただ、一度膜をはがすと再梱包できる人はほとんどいない、というわけだ。




 30分ほどで血抜きと内臓処理を終える。あとは急がなくてもいい。

 なんなら1晩ぐらい川に沈めて体温下げたいぐらい。





 ひと段落ついて顔をあげると、3人がこちらを見ていた。


 集中しすぎて声を掛け辛かったかな。

 俺、そういうとこあるんだよな。反省。 



「「「ありがとうございました!!!」」」


 せーの、でタイミングを合わせてのお礼の言葉がかわいい。





「いいよ、命が助かっただけでも幸運だった。

 それより、そろそろ急いで戻らないと日が沈むまでに街に戻れなくなる」



 クマさん本体を〈梱包〉してリュックに収納押し込む。3人といっしょに街に急ぐ。





「あのっ、ポーションの代金は必ずお支払いしますから!」



「いいよ気にしないで。銀貨1枚にもならない薬草採取の依頼で金貨1枚のポーション使う事態になったのは、ほんとにただ不運だっただけ。


 助けてもらった恩を忘れないで、この先誰かを助けてあげられるチャンスがあればその人を助けてあげて。


 僕のほうはクマの毛皮だけでも金貨5枚にはなりそうだし、これだけ傷の無い素材なら剥製にしてもらえば金貨30枚ぐらいで売れるし。」




「はわぁ~、すごいですぅ~」




 物価の高い王都や迷宮都市でも、金貨10枚もあれば家族4人が1年普通に食べていける。

 浮浪者・乞食レベルでよければ銅貨1枚10円でも1日、1食の食事になるのだ。



 今日1日というかさっきの戦闘だけで1年はだらだらと過ごしていいだけの稼ぎを叩きだせるんだよ、冒険者って夢のある職業でしょ?


 まあ実際は敵の撃破以上に素材を傷つけない配慮などなど必要な、繊細な匠の仕事(自称)なんだけどね。




 街道まで出て街門まで戻る道中、「ただの」ってことをさんざん強調しておいたから、1年ぐらいでここまで届くんじゃないかと夢を見て勘違いしてくれるんじゃないかな。



 駄菓子菓子、ほぼ駆け出しの時期に死・全滅を覚悟しなければいけない体験をしてしまったらそれなりに慎重になるだろう。


 奇跡的とも言える良いバランスで伝える機会が出来たんじゃないかな。






 冒険者ギルドで報告したら、俺も巻き込んで叱られた。解せぬ。

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